【その話、後じゃダメ?】
これが、皇の葬式なんかをやった経緯である。
作戦を知っている人の中には、皇の死によってオクト側の指揮が落ちるのでは、という指摘があったそうだけど、それはフィオナの演説を聞いて、逆にモチベーションが上がった戦士が多かったのだとか。
で、今日は作戦当日。
時刻は深夜三時。僕は皇と一緒に集合場所へやってきた。
そこは薄暗い倉庫で、雨宮くんとニア、フィオナ、ハナちゃん、リリさん、それからセレッソの姿もある。ニアとフィオナは珍しく迷彩服だけど、リリさんはなぜかメイド服だ。
……なんで?
「これで全員集合ね。じゃあ、ニア。説明をお願い」
リリさんの服装には誰も触れることなく、フィオナがニアに作戦の説明を促す。ニアはいつもに比べ、暗い表情だ。目の下のクマを見る限り、まだまともに眠る時間はまだ確保できていないのだろう。
「えーっと、まず皆さんにはこちらに乗り込んでいただきます」
ニアが言うと、タイミングを見計らっていたかのように、彼女の背後がライトアップされた。薄暗くて分からなかったが、そこにはヘリコプターが。
「こちらは偵察用のヘリコプターでステルス機能付きです。こちらで施設の近くまで移動。雨宮さんが施設の通信アンテナにこれを撃ち込みます」
ニアが取り出したのは、弾丸サイズの小さな装置だ。
「これが通信アンテナに設置できれば、十分ほどで私が施設のセキュリティを掌握できるはずです。なので、その間にフィオナ様たちはヘリコプターを降りて、徒歩で施設へ向かってください」
「メンバーは五人です」
フィオナが補足する。
ん? 五人だって?
「私に皇颯斗、神崎誠、内部構造を知る捕虜、それからこの方、ヘリの副操縦士さんです」
フィオナの横に迷彩服を着た小柄な男性が。ヘルメットを深々とかぶっているので、あまり顔が見えないのだが……。
「なんで副操縦士さんが?」
僕と雨宮さんが声を揃えるが、その疑問はスルーされてしまう。
「ニア、続きを」
「はい。中の構造は少しだけ解析できましたが不十分なので、詳しいことはリリさんを頼ってください。あと、セキュリティはハッキングから一時間、あらゆる異常を無視します。逆に言うと、時間内にヴァジュラを奪還しなければ、任務の難易度が上がってしまうので、早めに任務を完了してください。私からは以上です」
フィオナがさらに説明する。
「作戦開始から一時間後、オクト軍はワクソーム城を攻めます。施設を部分的に解析した結果、地下通路でワクソーム城の近くまでつながっていることが分かりました。そのため、皇颯斗はヴァジュラを回収したら、その地下通路を移動。そのままにワクソーム城攻略に参加することになるので、そのつもりで」
皇は頷く。
そうか、連戦になるわけか。
最終決戦だもんな。色々ときついことになりそうだ。
「では、出発します。ヘリコプターに乗り込んで」
フィオナの指示に全員が動き出したが、ふらふらとした足取りでニアもヘリコプターの方へ歩き出す。
「え、ニアも行くの?」
声をかけると、虚ろな目をしたニアがこちらを振り向いた。
「はい。離れすぎると、敵のセキュリティにアクセスできなくなってしまうので。私はヘリコプターで待機しています。あ、そうだ」
ニアは何かを思い出したようだが、その場で崩れそうになる。何とかその身体を支えるが……。
「忘れるところでした。誠さんのために、ブレイブアーマーの強化プログラムも作ったんです」
「あ、あれだけ忙しそうだったのに……?」
「頑張りましたよぉ。最終決戦用のプログラムです。誠さんが好きそうなやつなので、ヘリの中で説明しますね」
「ニア……。ありがとう! 本当に天才だ!」
「……えへへへっ」
いつもなら褒めるともっと嬉しそうにするんだけど、今日は本当に限界みたいだ。
「新しい機能が付いたからって、気を弛めないでよね」
そこに入ってきたのはフィオナだ。
「大丈夫だよ。王女様の護衛役なんだから、いつも以上に気を引き締めるって」
「頼りにするわ」
フィオナとニアが先にヘリコプターに乗り込む。皇と雨宮くん、リリさんも既に乗り込んでいたらしく、僕が最後みたいだ
「誠!」
振り返ると、ハナちゃんとセレッソが。
見送ってくれるのかな。
「えっと……。気を付けろよ」
「ありがとう! ハナちゃんも無理しないようにね」
「うん……」
あれ? ハナちゃん、元気ない?
どうしたんだろう?
すると、いつの間にかハナちゃんの横に、副操縦士さんが立っていた。副操縦士さんは、なぜかハナちゃんのことを肘で小突く。
「お、お前……。やめろよ!」
ハナちゃんが顔を真っ赤にしながら副操縦士さんを手で押すと、彼はその場を立ち去ってヘリコプターに乗り込んだ。何だか仲が良さそうな雰囲気だったけど……誰なんだ?
「あの人、ハナちゃんの友達?」
「と、友達なんかじゃない」
なんだなんだ??
ハナちゃん、何か隠してない??
「それより、さ」
ハナちゃんは顔を赤く染めたまま、俯き加減で言うのだった。
「お前、最近……フィオナ様と仲良いよな」
「え、あ、ええ? あ、えーっと、そうなの、かな?」
ハナちゃんの後ろに立つセレッソが薄っすらと笑った。
お前、マジで余計なこと言うなよ。
って言うか、話が変な方向に行ったら、フォローしろよ!!
しかし、女神様の表情を見たところ、ナイスフォローは期待するだけ無駄のようだった。
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