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【優しい人ほどストレスフル】

オクトの兵は混乱していた。

ここ一か月、完全に勝機はオクト側に傾いたと確信し、四つ目の攻撃拠点もその勢いで押し切れると考えていたのに……


とてつもない抵抗力を見せるアッシアの兵。いや、むしろオクト側は完全に押し返されつつあった。


自分たちの、これまでの勢いはなんだったのだ?


そんな混乱は、オクトの戦士たちを弱体化させてしまうのだった。


「つ、強すぎる!」


そして、馬部良太朗もそんな混乱を抱える一人だ。


「瀬礼朱さん、ここは撤退しましょう!」


背後の瀬礼朱に進言するが、彼女は首を横に振る。


「ダメだよ、三枝木さんと約束したでしょ! できるだけ敵をかく乱するって」


「ぶ、無事に帰るとも約束しましたよ!」


「全力を尽くす前に逃げるのは違うでしょ!」


「そ、そんな……。うわっ!」


馬部の目の前に、仲間の勇者が倒れる。下手をしたら、次は自分ではないか。そんな考えが、馬部をつい後退させてしまうのだった。


「こら、逃げるな! 君は立派な勇者になるんだろ! この戦いで三枝木さんより戦果を上げる、って意気込んでいたじゃないか!」


「そ、そうでしたっけ……!?」


「もう! 頼むよ!」


しかし、そんな状態であっても、瀬礼朱と馬部は上手く立ち回り、敵側をかく乱していた。ただし、敵は次から次へと出てくる。


「三枝木さんのためにも……負けられないのに!」


「で、ですよね。俺もそう思います! うわぁぁぁ!」


頭上に降り注ぐ炎の雨。

瀬礼朱は防壁魔法に力を込め、自らと馬部を守った。


しかし、その魔力量は瀬礼朱が経験したことのないもので、押しつぶされてしまいそうになる。


「ま、負けるもんか……!!」


膝が折れそうだ。

それでも、瀬礼朱は歯を食いしばって耐え忍ぶ。


だが、瀬礼朱が展開する防壁魔法の中に、アッシア兵が入り込み、彼女を狙う。瀬礼朱は防壁魔法の維持に精一杯。躱すことは不可能に思われた。


「あ、危ない!」


目の前に迫ったアッシア兵が倒れる。腰抜け状態寸前だった馬部が、瀬礼朱を守ったのだった。


「馬部くん……やるじゃん」


「こ、これくらいは当然ですよ。俺は最強の勇者を目指しているんですから!」


「ほう。ならば、最強の勇者とはどの程度なのか、見せてもらおうか」


その声は、瀬礼朱のものではない。声は二人の頭上から聞こえたようだった。瀬礼朱たちが視線を上げると、攻撃拠点の外壁にある足場に、強化兵の姿が。それを見た瀬礼朱の表情が青く染まる。


「だ、ダリア……」


獲物を見つけ、興奮したような笑みを浮かべるダリア。彼女は足場から飛び降りると、瀬礼朱たちの前に立つのだった。




三枝木は決して潜入に慣れているわけではない。が、敵も追い詰められているのか、拠点内はやや慌ただしく、三枝木は中心部まで近付いていた。


(とは言え、簡単ではありませんよね)


心の中で呟く。

なぜなら、司令室の前に強化兵らしい人物が二人も立っていたからだ。


人が何度か出入りする瞬間も見たが、司令室の中にもかなりの人数が控えているようだ。


(変装すれば、どうにかなるのかな……)


三枝木は一度離れようかと考えたが、司令室から何者かの声が聞こえた。


「お前たちも外で戦ってこい。あと一押しでこちらに傾く」


今のは司令官の声だろうか。入り口に立っていた二人の強化兵が、その場を去って行った。さらに続けて、司令室から多くの兵士が出る。先ほどまで、司令室から騒がしく物音が聞こえたが、怪しいくらいに静まり返っていた。


(罠か……? だとしても、司令室にほとんど敵はいないはず。チャンスかもしれない)


三枝木は、周囲を警戒しつつ、司令室の中に入り込む。人気はない。何かが変だ。しかし、三枝木には疑っている暇もなかった。


できるだけ、目立たない場所。

メインモニターの裏に魔力圧縮爆弾を設置する。


タイマーは十分。脱出のため余裕を持たせたつもりだ。


三枝木は何も起こらないことを祈りながら、司令室を立ち去ろうとしたが……扉が開かない。


「こんなに簡単に行くと思ったか?」


振り返ると、どこに隠れていたのか、一人の強化兵が顔を出した。間違いない。ダリアと一緒にいた、ウスマンとかいう強化兵だ。


「お前が基地内に入ってきたのは、とっくに気付いていた。でも、泳がせていたんだよ。俺は賢いからな」


その手には、三枝木が設置した魔力圧縮爆弾が。既にタイマーも解除したらしく、デスクの上に置く。


「おみそれしました。てっきり、オクトの猛攻にアッシア兵はパニック状態だとばかり思っていました」


「アッシア兵は百戦錬磨の強者ばかりだ。こんな工夫のない作戦に引っかかるか」


「ですよね……」


我ながら結果を急ぎすぎたか、と三枝木は肩を落とす。


「しかし、見たところ周囲に貴方一人です。私が貴方を倒してしまえば、何も問題ないように思えますが?」


「勘違いするな。ここから出て行った兵は、お前を外に出さないよう、拠点の出口すべてを塞いでいる。俺が確実にお前を殺すために、な」


「ダリアさんの指示ですか?」


「……違う。俺の意思だ。この基地を守って、お前も倒せば、姉さんは俺を認める。いや、惚れるはずだ。そのためにも、お前は俺が切り裂かないとならないんだよ!」


「なるほど。恋路のためにも勝たねばならない、というわけですか」


三枝木は呆れたような苦笑いを浮かべながら肩をすくめる。まるで、損な役回りを押し付けられた営業職のサラリーマンのように。


「しかしですね、意外と言われるのですが……」


三枝木が左腕にあるブレイブシフトを握る。


「私は他人の気持ちを配慮してあげるほど、お人よしじゃあないんですよ」


その表情は普段の穏やかな三枝木のものではない。これから滴る血を求めるように、これから始まる殺戮を楽しむように、残忍な笑顔にまみれいてた。


「ブレイブチェンジ」


三枝木の体が光に包まれる。

そして、白いブレイブアーマーを装着した勇者の姿に様変わりした。


「どちらかと言うと、人を殴ることに喜びを覚えるタイプだったりするんです。申し訳ないですが、付き合っていただきますよ」


三枝木・ジェノサイダー・宗次がゆっくりと拳を握りしめた。

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