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【脱出困難】

「出てこい、オクト人!!」


微かに聞こえてくるダリアの叫び声。穏やかだった三枝木の表情も一瞬で鋭いものとなった。


「早くここから出なければ」


しかし、セレッソは呑気に返す。


「なんでだ? 追手が来たところで、私が捻ってやるぞ。お前たちは協力者だからな」


「ダメですダメです。セレッソ様がこんなところで戦ったら、洞窟が崩れて私たちは生き埋めです」


「そういうものか?」


「私たち人間は、脆弱なんですよ」


「ふむ、そうだったな……」


三人は風の動きを頼りに出口を探す。だが、それは簡単ではなかった。


「ああ、もう面倒だ!」


状況に飽きたのか、セレッソは言う。


「私が洞窟を吹っ飛ばす! お前たちを守りつつ、ここら一帯を吹っ飛ばせば、問題ないだろう?」


「何を言っているんですか!」


引き止めるのは瀬礼朱だ。


「隠密行動なのでしょう? 洞窟が吹っ飛ぶなんて、派手なことしたらフィオナ様がどう思われるか!」


「お、怒られるかも」


「女神様を名乗るなら、もう少し賢く振舞ってください」


「むぅ……」


しかし、十分も歩くと地上の光が三人を照らす。


「そうだ、ここだ! 私はここから洞窟に入ったのだ!」


セレッソは得意気だが、脱出口と言えるその穴は、十メートル近い崖だった。それを見上げながら、瀬礼朱は呟く。


「どうやって昇れば……」


とてつもない跳躍力を持つセレッソ、ブレイブアーマーを装着した三枝木ならば、あの穴から出ていくことも可能だろう。だが、瀬礼朱には無理だ。


「しかも、かなり狭いですね。通れるかな……?」


心配する三枝木だが、セレッソは確信した態度で言った。


「大丈夫だ。私がお前たちを抱えて飛んで、ギリギリすり抜けられるくらいの大きさはある、はずだ」


「はず、ですか」


「……心配ですね」


結局、三枝木と瀬礼朱の提案により、脱出方法が決まった。まずはセレッソが瀬礼朱を抱えて、脱出。次に三枝木がブレイブチェンジして、一人で脱出という順番だ。


「大事な信仰者だからな。丁重に扱ってやる」


「私は貴方を信仰しているわけではありません。女神セレッソ様を信仰しているのです」


もはやお決まりとも言える、そんなやり取りの後、セレッソが瀬礼朱を抱えて軽々と跳躍する。


十メートルは超えるだろう崖を飛び越えても、まだ余裕がある跳躍力に、瀬礼朱は思わず小さい悲鳴を上げてしまった。だが、着地した後の解放感は格別だ。


「く、空気が美味しい……」


久しぶりの地上の空気に、瀬礼朱は何度も深呼吸した。


「礼くらい、あってもいいのだぞ」


「三枝木さん、こっちは大丈夫です! 脱出してください!」


セレッソを無視し、穴の下にいる三枝木に呼びかける瀬礼朱。三枝木が手を振ってそれに応えた後、ブレイブチェンジを行った。しかし、三枝木が腰を屈め、脱出を試みようとした、そのときだった――。


「見つけたぞ、オクト人!!」


三枝木が振り返る、と同時に彼の姿が消失した。


「三枝木さん!?」


文字通り、消えてしまったわけではない。瀬礼朱が前のめりになって洞窟内を覗き込むと、ダリアのタックルを受けて、壁際で攻防する三枝木の姿が。


「た、助けに行かないと!」


「仕方ないな。私に任せておけ」


セレッソが再び洞窟内に戻ろうとしが、凄まじい振動が二人の彼女の足を止めてしまう。そして、その振動はガラガラと音を立てて、洞窟を塞いでしまうのだった。


「三枝木さん!」


「退け! 私が吹っ飛ばす」


「ダメですよ! 中の状況が分からないのに、派手な方法を使ったら……三枝木さんも巻き添えになってしまうんですから!」


「なら、どうするんだ?」


「別の出口を見つけるしか……」


辺りを見回すが、イロモアの広大な緑の風景が広がるだけ。洞窟の入り口らしい場所は、見当たらなかった。


「面倒だ。やはり私に任せろ」


改めてセレッソが前に出た。


「どうするつもりですか?」


「手で掘る。それが一番だ」


それから、瀬礼朱は女神による奇跡を目の当りにした。


セレッソは言った通り、崩れた岩を本当に素手のみで除去していったのだ。人間ではあり得ないパワーと持久力。それによって、少しずつ穴が広がっていく。


だが、どんなに掘り返しても、三枝木の姿は見当たらない。


「三枝木さん、どこに……」


瀬礼朱は足元に振動を感じる。

もしかしたら、洞窟は今も崩れているのかもしれない。


「お前は待っていろ。宗次は私が助けてきてやる」


「ど、どうやって?」


「奥から戦う音が聞こえる。一か八かだ。完全に洞窟が崩れてしまう前に、引っ張り出してやるさ」


「そんなこと、可能なの……?」


「お前が信じている女神様が、どれだけ凄いか見せてやろう」


「ですから……」


瀬礼朱の主張が言葉になる前に、セレッソは洞窟の中へ飛び込んでしまった。そして、彼女は走るのではなく、背中に発生した小さな翼によって、洞窟の奥へと飛び去って行く。


続けざまに見せつけられる、普通では考えられないセレッソの生態。思わず瀬礼朱の頭には、こんな考えが浮かんだ。


もしかして、本当に女神様?


「いやいや、そんなわけないから!」


しかし、この状況で頼れるのはセレッソ一人だけ。瀬礼朱は両手を組んで、本物の女神セレッソに祈った。


どうか、あの二人を無事に返してください、と。


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