【作戦概要を説明します】
「もう一度話します」
フィオナはテーブルに肘を置き、手を組んだ。
「ヴァジュラが保管されている施設に、大軍を率いて攻め込むことはできません。大軍を動かせばすぐに気取られ、ヴァジュラを使われてしまうからです。そこで、ニアが言ったように少人数で施設に潜入する必要がある」
うんうん。
ここまでは分かるぞ。
「さらに、ヴァジュラはオクト王家の人間でなければ触れることはできません。つまり、私が直接潜入する必要がある。だとしたら、強力な護衛が必要となりますよね。それが皇颯斗です」
皇がフィオナの護衛、か……。
王女様の護衛なんだから強いやつを、ってのは分かるんだけど、複雑な気分だなぁ。
「そ、そうですよね。だったら、皇くんが死ぬ必要はないと思うんですけど……」
雨宮くんの指摘をフィオナは瞬時に否定する。
「いえ、死んでもらいます。なぜなら、私はヴァジュラを取り戻すと同時に、ワクソーム城も攻めるべきだと考えているからです」
全員が驚きの声を漏らすが、フィオナは続ける。
「今こうしている間も、我々はワクソーム城に向かっています。それが、急に足を止めたとしたら、アッシア側は不審に思うでしょう。勘ぐられないためでもありますが、他の軍と合流するタイミングもあって、やはり攻撃を遅らせるわけにはいきません」
他の軍だって?
現状でもたくさんの戦力が集まっているのに、まだ増えるってこと?
「さらに」
僕の疑問を解消するタイミングはなく、フィオナの説明が先へ行く。
「アッシアは城の防衛のためにヴァジュラを当てにしているはずです。だとしたら、それが奪還されてしまうことで、動揺が走るに違いありません。そのタイミングで攻められたら、指揮も落ちるでしょう」
フィオナはイタズラを思いついた少女のような笑みを浮かべる。が、彼女が語っていることはイタズラなんて小さな規模ではない。
「それで、皆さんの疑問に答えることになりますが……。そんな最終決戦の場に、皇颯斗の姿がなかったら、敵はどう思うでしょうか?」
「何かある、と思うかもしれませんね」
ニアの呟きに、フィオナは頷く。
「そう、だから皇颯斗は死んだことにします。それで、ヴァジュラを奪還する私の護衛についてもらう。念のため、誠も連れて行くから」
「え?」
僕も一緒?
なんだろう、この気持ち。
皇とフィオナが二人っきり、っていうのも複雑だったけど、
あいつと協力して……っていうのも複雑じゃないか。
「あの、私は?」
ハナちゃんが手を挙げる。
「綿谷華はこの作戦に参加することはありませんが、私の護衛がこの二人だから、事情を知っておくべきと思いました」
「そう、ですか……」
ハナちゃんは引き下がるように口を閉ざしてしまった。なんだろう、納得いかないことがあるのかな? 心なしか、落ち込んでいるように見えるけど。
「じゃあ、私は?」
今度はニアが手を上げる。
「ニアにはたくさんやってもらうことがあります。まずはこの施設の正確な位置を特定。構造を解析。セキュリティの解除。時間は一週間足らずだけど、準備をお願い」
「セキュリティの解除って……私も現地に行くってことですか??」
「いいえ。アインス博士から、ニアならリモートで施設のセキュリティを混乱させられる、と聞いています。ただ、介入するための装置を施設に取り付ける必要があるとか……」
「そ、そうですね。小型の通信装置でも取り付けてもらえば、皆さんの潜入をサポートできると思います」
「じゃあ、僕たちが潜入してから、その通信装置をどこかに仕掛ければいいの?」
フィオナは僕の発言も否定する。
「それだと潜入時にセキュリティに引っかかるでしょ」
「そ、そうか」
じゃあ、どうするんだ?
「通信装置は離れた場所から撃ち込みます。それでセキュリティをハッキングして、私たちが侵入。流れは分かったでしょ?」
撃ち込むって、どういうこと?
少しだけ考えたが、そんなことができるのは、この中ではたった一人だ。フィオナは言う。
「貴方の魔弾使いとしての実力にかかっています。頼みますね、雨宮達郎」
皇を除く、全員の視線が雨宮くんに集まった。
会議が終わり、解散となったが、僕は残ってフィオナに声をかけた。リリさんが作戦に参加したいと言っていたことを、伝えなければならなかったからだ。
「フィオナ。あのさ……」
「なに?」
声をかけたけど、やっぱり言いにくい。だって、リリさんはフィオナを殺そうとしたんだ。そんな人をすぐに許して命がけで一緒に戦えるだろうか。
でも、僕はメメさんに言われたんだ。リリさんをお願い、って。だったら、彼女が立ち直るためのチャンスを、僕がサポートしないと!
「えっと……。リリさんが、この作戦に参加したいって言って――」
「そう、じゃあお願いしましょう」
「だよね。分かっているけど、そこを何とか……。え?」
フィオナは平然としているが、まさかの回答に僕は慌ててしまう。
「いいの? だって、リリさんは……」
なんて度量のある王女様なんだ。自分の命を狙ったリリさんのこと、許したってことなのか?
「言っておくけど、彼女を信じたわけじゃないから」
僕の心を見透かしたようにフィオナは言う。
「でも、貴方のことは信じている」
「う、うん」
話が終わったと判断したのか、フィオナは踵を返して、扉の方へ歩き出した。が、何か思うことがあったのか、会議室を出る直前で足を止めると、僕の方に振り返る。
「それに、たぶんリリも貴方と出会って思うところがあったのよ。それは、私にも分かることだから」
「どういうこと?」
フィオナは、なぜか首を傾げる僕を睨みつけると、呆れたように溜め息を吐いた。
「さぁね。そんなことより、万が一彼女が裏切るようなことがあったら、貴方が私を守るのよ。絶対にね」
「……うん、絶対に守るから!」
少しだけ微笑みを見せ、フィオナは会議室を出て行った。
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