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【そんな卑怯な手は絶対に許せない!!】

木々の中をしばらく歩くと、突然ドアが現れた。雪景色の森の中に、ポツンとドアが設置されているのだ。先頭を歩いていたリリさんが、そのドアに向かって指をさす。


「あれです」


「入り口に見張りはありませんね。ニア、聞こえる?」


フィオナは耳に手を当てる。

無線のイヤホンらしいものを装着しているので、ニアとつながっているのだろう。


「皇颯斗、ドアのロックは外れています。安全の確保をお願いします」


「分かりました」


「貴方も行きなさい」


「あ、僕も?」


フィオナが「当たり前でしょ」という視線で僕の背を押す。先に行こうとする皇を追ったが、今度はリリさんに引き止められた。


「ドアの向こうは地下に続く階段になっています。降りたところには、最低でも四人の見張りがいるはずです」


「ありがとうございます。すぐに戻りますね」


僕は再び皇の後を追おうとしたが……

フィオナとリリさんを二人にしていいのかな?


だが、フィオナの方を見ても「早く行きなさいよ」と言われてしまう。困惑しながら視線をさ迷わせると……例の副操縦士さんと目が合った。


ぐっ、と親指を立てる副操縦士さん。


いやいや、ここで任せろ的なジェスチャー見せられても!!


まぁ、リリさんがフィオナを襲うなんてことはないだろうけど、いないよりはマシか。って言うか、フィオナも副操縦士さんのことを護衛として数に入れている気がするけど……。


「おい、皇。待てよ」


取り敢えずは、やるべきことを……と考え、今度こそ皇に追いつく。


「あのドアの向こうは地下に続く階段で、降りたところには護衛が四人はいるはずだってよ」


「そう。騒ぎになる前に排除するから、君は邪魔しないで」


「邪魔ってなんだよ……!!」


こいつ、また三角締めで泡吹かせてやろうか!?


しかし、騒ぐわけにはいかないので、僕は黙って皇の後を歩く。皇は前で立ち止まると、ドアの前にあるパネルを操作し始めた。


ピピッ、という電子音の後、ドアがゆっくりと開かれる……


けど、敵の基地に潜入するって言うのに、こんなに堂々としてて大丈夫か?


ドアの上に設置されている監視カメラが僕らを捉えているみたいだけど。


そんな僕の心配を無視して、ドアが開ききる前に皇は基地の中へ飛び込んでいった。


「え、マジで??」


皇が階段を一気に駆け下りて行く。

もう少し慎重に行った方がいいんじゃないの??


とは言え、僕も待っているわけにはいかない。慌てて階段を降りた。


皇が階段を降りきると「バキッ」と人を殴る音が。僕も階段を降りきると、既にアッシアの兵士が一人、既に失神している。さらに、もう一人倒れ、皇は次の敵を制圧しようとしていた。


「ど、どうして敵が!?」


動揺するアッシア兵がさらに一人!

こいつは僕が倒さないと!


「でえぇぇぇいっ!」


僕はとっさに殴りかかるが、ひょいっと避けられ、反撃の一撃を受けてしまう。ぐっ、と敵の拳が腹にめりこんで、内臓が口から飛び出しそうになった。


だが、その手首をつかんでから捻り上げ、ハナちゃんに習った一本背負いで床に叩きつける。


「せいやっ!」


とどめの一撃で意識を奪い、他に敵がいないか視線を巡らせた。が、立っているのは僕の他に皇だけ。


「……君、何考えているの?」


「え?」


いつも無表情だから分からないけど、たぶん呆れているみたいだ。


「敵の基地に潜入しているのに、そんなに大声出したら見付かるよ?」


……そ、その通りじゃないか。


「で、でも……僕がこの兵士を倒さなかったら、大変なことになっていたじゃないか」


「そんなことないよ。君がいなくても、僕一人で全員倒していた」


「いいや。僕がいなかったら、絶対逃げられてたね」


「……一人しか倒していなのに、偉そうにしないでもらえるかな?」


数でマウントかよ。

器の小さい野郎だな。


「お前が最初に突っ込んだから三人倒せただけで、僕が先だったら四人倒してたはずだ」


「じゃあ、いいよ。この先、どっちが多くの敵を倒せるか、競争しようか?」


……いや、それは絶対に勝てないだろ。でも、ここで引き下がれるか?


「面白いじゃないか。僕が勝ったら、お前は皆の前で『勇者決定戦のとき、神崎誠さんに負けてました』って言うんだぞ」


痛いところを突いてやったつもりが、皇は少しも表情を変えない。


「負けたとは思っていないけれど、いいよ。でも、僕が勝ったら君はどうするの?」


「ど、どうするって……」


な、なんだ?

こいつ、僕に罰ゲームでもさせたいのか??


「そうだ、いいことを思いついた」


いいこと、と言いながら、少しも笑顔を見せず、皇が一歩だけ距離を詰めてきた。


なんだ?

こいつ、僕を睨んでいるのか?


妙な威圧感を放ちながら皇は言う。


「僕が勝ったら、君は綿谷先輩と口を利くな。一生、彼女と会話したらダメってことに――」


「ごめんなさい、皇くん。僕が間違っていたよ」


「……」


「ごめん、本当に」


「……」


「…………」


「……僕はもう少し周辺の安全を確認しておくから、君はフィオナ様を呼んできたら?」


「うん、そうしようと思っていたところだよ」


「じゃあ、そうして」


皇は通路の奥へ。

僕は階段を上ってフィオナたちが待つ方へ向かいながら思った……。



あのシスコン野郎めぇぇぇーーー!!



なんて卑怯な手を使うんだ!



許さない! 許さないからなぁぁぁーーー!!!


「見張りは排除したから、中に入れるよ」


「……そう。じゃあ、行きましょう」


フィオナの言葉に、リリさんと副操縦士さんが頷く。僕が先頭を歩き、基地の方へ向かうが、後ろにいるフィオナが珍しく遠慮がちな調子で、副操縦士さんと話していた。


「ねぇ、誠のやつ……なんか怒っているように見えない?」


お、怒ってねぇよ!!


ちくしょう、皇のやつ……。

この戦いで、絶対にお前より活躍してやる!


いや、どこか一部分で良いから、お前より活躍してやるからな!!

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