【一緒にお昼を】
なぜ皇の葬式なんてやったのか。それは、数日前まで遡る。
たくさんのオクトの移動要塞が列をなして、アッシアの中心であるワクソームに向かっていた。つまり、魔王との決戦、この戦争も最終局面を迎えているのだけれど……。
「……うーーーん」
僕は移動要塞の中にある自室で一人唸っていた。
「何を見ているの?」
声をかけてきたのは、同じ部屋の雨宮くんだ。
「あ、また戦績表見ているの? そんなの、気にしなければいいのに」
そう言って雨宮くんは自分の相棒であるライフル銃の掃除を再開する。が、僕はこみ上げる不安に耐えられなかった。
「そうはいってもさ、雨宮くん。僕はアッシアに入ってから何一つ活躍していないんだよ? まったくと言っていいほど何一つ活躍してないの」
オクトがアッシアに攻め込んでから、既に半年に近い月日が流れていた。その中で、たくさんの戦いがあり、都市だったり要塞だったり、本当に色々な場所で色々な敵と戦ったわけだけれど……。
「僕は誰一人やっつけていなんだ。見てよ、この表を」
「もう何度も見たよ。見せられたよ……」
そう言いながらも、雨宮くんは表を手に取って目を通す。
「あ、綿谷先輩のランキングアップしているじゃん。さすがだなぁ。狭田くんなんてトップに食い込んでいるよ。まぁ……でも、皇くんがナンバーワンっていうのは変わらないんだね」
僕は肩を落とす。
同じ歳で同じスクール出身なのに、どうしてこれまで差が出るのか。
落ち込む僕に追い打ちをかけるように雨宮くんは言う。
「しかも、これってベテランの勇者たちも含めた戦績表だよね? いやぁ、皇くんって本当にレベルが違うね」
そう、皇は大人たちが混じった中でも最強をキープしているのだ。それに対して僕は圏外。ずっと圏外のままだ。
「僕って本当に必要? マジで役立たずなんじゃない??」
助けを求めるように雨宮くんの肩を揺すると、彼は視線を右上に持ち上げながら「うーん」と唸った。
「でも、神崎くんはセルゲイ・アルバロノドフを倒しているじゃん! あれ以上の快挙ってなかなかないと思うけど?」
「あれも、たまたま僕が最後にちょこんと攻撃を当てられただけで、誇れるようなものじゃないんだって」
そう、誇れるものじゃないんだよ。色々な意味で……。
「そうかなぁ? 僕は十分凄いことだと思うけど。って言うか、なんでそんなに焦っているの? この戦争に参加して、常に前線に立たされる勇者が生き残っているってだけでも、凄いことだよ」
「……そうかもしれないけれど」
そうかもしれないけれど、焦るんだよ。
セレッソは無理しなくていい、って言うけれど、ハナちゃんはどんどん戦果を挙げるし、フィオナはよく分からないけれど、僕に期待しているような素振りを見せるから。
こうやって圏外のままだったら、ハナちゃんもフィオナも、僕に関心を向けるようなことなくなっちゃうんじゃないか……??
ぐぬぬっ、と頭を抱える僕に雨宮くんは言う。
「まぁ、上昇志向があるだけ立派だけどね。それより、お昼の時間じゃない? 食堂に行こうよ」
僕は不満やら不安を漏らしながら食堂に向かうとハナちゃんが姿が。ゴージャスな金髪のお姉さんと向かい合って座り、親し気に喋っているみたいだけれど、友達だろうか。
「ハナちゃーん!」
声をかけると、ハナちゃんが振り返る。友達にも挨拶しよう、と思ったけど、そのお姉さんは素早く席を立つとどこかへ移動してしまった。
さ、避けられた?
でも、あの人……どこかで見たことあるような。
「よう、誠。顔色悪いけど、大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫」
気丈に振舞おうとする僕だったが……。
「神崎くん、戦績悪くてずっと悩んでいるんですよ。僕だけじゃどうにもならないので、綿谷先輩も慰めてあげてください」
と雨宮くんが余計なことを。
ハナちゃんに余計な心配をかけないためにも、ここは話題を逸らさなければ。
「そ、それより……今の人は友達? 僕が声をかけたせいで席立っちゃったみたいだけど、邪魔しちゃった?」
「と、友達なんかじゃないし、お前のせいでもない。って言うか、あいつのことは気にするな」
ん?
ハナちゃん、何か隠してない?
訝しがる僕だが、雨宮くんは首を傾げる。
「神崎くん、何言っているの? 今の人はジュリ――」
雨宮くんが何を言いかけたそのときだった。
「神崎誠!」
食堂中に響くような声で、誰かが僕を呼ぶ。
いや、この声は……。
振り返ると、フィオナが何やら緊迫した様子で、こちらにツカツカと歩いてくる。
誰もがフィオナの登場に、何が起こったのか注目していると、艦内アナウンスが流れた。
『これより、高低差があるエリアを走行します。揺れにご注意ください』
その一瞬後で、移動要塞全体が揺れたみたいだった。そのせいで、速足で歩いていたフィオナもバランスを崩してしまう。
「あ、危ない」
思わず席を立つ僕だったが、フィオナが倒れるようなことはなかった。なぜなら……。
「姫様、大丈夫ですか?」
「助かりました、皇颯斗。礼を言います」
転びそうだったフィオナを、どこから現れたのか、皇のやつが助けたのである。しかも、美男美女が体を寄せ合う姿は絵になる。
……なんだか嫌な感じだ。
皇のやつ、フィオナに顔近付けすぎじゃないか?
「ご無事であれば何よりです」
そう言って皇は去って行き、フィオナは再びこちらに向かって歩き出す。そして、彼女は僕の前に止まると、問答無用といった様子で、僕の手首を引っ張ろうとした。
「ちょっと、こっちきて」
「え、でも……僕、これからハナちゃんと雨宮くんと一緒にお昼なんだけど。この時間過ぎたら、食堂も閉鎖されちゃうし」
「緊急事態なの。それにお昼なんて私のやつを分けてあげるから、一緒に食べればいいでしょ」
「い、一緒って……」
ハナちゃんが隣で呟いたが、フィオナが力任せに僕の手を引く。
「十分で良いから待ってよ。僕の憩いの時間なんだから!」
ごねる僕だったが、フィオナが僕の耳元で囁くのだった。
「捕虜にしてた、ブライアの侍女がずっと黙秘していたのに、急に口を開いたの」
「リリさんが……?」
「そう。このままだとオクトは負ける。戦争に勝ちたいなら、貴方を呼べって」
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