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【ラブコメな日々②】

『勇者、神崎誠は至急司令室へ。フィオナ様がお呼びです』


お昼休憩も終わって、葬儀の準備を手伝いを再開するつもりが、艦内アナウンスで呼び出されてしまった。


プシュッ、という音と共に司令室の自動ドアが開いたかと思うと、僕は物凄い力で中に引き込まれる。大怪獣に鷲掴みにされ、一瞬で飲み込まれたような勢いだったが……。


「もう! 遅い!」


そこにいたのは、もちろん怪獣ではなく、妖精のような真っ直ぐな銀髪を揺らす王女様、


フィオナだった。


「艦内アナウンスから三分も経ってないつもりだったけど……?」


怒らせまいと急いできたのだ。

しかし、王女様は不満げである。


「そうじゃなくて、約束したでしょ。一緒にお昼食べるって」


「えっ?」


そんな約束したっけ……とフィオナとの会話を再生する。


「もしかして、リリさんのときの……?」


フィオナは頷く。


が、あのときって「お昼なんて私のやつを分けてあげるから、一緒に食べればいいでしょ」ってフィオナが言っただけで、約束なんてしてないような……。


「何でもいいから早く食べるわよ。どれだけ待たせるんだか……」


「でもあのときってさ……」


説明すると、フィオナは首を傾げた。


「そうだった?」


「そうだよ」


「…………ま、いいじゃない。私は毎日いろいろな情報が頭の中で暴れまわって大変なんだから、ちょっとした言葉のかけ違いは、貴方の方が合わせなさい」


「なんてパワハラ気質の王女様なんだ」


「何よ、私の楽しみを奪うわけ?」


「楽しみ、だったの?」


意外なワードが出てきたので、思わず繰り返してみると、フィオナは顔を赤らめるが、こちらを睨みつけてくる。


「ええ、楽しみでしたとも。ダメなの? 貴方と一緒にご飯食べたいって思ったら!」


「そ、そんなことありません!」


「じゃあ、早く座って」


言われるがまま、ソファに腰を下ろしたが、テーブルの上には弁当の箱が二つ。王女様に用意された弁当なのだから、グレードが高いものかと思ってたけど、僕たちが食べているのと変わらないじゃないか。


それでもフィオナは特に不満もないらしく、僕の向かい側に座るとお弁当の蓋を開けると「いただきます」と呟いた。


「貴方、葬儀の準備を手伝っているって本当?」


「うん。大したことはできないけど、資材を運んだり、ごみが出たら片付けたり、雑用程度はやっているよ」


「分かっていると思うけど、勇者は手伝わなくていいんだからね?」


……これ、ハナちゃんのときと同じパターンじゃないか。


「少しでも誰かの役に立ちたい、とか思っているんでしょうけど、無理はしないで。勇者は戦いのときに力を発揮するものなんだから、それ以外の時間は休むこと。それも仕事の一部よ」


そうなんだろうけど、その戦いで役に立ててないんだよなぁ……。


それから少しだけ沈黙が続いたがフィオナが軽く咳払いしてから、思ってもいない話題を振ってきたのだった。


「そういえば、貴方って異世界から来たのよね」


「うん。セレッソのやつに連れてこられた」


「どんな生活してたの?」


「どんなって……。普通だよ。こっちで言うスクールみたいな場所に通って、何となく勉強するだけで目指すものもなく、楽しみを見出すこともなく、ただ何となく生きていただけ」


「……帰りを待っている人とか、いないの?」


「あー、両親はどう思っているんだろう」


心配はしているよな。

うちの親は本当に普通だから、普通に心配して普通に悲しんでいると思う。


「じゃあ、親以外は?」


「親以外?」


他に誰かいるか?

フィオナは再び咳払いをしてから、具体例を出す。


「友達とか。……こ、恋人とか?」


「友達ねぇ。僕って本当に無気力なやつだったから、友達すらできなかったんだ。中学のときはそれなりにいたけどさ、高校に入ってからは全然。友達ってさ、努力しないとできないもんだよな」


「そう。で?」


「で?」


「だから、友達とか……恋人とか」


「恋人がいたか、って質問?」


なんだ?

からかっているのか?


「いるわけないだろ。僕みたいなもんが」


「へぇ」


フィオナはお弁当をテーブルに置き、お茶の入ったコップをゆっくりと持ち上げる。さすがは王女様ってだけあって、お茶を飲む姿も気品に溢れているじゃないか。


そして、コップを手にしたまま、横を向くのだが、そちらには壁があるばかり。どういう意味があるのか、フィオナは壁を見つめながら聞くのだった。


「じゃあ、今は?」


「今って?」


「だから、今は恋人いるのかって聞いているの」


「そりゃ……いないけど」


いないけど、僕とハナちゃんの関係って何だろう。


スクールの先輩と後輩。友達。練習仲間?


ハナちゃんから、それだけの関係だと思われていたら、少し落ち込むよなぁ。でも、僕なんて所詮そんなものだろうし……。


「じゃあさ」


フィオナは続ける。


「誰かに好きです、って告白されたこともないの?」


「何だよ、僕のこと落ち込ませてどうするんだ?」


「ないの?」


「……ないよ」


「ふーん」


……なんだ?

どういうこと?


質問の意図をつかめず混乱する僕だったが、フィオナはなぜか笑顔で立ち上がると、ソファから離れる。何をするんだろう、と彼女の動きを目で追うと……


ソファから離れたのではなく、僕の横に移動するとなぜか隣に腰を下ろしたのだ。


ち、近いし、凄い良い匂いが……。


「じゃあ、もしもなんだけど」


なぜか隣でモジモジするフィオナ。


「誰かに告白されたりしたら、それって誠にとって初めての経験ってこと?」


「そうだけど……」


「そっか……」


な、なに?

え、そういう空気?


違うよね?

僕と一国の王女様がそんな空気になるわけがないって! 


ほんの少し変な時間が続いたが、フィオナが先に口を開いた。


「い、いつものやって。気持ちが落ち着かないから!」


「は、はい!」


何が起こるのだろうか……とドキドキしたが、


フィオナの背中を撫でている間に、デスクの上の電話が鳴って、彼女は誰かしらに呼び出されたため、僕らは司令室を後にしたのだった。

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