【世界の歪みは】
皇を先頭に、僕たちはオクトの皆がいるだろう場所へ向かった。途中、何度も巨大な火の玉が落ちてきたが、大事にならなかった。
たぶん、あれは流れ弾のようなものだったのだろう。理不尽な世界だ。アオイちゃんは十分につらい環境で育ったはずなのに、最後はただの不運で死んでしまった。
どうして、こんな理不尽を生み出そうとする? 戦争なんて人が不幸になるだけで無意味じゃないか。誰がこんなことを……。
「誠さま」
僕の思考を遮ったのは、いつの間にか隣を歩いていたリリさんだった。
「私たち姉妹は誠さまに救われました。あのときは分かりませんでしたが、とても感謝しています。だから……その、上手く伝えることはできませんが、あまり自分を責めないでください」
「でも、僕のせいだ」
「ここは戦場です。今この瞬間も、誰かが死んでいます。それが、たまたま誠さまの前で起こっただけ。だから、誠さまのせいではありません」
「じゃあ、誰のせいなんだ……」
僕の呟きは、ほとんど八つ当たりみたいなものだった。答えのない、意地悪な質問でリリさんを困らせようとする。そんな八つ当たりに近いものだったのに……。
「イワンです」
リリさんは明確に答えるのだった。
「イワン・ソロヴィエフ。アッシアの首相がこの戦争の元凶です」
リリさんの言葉にに、僕の記憶が呼び起こされる。
――この戦いを乗り越えて、もっと強い勇者になって……そしたら、魔王とイワンを倒してね。
アリサさんが言っていた。
今のアッシアはイワンの悪意によって動いていると。
「イワンってやつが、アオイちゃんを……!!」
そうか。そういうことだったのか。
アオイちゃんだけじゃない。リリさんの姉であるメメさん。アリサさんも。アッシアの船に乗っていたみんなだって、あいつに殺されたんだ。
だとしたら、アオイちゃんが死ぬよりも、彼ら彼女らが死ぬのではなく、イワンってやつこそが死ぬべきだったんじゃないか。
そうじゃなければ、この世の中は歪んでいる。あまりに歪だ。もしかしたら、そのイワンこそ歪みの正体なんじゃないか。
「イワン・ソロヴィエフ。絶対に……」
絶対に……なんだ?
僕は何を言おうとしたのだろう?
困惑する僕を、リリさんも不思議そうに見つめていた。
「リリさん、ありがとう。僕は何をすべきか、分かった気がする」
「私は何も……」
リリさんは目を逸らすと、どこか遠くを見つめた。同じ方向に目をやると、そこには一際大きな建造物が。
「ワクソーム城ね」
フィオナも同じものを見ていたらしく、その建物の正体を明かしてくれる。あれがワクソーム城か。だとしたら、イワンはあそこにいる。そう思うと握った拳に、自然と力が入るのだった。
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