【意外な妨害者】
フィオナの言う、合流ポイントに到着すると、周りはオクトの仲間たちばかりだった。
「誠ー!」
この声は、と僕は右へ左へ自然を巡らせる。
「こっちだ。こっち!」
「ハナちゃん!」
長い赤い髪を揺らしながら、ハナちゃんがこちらへ駆けてくる。
「怪我はないか?」
「うん。ハナちゃんの方は?」
「誰に言っているんだよ。まぁ、ここまで攻め入るのも簡単じゃなかったけどな」
ここはアッシアの首都で守りも堅かったはず。振り返って、ハナちゃんたちがこれまで進んできただろう道を見てみると、戦いの激しさを物語るような破壊の痕跡が見られた。
「でも大丈夫だ。私だってまだやれる」
そう言ってハナちゃんは笑うけれど、僕は不安な気持ちでいっぱいだった。ハナちゃんが無事だったことはもちろん嬉しいけど、この先は何があるか分からない。
何らかの理不尽で、ハナちゃんも一瞬で死んでしまうかもしれないのだ。そして、こんな気持ちにさせている張本人がどこかで笑っているかもしれない、と思うと胸糞が悪かった。
「誠?」
ハナちゃんが僕の顔を覗き込んでいた。
「何かあったのか?」
「な、何でもないよ」
ここからは決戦だ。
ハナちゃんに無駄な心配をさせるわけにはいかない。
じっと見つめてくるハナちゃんが何かを言いかけたが、フィオナの声が聞こえてきた。
「これから、ワクソーム城の攻略を開始します。この戦いが終われば、私たちは世界に平和をもたらした戦士として語り継がれるでしょう。最後の戦いです。皆の命、もう一度だけ私に預けてください」
フィオナの話が終わると、各部隊の隊長らしい人たちが指示を出し、オクトの戦士たちが移動を始める。僕はどこに行くべきなのだろう……?
「誠、お前もこっちだ」
ハナちゃんが僕の腕をつかんで引っ張る。
「ここからは何があるか分からない。私から離れるなよ」
……ハナちゃんも同じことを考えてたのだろうか。作戦前、ちょっと変な感じで別れたのに。
だったら、ハナちゃんのことは絶対に僕が守らないと。何があっても。
「絶対、二人で戦い抜こうね」
「当たり前だろ」
僕たちと一緒に戦う部隊は、全部で百人くらいだろうか。中には皇や狭田もいたけれど、一緒に任命式に出た仲間は、他に見当たらなかった。ハナちゃんは言う。
「最初にワクソーム城へ踏み入る精鋭が集まっている。だから、お前も必死についてこいよ」
僕は頷く。
いつもなら、僕みたいな人間が参加していいのだろうか、と迷うところだが、今回はもっと違った感情が僕を突き動かしていた。
絶対にイワンのところにたどり着いてみせる。
そう思っていたのだが……。
「神崎誠。貴方は戦う必要はありません」
「え?」
フィオナだった。
「貴方の役目は私の護衛です。ワクソーム城攻略まで参加するよう指示した覚えはありません」
「で、でも皇だって……」
「皇颯斗には指示を出しました。しかし、貴方にはそんな指示は出していません。私の護衛だけです」
……そ、そう言われてみれば、そうだったかも。
「だけどさ、この流れは絶対に僕も参加すべきじゃないか? そうじゃないと、おかしいだろ」
「この流れとは、どの流れですか? そんな流れ、誰も感じていませんよ」
た、確かに……変に盛り上がっているのは僕だけかもしれない。けど……。
「分かった。流れとかは関係ない。とにかく、僕もワクソーム城に行かせてくれ!」
しかし、フィオナは断固とした表情で首を横に振る。
「ダメ。貴方は私の傍にいなさい。これは命令です」
「ま、マジかよ」
最終決戦を前に、意外な敵が僕の前に立ちはだかるのだった……。
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