【罠でも飛び込むのが勇者】
ワクソーム城の正門。
一番乗り、というわけにはいかなかったが、何とかたどり着いた。
門の前には、一番乗りだったのであろう、皇と狭田が立っている。
「よっしゃ、これだけ集まればええやろ。門を開くで」
狭田は関西弁に近い喋りで、集まる勇者たちに宣言する。
「この狭田慶次が一番乗りや! ブレイブチェーーーンジ!」
狭田が光に包まれると、金色のブレイブアーマーが全身をまとった。
「おりゃあ!」
そして、狭田がプラーナを集中させた拳で殴りつけると、ズンッという衝撃音の後、木製の門が砕け散った。そして、勇者たちがなだれ込み、テンションに任せて僕たちも中へ突っ込む。
しかし、城内へ続く入り口は多くの兵士によって守られていた。
「あれは強化兵だな」
ハナちゃんが呟く。
強化兵が相手なら、慎重に戦わないと……と思ったが、勇者たちは一気に突っ込んでいった。
「僕たちも行った方がいいのかな?」
「いや……ちょっと様子を見よう」
ハナちゃんは何を考えているのか、勇者と強化兵たちの戦いを少し離れたところから見ていた。僕は周囲の慌ただしさに、ただただ戸惑うばかりだが、岩豪も落ち着いて周りの様子を見ている。
「おい、神崎。あれって」
そんな岩豪が何かに気付いたのか、人差し指を正門の方へ向けた。
「お前の仲間だろ? あの女も戦士だったのか?」
「せ、セレッソ!?」
そこには、正門の近くで右往左往するセレッソの姿が。
「何やっているんだよ、こんなところで!」
駆け寄ると、セレッソは肩で息をしながら、涙に溢れた目を僕に向けた。
「お前こそ! 私と合流するまでワクソーム城に入るな、って約束を忘れてただろ! 私がどれだけ走ったと思っているんだ……。もう、息が苦しくて、死にそうだ……」
膝に手を置き、何とか息を整えようとするセレッソ。
「わ、悪かったよ。でも、そんな調子でワクソーム城についてきても、お前が危険なだけじゃないか?」
「そういう問題ではない。魔王に勝つには――」
「おい、誠! あれを見ろ」
ハナちゃんに呼ばれて振り返ると、彼女は勇者と強化兵たちの戦いとは、まったく別の方向を見ていた。同じ方向を見てみると……。
「皇と狭田だ」
「……あの二人、何をやっているんだ?」
皇と親しい岩豪すら訝しがる状況。
それは、皇と狭田が中腰の姿勢で何やらコソコソと移動していたのだった。
「別の入り口を見つけたのかもな」
ハナちゃんは呆れたように言う。
「あの二人、いつも戦績が良いと思ったら、そういうことだったのか」
「どういうこと?」
「仲間が戦っている間に、美味しいところだけ持って行ってたんだろ」
な、な、な、なんだってぇーーー!?
皇のやつ、エリートのくせにそんな狡いことしてたのかよ!!
拳を握り、怒りを露わにする僕を見て、ハナちゃんはイタズラを思いついたような笑顔を見せた。
「誠、あの二人だけに手柄を立てさせるわけには、いかないよなぁ?」
「もちろんだよ! 皇のやつ、絶対に許さないぞ!!」
「ここは俺も退けないところだな」
なぜか岩豪も機嫌を損ねたように眉の間にシワを寄せている。
「皇のやつ、俺以外の相棒を作るなんて……」
あ、そういう理由ね。
「待て、でかいの」
何とか息を整えたセレッソが、岩豪を引き止める。
「行くなら私を運べ」
そう言って岩豪の後ろに回ると、セレッソは急に背中に飛び乗った。
「何だお前! くっつくな!」
岩豪は体を揺すってセレッソを振り落とそうとする。が、たぶん人の良さが出ているのか、セレッソが怪我しないよう、遠慮がちだ。そんな岩豪をセレッソはからかう。
「なんだ、お前。初心な反応だな。女に密着されるのは初めてか?」
「う、うるさい! 神崎、こいつを何とかしてくれ」
「岩豪くん、悪いけどセレッソを頼んだ!」
「おい!」
ハナちゃんを先頭に、皇と狭田の後を追う。二人は正面入り口と別に、小さなドアを見つけたらしかった。
「おい、お前ら」
ハナちゃんが後ろから声をかけると、素早く振り返る二人。さすがは反応が速い。
「なんや、綿谷華か」
ほっと息吐く狭田。皇は特に表情を変えない。
「言いたいことは分かる」
狭田はハナちゃんが言葉を発する前に主導権を握る。
「でもな、今回は最終決戦や。仲間内で争っている場合ちゃうやろ? ここは共闘と行こうや」
それを言うなら、他の勇者たちと協力して正面から戦うのが一番なんじゃないの?
「分かった」
しかし、ハナちゃんはあっさりと了承する。
「だがな、イワンは譲らない。ブレイブ・オブ・ブレイブは私のものだ」
「ブレイブ・オブ・ブレイブ??」
聞き慣れない言葉に僕は首を傾げる。雨宮くんがいれば解説してくれるところなんだけど……。
「勇者の中の勇者。最強の勇者に与えられる称号だ」
どこか呆れたように、岩豪が説明してくれた。
「あいつら、こんなときに……。気持ちは分からんでもないが」
「イワンを捕える、もしくは討てばその称号を得られる、ということか」
岩豪の背中にいるセレッソも鼻を鳴らす。
「勇者を目指すやつは最強と言う言葉に弱いからな。こういうところで欲深さが出るんだろう」
「そういうことだ」
岩豪は背中の上で喋られていることに釈然としていないようだが、自分を納得させるように頷いた。
そして、狭田のこんな言葉によって締めくくられる。
「分かってる分かってる。そこはフェアに行こか」
ハナちゃんも頷き、同意を得たということで、狭田が城内に続く小さな扉を開いたのだが……。
僕たちは、自分たちが飛んで火にいる夏の虫だったことに、まったく気付いていないのだった。
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