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【僕が殺した】

「まずい! 全員、すぐに外へ!」


皇が叫んだとき、僕はまずフィオナに手を伸ばした。何があっても彼女を守らなければならない。勇者としての使命が僕を動かしたのだ。同時に、僕たちより出口に近かったリリさんとエックスさんが、皇に引っ張られて外に出て行く様子が見えた。


だったら、アオイちゃんは――??


彼女は僕らよりも後ろにいたはず。振り返れ。振り返って助けるんだ。


しかし、とんでもない熱が僕らを押し潰そうとしていた。きっと、巨大な熱の塊が、すぐ真上まで迫っているのだ。僕はできなかった。フィオナを助けるべきだ。そんな言い訳を盾にして、死にたくないという自分の気持ちを優先し、出口へ飛び出したのである。


爆音と熱に背を押され、僕たちは宙に投げ出された。一瞬の浮遊感の後、地に体を打ち付けるが、雪が衝撃を和らげてくれたらしい。


顔を上げ、飛び出した出口の方を見ると……どんな衝撃が加わったのか、扉は潰れて炎に包まれていた。


「こ、これって……」


そして、僕は気付く。

目の前に落ちている白い腕。


細くて小さな腕は、間違いなくアオイちゃんのものだった。


「う、嘘だ……!!」


ぞっと全身に鳥肌が。

そして、経験したことないような吐き気。


「ぐ、ぐえぇ」


僕が殺した。

僕が助けなかったら、彼女は死んだんだ!


「誠、貴方のせいじゃない」


背中に温かい感触が。

たぶん、フィオナの手だ。


だけど、吐き気は止まらず、胃は内容物を空にしても許してくれそうになかった。


「ちがう、僕が……僕が殺した!」


そうだ、許されるべきじゃない。

僕が殺したんだから。


彼女はつらい日々を抜けて、やっと戦争と無縁の生活を手にしようとしていたのに。何も期待していなかった彼女が、喜びだったり優しだったり、生きる楽しさを実感する日がやってくるはずだった。それなのに――。


「僕が殺したんだ!!」


拳を地面に叩き付けると、鈍い痛みが広がる。でも、こんな痛みだけで許されていいわけがない。


「貴方のせいじゃない」


フィオナは繰り返すと、僕を抱きしめた。正面から、僕を包むように。それでも、僕は吐き気が止まらず、フィオナの服を汚してしまうんじゃないか、と彼女を押しのけようとした。でも、彼女は余計に強く僕を包み込む。


「大丈夫。今は私の体温だけを感じて。それ以外は何も考えない。分かった?」


フィオナに抱きしめられながら、嘔吐を繰り返したが、それでも彼女は僕を離すことはなかった。それから、どれだけの時間が過ぎただろうか。僕は涙と鼻水を流しながら、ただフィオナに体を委ねる。その間、何度も爆発音や揺れを感じた。


「姫様、そろそろ危険です」


皇の声が。


「私は誠が落ち着くまで、ここにいるから。貴方たちは先に合流ポイントへ向かっていて」


「……いや、大丈夫。動けるよ」


僕は顔を上げた。

酷い状態を皆に見せたくなかったけど、いつまでも泣いているわけにはいかない。


「汚して、ごめん……」


思った通り、フィオナの迷彩服は僕から出た液で汚れていた。決まりが悪いと感じる僕だったが、フィオナはいつもの調子で言うのだった。


「気にしないで。それより、本当に大丈夫?」


僕は頷いた。


「そう。じゃあ、合流ポイントまで歩きましょう。苦しくなったら、すぐに声かけて」

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