【変な呼び方はやめてね】
「二人とも、どこに行っていたんですか?」
トラックに戻ると、馬部が二人に詰め寄ってきた。気のせいか、半泣き状態に見える。
「もう少し遅かったら、僕は二人を助けに向かうつもりでしたよ。改良型の強化兵と戦うことになるかもしれませんが、仲間を見捨てるわけにはいきませんからね」
君にそんな勇気はないだろ、と瀬礼朱は心の中で呟く。
しかし、三枝木の方は丁寧な対応を見せた。
「お待たせしました。しかし、危険であることには違いありません。すぐにでも防衛拠点まで戻りましょう」
馬部はまだ何か言いたげではあるが、危険というワードに反応を示し、すぐにトラックに乗り込んだ。
「でも、さすがですね」
トラックのアクセルを踏みながら、馬部は言う。
「あれだけ強い改良型の強化兵を一人で抑え込むなんて。むしろ、一本取ってましたよね。三枝木・ジェノサイダー・宗次のアームロック、生で見れて感激です!」
「そ、その名前……どこで知ったんですか?」
顔を引きつらせる三枝木だが、馬部の方は目を輝かせている。
「何を言っているんですか! 僕らの世代でジェノさんのこと知らない勇者候補はいないですよ! もちろん、俺も大ファンです!」
ついさっきまで存在を忘れていたようだけれど、
と瀬礼朱は心の中でツッコミを入れるが、言わぬが花だと口を閉ざす。
あと、ジェノって変な名前だな、と笑いを堪えたが、三枝木自身がそれに触れた。
「とりあえず、ジェノさんはやめてくださいね……」
「嫌なですか?」
「嫌って言うか、普通に恥ずかしいですから」
「分かりました!」
三枝木は深呼吸で自分を落ち着かせると、話題を戻した。
「私が抑えられたのは、相手が油断していたからです。まだ計り知れない力を感じました。それを使われる前に倒してしまう予定だったのですが……遅かったみたいですね」
「あの強さで、本気ではなかったんですか?」
瀬礼朱の方も驚きを隠せない。三枝木は頷く。
「十中八九、運が良かっただけです。次、正面からぶつかることになったら、あばらだけでは済まされないでしょうね」
つい先ほど味わった恐怖感が頭の中で再生されてしまったのか、三人とも黙り込んでしまう。しかし、助かったことは確かだ。安堵の息を吐く瀬礼朱だったが、隣の三枝木が呟くのだった。
「まずいな。追いかけてきています」
三枝木が見ている方に視線を向け、瀬礼朱は思わず悲鳴を上げる。そこには、
陸上選手のように全力疾走するダリアの姿があったのだ。
「馬部くん、もっとアクセル踏んで!」
「な、なんですか? 何があったんですか?」
「後ろから、さっきの強化兵が追いかけてきている!」
「ひ、ひいぃぃぃーーー!」
馬部もバックミラーでそれを確認したようだ。トラックがぐっと加速していく。
「誰か撃退してくださいよ? そうだ、瀬礼朱さんなら攻撃魔法、できるでしょ??」
「私は魔法使いじゃなくて、修道士だから! 防御と回復しかできないよ!」
「や、役立たず!」
「君がそれを言うかぁぁぁーーー??」
二人が言い合っている間に、強化兵はさらに距離を詰めている。
「ブレイブチェンジ!」
三枝木はブレイブアーマーを装着すると同時に、右手を天にかざして叫んだ。
「ブレイブバスター!」
すると、どこからか拳銃の形をした武器が現れ、三枝木の手におさまる。
「修理が済んでいない武器なので威力は低いのですが、ないよりはマシのはず」
そういって、三枝木は引き金を引く。
閃光が矢のように、全力疾走するダリアを迎え撃とうとする。が、ダリアは巧みに進行方向を逸らして、それを躱すに終わってしまう。
三枝木は続いて二度三度とブレイブバスターを放ったが、結果は同じだった。
「こうなったら……」
呟く三枝木の腕を瀬礼朱が掴む。
「み、三枝木さん……何を考えているんですか? 一人であいつを足止めしようなんて、絶対に考えちゃダメですからね」
しかし、三枝木からは覚悟が感じられた。瀬礼朱が彼こそ勇者だと認めてしまうほどに。
「私がどうなっても、車を止めないでください。そして、絶対に防衛拠点まで戻って、改良型の強化兵が二体も現れたのだと報告すること。そうすれば、また別の対策を練って、確実に倒す機会を準備できるはずです」
「そうかもしれませんけど……」
瀬礼朱は出てきそうになった言葉をぐっと噛みしめ、堪えるようだった。が、ここで言わなければ、一生その機会を失うかもしれない。
だから、彼女は言い放った。
「私、困るんです!」
「な、何がですか?」
「私、三枝木さんに相談したいことが、あるんです!」
「相談、したいこと?」
しかし、この会話の間にダリアは走るトラックに追いつきつつあった。
「まずい!」
三枝木が気付いたとき、ダリアは一気に距離を詰めようと跳躍している。
「逃がさないぞ、オクト人!」
そして、三枝木と瀬礼朱のいるトラックの荷台へ急降下し、強烈な踏み付けを。
凄まじい衝撃によって、トラックが跳ね上がり、瀬礼朱は味わったことのない浮遊感に身を晒していた。
そんな中、瀬礼朱は見た。
自分の下に広がる、森林の風景。
どうやら、トラックは崖路を走っていたらしい。しかも、自分はその崖の方へと投げ出されたようで……。
「あ、あっ……!」
死の前触れに、悲鳴すら出てこない。
「瀬礼朱さん、つかまって!」
だが、眼前に伸ばされた手が。
瀬礼朱は反射的にそれを伸ばそうとした。
引き寄せられる感覚。
ほぼ同時に視界が何かに覆われた。
この冷たい感触は、たぶんブレイブアーマーだ。
次の瞬間、瀬礼朱に訪れたのは重力に引っ張られる、凄まじい落下の感覚だ。
女神セレッソ様、どうか私をお助けください!
頭の中で祈ったが、意識は失われてしまった。
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