【黒幕の気配?】
「こんな状態で切り札を使うのは気に入らないけれど……仕方ない! ブレイブモード!」
『ブレイブモード、スタンバイ』
キィィィーーーン!と耳鳴りのような音と共に、ブレイブアーマーが光り出す。そして、視界に「00:30」とタイムカウンターが表示され、カウントダウンが始まった。
僕は即座に立ってブライアの方へ走る。
「うわぁ!」
今までとは比べられないスピードに戸惑っていると、勢い余ってブライアの背後を通り抜けてしまった。
「まずい!」
切り返して再び走り出そうとすると驚愕の表情で背後を確認するブライアの姿が。どうやら何が起こったのか理解していないらしい。
だが、いつの間にか移動している僕の姿を見つけ、困惑の表情を浮かべたものの、それはすぐに怒りへ変わった。
「そんなもので、ヴァジュラを止められると思うなぁーーー!」
再び放たれるヴァジュラの閃光。
凄まじい熱光線で、壁や天井を消滅させてしまうが、僕のスピードはブライアの反射神経を上回っているため、決して捉えられることはない。
「ヴァジュラを返せ!」
ブライアの左側に回り込みつつ、少しずつ距離を詰めていく。
これなら、あと少しで接近できるはず!
「く、くるなぁぁぁーーー!」
ヴァジュラが振り回されるが、それは僕の横手を抜けていく。このまま駆け抜ければ、あいつを捕まえられるぞ……!!
直進する僕だったが、ブライアの向こうにフィオナたちの姿が見えた。
そして、その頭上には天井から崩れた瓦礫の塊が。
「危ない!」
僕の声が聞こえずとも、いち早く危険に気付いたエックスさんが、フィオナとアオイちゃんを安全な場所へと押しやる。だが、彼女自身はバランスでも崩したのか跪いてしまった。
このままだとエックスさんが瓦礫の下敷きに!!
もっと速く走らないと!
そう意識したら、プラーナが両足へ流れ込むような感覚があった。
そして、一気に加速。エックスさんの頭上へ飛び上がり、彼女がやってみせたように、回し蹴りで瓦礫の塊を破壊した。
着地と同時にブレイブチェンジを解除する。ブレイブモードの時間に余裕はあったが、念のためだ。
「エックスさん、大丈夫ですか??」
駆け寄ってから、すぐに手を差し伸べると、彼女は何やら困惑しているみたいたった。
「え、ええ。助かりました」
彼女を立ち上がらせ、フィオナの方を見る。頷いたところを見ると、フィオナもアオイちゃん、それからリリさんも無事らしい。
「しかし、どうして私を助けたのです?」
エックスさんが言う。
「そんな余裕があったのなら、ヴァジュラを取り返すべきだったのでは?」
「ヴァジュラの方は大丈夫です。だって、ほら。攻撃も止んでるでしょう?」
これは言うまでもない。
僕が必死になってブライアからヴァジュラを奪い返さなくとも、あの天才様が何とかしてくれるのだから。
実際、振り返ってみると、うつ伏せ状態のブライアは皇に拘束され、ヴァジュラは瓦礫と一緒に転がっていた。僕は溜め息を吐いてから言う。
「それに、エックスさんが危ないのに放っておけませんよ。さっき、助けてもらったばかりだし。あと……」
あと、なんだろう。あ、そうだ。自分を犠牲にして誰かを助けようとした人が酷い目に合うなんて、僕には見過ごせない。だから……。
「エックスさんのこと、絶対に助けたいと思ったんです」
「……絶対に、ですか?」
「はい」
目出し帽を被っているので、エックスさんの表情はいまいち分からないけど、なぜか驚いているみたいだった。僕、そんなに変なこと言ったか?
「コホン」
とエックスさんは胡散臭い咳払いをする。
「なるほどなるほど。不覚ではありますが、私、綿谷さんの気持ちが少しばかり分かってしまった気がします。しかししかし、こんな気持ちを抱くことすら、例の約束を破っているようで罪悪感に苛まれてしまいます。ああ、私ったら何て義理堅い女なのでしょう」
「……あの、何をぶつぶつ言っているんですか?」
早口でぼそぼそと言われてしまったので、もう一度聞き直そうと思ったが、彼女はそれを制するように手の平をこちらに向けた。
「いいえ、聞かないでください。聞こえなかったことにしてください。私は敗北者。それなのに、約束まで破ってしまったら、不義理どころか情けないを通り越して憐れなものです。だから、ここはご勘弁を。それより……」
「それより、ヴァジュラを回収しましょう」
いつの間にか、僕たちの後ろにフィオナが立っていた。
「こうげ……じゃなくて。えーっと、エックスさん。ヴァジュラ回収用のケースを出してください」
「承知しました」
エックスさんは背中に背負っていた筒状のケースを渡す。フィオナはそれを受け取ってから、ヴァジュラの方へ向かい、淡々とした態度で拾い上げると、ケースの中に収めた。そして、ブライアの方には目をくれることもなく、その場を立ち去ろうと背を向ける。
「フィオナ!」
そんな彼女をブライアは引き止めた。フィオナが足を止めると、ブライアは悪意に満ちた笑みを浮かべる。
「僕が憎いか? 裏切られてどんな気持ちだ!?」
あいつは何を確認しているのだろう。僕にはその気持ちが理解できない。だけど、フィオナはゆっくりと振り返り、温度が感じられない声で告げるのだった。
「どんな気持ち……? 特に何も。貴方にはまるで興味がありませんから。私の前に置かれた石ころと同じ。小さな障害のようなものです」
ま、マジがよ。会ったばかりのときは、ブライアにベタベタしていたのに、すっかり忘れましたって顔しているじゃないか。そんなフィオナを見て、当のブライアは表情を歪める。
「嘘を吐くな! 憎いと言え! オクトの血を引くやつは呪われるべきなんだ!」
「黙るんだ」
ブライアの恨言を遮るのは皇だ。拘束に力を込めたらしく、ブライアは悲鳴を上げる。そのとき、リリさんが顔を背けたところを見ると、どうしても同情してしまう。
「どうしますか?」
皇の問いにフィオナは冷淡な口調で答える。
「少しばかりは情報を引き出せるかもしれません。連行は可能ですか?」
「分かりました」
皇がブライアを無理やり立たせたが、僕の視界が少しだけぼやけたような気がした。ブライアの腕の辺りが、なぜか歪んで見える。だが、それは気のせいではなかった。ブライアが先程よりも大きな悲鳴……いや、絶叫を上げたのだった。
「な、なんだ?」
ブライアの腕がねじれている。あり得ない方向に。皇がやったわけではなさそうだ。なぜなら、皇が珍しく驚きの表情を見せていたから。すると、どこから声が降ってきた。
「外した? いえ、私の攻撃を察知しましたね。さすがはオクト最強の勇者、といったところですか」
声の主はどこに?
周囲を警戒するが、それらしい人物は見当たらない。だけど、リリさんだけは声の正体に心当たりがあったらしい。
「ナターシャ様?」
「ナターシャ? 何者なんですか?」
青ざめた顔でリリさんは答える。
「ブライア様を組織に引き入れた、張本人です」
ブライアの絶叫が不自然に途切れる。何があったのか、ブライアの方を見てみると……彼の首がねじ曲がり、口から泡を吹きながら崩れるところだった。
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