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【一歩前に進む勇気が……】

車で二時間の移動の後、瀬礼朱(せれす)たちは到着したが、既に戦場は激化していた。


「攻撃拠点、正面あたりで仲間が囲まれているらしい。助けに行こう!」


和島は戦場で高揚しているのか、瀬礼朱たちのペースを考えることなく、前へ進んでいった。


空を見上げれば、常に火の玉や巨大な氷柱の形となり、攻撃魔法が降り注いでいる。それらから勇者を守るためにも、防壁魔法を展開する瀬礼朱だったが、和島はその範囲の外に出ていた。


瀬礼朱は和島を追わなければならなかったが、アッシア兵たちにそれを阻まれる。


「わ、和島さん! 待ってください!」


早く追いつかなければ、和島が攻撃魔法に晒されてしまう。しかし、うかつに瀬礼朱が前へ出たら、自分がアッシア兵にやられてしまうのだろう。


詰め寄ってくるアッシア兵。

瀬礼朱は動じつつも奥歯を強く嚙む。逃げるものか、と。


だが、目の前のアッシア兵たちが唐突に倒れた。その傍らに、剣を持った三枝木と馬部の姿が。


「瀬礼朱さんは防壁魔法を張りながら、和島さんを追うことを考えてください。馬部くんはブレイブチェンジして、瀬礼朱さんを守ることだけ考えて」


「は、はい!」


馬部は素直にブレイブチェンジを行う。紫色のブレイブアーマーに身をまとった勇者が、瀬礼朱の傍らに付いた。


「さぁ、瀬礼朱さん。和島さんを追いましょう」


「わ、わかってます」


助けられた?

こんな臆病者に?


口惜しさを感じながら、瀬礼朱は和島の背を追う。


「そっちは敵が多い。もう少し迂回しながら進みましぃう」


何度か三枝木はそんな指示を出した。さすが臆病者だけあってか、敵が少ない道を探すことは得意らしい。それにしても、三枝木は一向にブレイブアーマーを装着する気配がないが、どういうつもりなのだろうか。


「三枝木さんは、どうしてブレイブチェンジをしないのですか?」


瀬礼朱が聞くと、三枝木は左右を確認しながら答えた。


「戦場は刻々と状況が変化しますし、想定外の出来事が四方八方で起こるので、周囲を把握する必要があります。しかし、ブレイブアーマーを装着すると、視野がやや狭くなるので、今は確実に状況を把握しつつ、二人のサポートに徹するべきかな、と」


この男……思ったより、優秀なのだろうか。


瀬礼朱の頭に大きな疑問符が浮かぶ。しかし、ただの言い訳という線も捨てがたい。ただ、三枝木の指示のおかげで前へ進めていることは間違いないので、瀬礼朱はとりあえず従うことにした。


順調に進んでいたが、三枝木が警戒心を高める。


「前方に強化兵! 馬部くん、対応できますか?」


「は、はい!」


瀬礼朱は馬部の返事に違和感を覚える。なんだか感情がこもっていないような……。


そんな瀬礼朱の予感は当たっていたのか、馬部はまったく動かなかった。アッシアの強化兵が、こちらに向かって走ってきているにも関わらず、まったく動かないのだ。


「ちょっと、馬部くん? これ以上近付かれたら、私も攻撃されちゃうけど!」


瀬礼朱が声を上げると、馬部は肩を震わせる。が、前へ出ることは、やはりなかった。


「馬部くん?」


三枝木も馬部の顔を覗き込む。

すると、馬部に反応が……。


「こ、怖いです!」


「え?」


「怖くて、動けません!」


瀬礼朱は気付く。

馬部の足が震えていることに。


「ちょっと!」


やっぱり、お前も勇者のくせに臆病者か!


そんな言葉で、思いっきり馬部を責めてやりたかったが、そんな暇はない。このままでは、強化兵は真っ先に自分を狙うだろう。それなのに、どうやって自分の身を守るのか、まったくイメージできなかった。


「馬部くん、落ち着いて」


しかし、三枝木の声は落ち着いている。


「勇者決定戦のゴングが鳴る瞬間を思い出してみてください。あのときは、強敵を体一つで迎え撃たなければならなかった。でも、今はどうですか? オクトによる最新の錬金術によって生み出された、最新のブレイブアーマーに守られています。しかも、敵の戦闘技術はランカー以下です。貴方が怯えるような相手ではありません」


「ほ、本当ですか?」


頷く三枝木。

少し自信を取り戻したのか、馬部は迫る強化兵に視線を向けた。


「う、うおおおぉぉぉーーー!」


雄たけびをあげながら走り出す馬部……だったが。


「あれ?」


強化兵の首が飛んだ。

そして、噴水のように血をまき散らしながら、その場に崩れる。


「何をしているんだ! 早くこっちに!」


それは、一足先に攻撃拠点へ突撃していたはずの和島だった。叫びながら手ぶりも加えて、瀬礼朱たちの前進を促すが、再び一人で走り出してしまう。


唖然とする瀬礼朱だったが、隣の三枝木が言った。


「……追いかけましょうか」


「ですね」


馬部も必死に発した気合のやりどころに戸惑いつつも、二人の後を追った。




さらに前進すると、林の中でその身を潜ませていたアッシアの攻撃拠点が、ついに見えてきた。それを目にしたところで、瀬礼朱は思い出す。


――アッシアの攻撃拠点は、私が潰しておいてやる。


そんな妄言を吐いた、女神セレッソの名を騙る不届き者のことを。ここにいるわけがない、と分かっていながら、瀬礼朱は辺りを見回してしまった。


「そんなわけないか……」


瀬礼朱の呟き。が、それを掻き消す悲鳴が。


「強化兵だ! 今までとは何かが違うぞ!」


悲鳴が重なる。

圧倒的な何かが勇者たちを蹴散らしているようだ。


「まさか、噂の改良型か……?」


三枝木が呟く。

それは瀬礼朱も聞いたことがあった。膠着する戦況を変えるため、アッシアは改良型強化兵の投入を考えている、と。


この状況はどうするべきか。

判断できず、瀬礼朱はただ三枝木の言葉を待ってしまった。


「お前は……ダリア!」


和島の声が聞こえたかと思うと、瀬礼朱の目の前を何かが通過した。ちょうど両手で抱えられるサイズのそれは、馬部の足元に転がる。


「う、うわわわぁぁぁ!」


馬部の悲鳴。

彼の足元に転がり落ちたのは、和島の頭だった。


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