【女神様の嫌がらせ】
「ゆ、揺れが激しくなっている……」
瀬礼朱は崩壊する洞窟を目の前に、ただ祈った。
「お願いです、本物の女神様! あの二人を助けて!」
ドドンッ、という音と共に、洞窟の入り口となる穴が崩壊し始める。いや、瀬礼朱の足元すら崩れようとしていた。
「い、いや……!」
悲鳴を上げる瀬礼朱。
崩壊する穴、そのわずかな隙間から、何かが飛び出した。
「もしかして……! わあっ!」
地面が崩れ、瀬礼朱は足場を失ったことに気付く。暗闇の中に吸い込まれるような感覚。
やばい、今度は私が洞窟に――。
と思った瞬間だった。
体が突然軽くなる。
思わず閉じた目を、恐る恐る開いてみると、そこには三枝木の姿があった。
「ああ、瀬礼朱さん。無事で何よりです」
「み、三枝木さん!……ひゃっ!」
瀬礼朱は再び自分の足場がないことに気付く。いや、体が宙に浮いていた。
「何とか間に合ったな。ギリギリセーフ、というやつだ」
頭上から聞こえる声。
見上げると、そこにはピンク色の髪をなびかせるセレッソの姿があった。
どうやら、彼女の背にある大きな翼の力によって、空を飛んでいるらしい。そして、自分と三枝木は彼女に首根っこを持たれて、何とか浮いている状態のようだ。
「こ、怖いです! お、下ろしてください!」
高所恐怖症、というわけではないが、今まで見たことのない景色に、瀬礼朱は怯える。だが、セレッソは意地悪な笑みを浮かべるのだった。
「ほう。では、助けてください女神セレッソ様、と言ってみろ」
「な、ななな……なんてことを!」
「私は慈悲深い女神だからな。可愛い信仰者のお願いなら、聞いてやらんでもない。今すぐ、丁重に優しく下ろしてやるぞ。どうする?」
「わ、わ、私は……!」
「ほら、認めろ。私が女神様だぞ。お前が信じる女神様だ。ほらほら、どうした?」
「あ、あああ……!」
パニック状態の瀬礼朱。
隣の三枝木が苦笑いを浮かべた。
「あの、セレッソ様。私が言うので、下ろしていただけないでしょうか?」
「宗次、邪魔をするな。いや甘やかすな。私は信仰者に試練を与えているのだ。より強い信仰心を育てるためにな。ふふっ、ふははは! あはっはははーーー!」
イロモア上空に、邪悪な女神の高笑いが響くのだった。
「し、死ぬかと思いました」
顔面蒼白の瀬礼朱。
それを見下ろすセレッソは呆れ顔だ。
「本当に強情な女だな。少し折れるだけで、下ろしてやると言ったのに」
三人の空中飛行は、無駄に五分ほど続いた。無駄に上昇したり、無駄に揺らされたり、瀬礼朱の恐怖心は無駄に煽られ続けたが、最終的には三枝木が懇願して、着陸に至ったのである。
「セレッソ様、本当にありがとうございました。貴方がいなければ、私たちは何度命を落としたことやら」
改めて頭を下げる三枝木。
「わ、私にも礼を言わせてください」
青い顔で瀬礼朱は言う。
「貴方が女神様かどうかは別として、助けられたことは確かです。ありがとうございました」
「気にするな、と言っただろう。私たちは協力関係にあり、助け合う必要がある。違うか?」
「そうでしたね」
三枝木とセレッソは微笑みを交わし合う。が、それを見た瀬礼朱は何だか落ち着かない気持ちになった。
「それより」
瀬礼朱は二人の視線の間に割って入る。
「私たちは、フィオナ様から命令を受けたのですよね? 貴方と協力してイロモアを開放する、と」
「そうだな」
「具体的には、何をすればいいのですか?」
「お前たちの作戦が上手くいくよう、最低限の力でバックアップしてやる。あくまで、オクトの兵士によるものと見える程度に、だ。そして、すべての攻撃拠点を破壊すれば、アッシアはオクトから撤退することになるだろう」
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