【で、なんで勇者やめんの?】
「むっ、お前たちか。探したぞ」
暗闇の中、セレッソ(仮)は目を潤ましているように見えたが、瀬礼朱たちの姿を認めるなり、瞬時に表情を整えた。
しかし、瀬礼朱はそれを見逃すことはない。
「貴方、怖がってましたよね? やっぱり、貴方が女神だなんて大嘘です! だって女神様が闇を怖がるはずがありませんから。女神様は光そのものですからね!」
「別に怖がっていないし、やろうと思えばこの洞窟を光で満たすことくらい簡単だ」
「だったら、やってみせてください! いえ、やってみせたとしても、私は貴方が女神様だなんて、信じていませんからね!」
今にもセレッソの胸倉を掴みそうな瀬礼朱を制止する三枝木。
「それよりも、私たちを探していたというのは、本当ですか? もしかして、それはフィオナ様の命令なのでは?」
「よく分かったな」
セレッソはやや顎を上げ、どこか見下すような視線を向けてくる。
「お前たちと協力して、イロモアにあるすべての攻撃拠点を破壊してこい、とのことだ。あくまで、オクトの兵がやったように見せるためにも、私という存在を知っているお前たち二人に協力を仰げ、とのことだ。王女から直々の命令だ。光栄だろう?」
王女から直々の命令というものは、確かにオクトの戦士であれば光栄なことだ。
が、納得いかないのは瀬礼朱だ。
「どうせ王女様の命令というのも嘘でしょう! 三枝木さん、私はこの方を信じられません。捕えるべきです!」
「乱暴な考え方だな」
セレッソは呆れ気味に言う。
「もしかして、私の信者は誰もがそんな感じなのか? だとしたら、近いうちに降臨して教えを改めるよう言うべきかもな」
「私を含め、聖職者は慈愛に溢れた人ばかりですし、貴方のような奇天烈な人に耳を貸すような愚かな者は一人もいません!」
瀬礼朱の声が洞窟内に響くと同時に、ぱらぱらと砂が頭上から落ちてきた。
「……あまり大きい声を出さないようにしましょう」
三枝木が声を潜めて言う。
「崩れるかもしれませんから」
瀬礼朱は手の平で口を押えながら頷いた。
「あの、セレッソ様」
三枝木の呼びかけに振り向くセレッソ。瀬礼朱の方は口を閉ざしつつも、三枝木の「セレッソ様」という呼び方に不満げだ。それを察しながらも、
三枝木はセレッソに聞く。
「どこから、この洞窟に入られたのですか? そこから外に出られたら、と思うのですが」
「教えてやっても良いが、お前たちが私に協力することが条件だぞ」
「女神様とフィオナ様の命令ならば、もちろん協力します」
「……いいだろう。こっちだ」
三枝木のブレイブシフトが放つ光を頼りに、三人は薄暗い洞窟の中を進んだ。
「その光、バッテリーが切れたりしないだろうな?」
先頭を歩くセレッソの質問に三枝木に答える。
「これは、私のプラーナによって発光しているものなので大丈夫ですよ。まぁ、私のプラーナが切れてしまったら、それがある意味バッテリー切れになりますが」
「どういう仕組みなんだ?」
意外な質問に三枝木は眉根を寄せた。
「仕組みとなると、これを作ったジンジャー・アインス博士に聞かないと、分かりませんが……私たち勇者は、自身のプラーナを送り込むことで、ブレイブシフトを起動させています」
「送り込む? よく分からんな」
「体の中にあるエネルギーの流れを感じて、それをコントロールする、と言えばいいのでしょうか。素質がある者なら、雑音がない場所で目を閉じ、集中すればプラーナの流れを感じられるはずです。勇者だけでなく、魔法使いや聖職者であれば、十代の前半でこの感覚を体得するものですけどね」
「ふーん……」
質問したにも関わらず、セレッソは途中から興味を失ったようで、平坦な相槌を返すに終わる。
ただ、この十年後、プラーナのコントロールについて、質問されると知っていれば、
彼女はもう少し三枝木の話を熱心に聞いていたのかもしれないが……。
「あの、セレッソ様?」
「なんだ?」
「出口まで、あとどれくらいでしょうか?」
「……」
三枝木の質問に口を閉ざしてしまうセレッソ。
瀬礼朱たちが出口を求めて歩き出してから、一時間を軽く超えていた。足場の悪い洞窟を歩き続ける。訓練された三枝木は、まだまだ歩き続けることもできるようだが……
瀬礼朱は二人の後を追うので精一杯だった。
「貴方、道に迷ってますよね?」
肩で息をしながら、セレッソに疑惑を突きつける瀬礼朱。
「……お前たちの気配を頼りに適当に進んできたものだから、道はいちいち覚えてなかった」
頼りない女神様の告白に瀬礼朱はその場に座り込んでしまった。
「そんなことだと思いました……。こんなに行き当たりばったりな性格のわけがないでしょう、女神様が……」
「とりあえず……少し休みましょうか」
三枝木の提案に、瀬礼朱が二度頷き、三人はその場に腰を下ろして、しばらく休憩することにした。
数分、無言の時間が続く。瀬礼朱はこういった時間が苦手、というわけではないが、少しばかり動揺していた。
もしかして、今がチャンスなのでは……。
そんな期待と緊張感が、彼女の緊張を高めていたのだ。
チャンスとは何か。
それは三枝木の強さを知ってから、ずっと抱いていた疑問を問うタイミングではないか、ということだ。
なぜ、あれだけの才能がありながら、勇者をやめようとしたのか。
それを聞き出すとしたら、今なのかもしれない。しかし、不審に思われたらどうしよう。
そんな葛藤を抱く瀬礼朱だったが、意外なところからパスが回ってくるのだった。
「しかし、勇者というのも大変だな。えーっと、お前の名は何と言った?」
「三枝木です。三枝木宗次」
「ふむ、宗次か、宗次はなぜ勇者になったんだ?」
セレッソと三枝木の会話を聞いて、瀬礼朱は思った。
やっぱり、これはチャンスだ。
三枝木が勇者をやめようと思った理由を聞きださなければ。それを聞けば、自分が数年もの間、悩み続けた問題の答えが見付かるかもしれない。
瀬礼朱は固唾をのむようにして、二人のやりとりに耳を澄ませた。
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