狭田慶次の場合 / イガグリくん
「どりゃあああ!」
突如現れ、仲間たちを分断した光の壁に、狭田慶次は自らの拳を叩き付けた。しかし、手応えはない。光の壁が硬いのか、柔らかいのか。それすらも判断できない、妙な感触だ。
「なんじゃこりゃ!」
「禁断術だ。お前がどんなに叩いても壊れるものではない」
岩豪とかいう戦士の背中に乗る、緑色の髪の女が、どこか呆れたような調子で言う。それが無力と言われた気がして、狭田は不快感を覚えた。ただ、女はこうも呟く。
「十年前に破壊したものが最後だと思ったが……」
意味のない呟きと思った狭田は、ブレイブアーマーを解除しつつ、岩豪の方を見た。
「おい、岩豪とか言ったな。お前、確か皇の親友やったな?」
「おう。俺があいつの親友だ」
巨漢はどこか敵意を含んでいるように見える。が、このような態度に慣れている狭田は気することはない。
「戦士のお前がここにいるのは分かる。せやけど、お前の背中にいる女は何もんや」
「……俺に聞くな」
では、なぜ背に乗せているのだ、と聞く前に、その女が鼻を鳴らした。
「なぜ本人を目の前にして私自身に聞かない? あ、お前もしかして……」
女はニヤリと口元に笑みを浮かべる。
「シャイボーイか? スポーツに打ち込んでばかりで、女慣れしてないイガグリくんって感じだもんな」
「誰がイガグリくんや!女にだって慣れてるわ!」
「本当か? 母親や妹がいる、とかそんな言い訳はやめろよ?」
「…………」
言葉をなくして、顔を赤らめる狭田を見て、女はケラケラと笑う。
「お前、母親や妹からもらったバレンタインのチョコもカウントするタイプだろ? 耳の先まで真っ赤にして、恥ずかしいやつめ」
「赤くなんかなってない!」
二人のやり取りに区切りをつけるように、間に挟まる岩豪が溜め息を吐いた。
「お前ら、こんなところで争っている場合じゃないだろ」
「だったら、こいつが何者かお前が説明しろや!」
顔をしかめる岩豪。
嫌な空気が漂いそうになったが……。
「分かった分かった」
女は誇らしげに二度頷いた。
「イガグリ、お前には笑わせてもらったから名乗ってやろう。私はセレッソと言う。覚えておけ」
「だから、誰がイガグリやねん」
こいつ、ずっとイガグリって呼ぶつもりか?と嫌な予感を覚えつつ、狭田はセレッソと言う名前に抱いた印象をそのまま口にしてしまう。
「それにしても、セレッソなんて一昔前の名前やないか。よく堂々と名乗れたもんやな。俺だったら恥ずかしくて、お前みたく偉そうにできんわ」
「ひ、ひどい! 名前のこと、気にしているのに……!!」
女……セレッソの表情は痛みを覚えたように歪み、その瞳に涙が浮かんだ、かのように見えた。
「わ、悪かった。言い過ぎたわ」
女を泣かせるわけにはいかない。
動揺しつつ謝罪の言葉を口にしたが……。
「なんだ、ちゃんと謝れるタイプか。思ったよりは素直みたいだな」
あっけらかんとしたセレッソの態度に、再び怒りが湧き出すが、狭田は拳を握りしめ、ただ耐えるしかなかった。
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