【あの子にとっての幸せは?】
「誠、私を下ろせ! その方が速いはずだ!」
腕の中でハナちゃんが主張する。
だけど、まだ敵が多い。怪我しているハナちゃんを置いていけるわけがなかった。
「ニア、近くに味方は? 皇はいない?」
『皇……。皇颯斗ですね? ……はい、近くにいます。いま皇さんの位置を表示しました!』
赤い矢印が再び表示される。
よし、あいつにハナちゃんを預けよう。ムカつくけれど、あいつなら死ぬ気でハナちゃんを守るはずだ。
「バカ! 今すぐ下ろせ! あいつの助けなんか借りなくても、私は一人で大丈夫だ!」
「ハナちゃん、お願いだから大人しく!」
少し移動すると、白いブレイブアーマーの皇の姿が。
「皇!」
皇がこちらに振り向く。
隣には、金色のブレイブアーマーを装着した勇者も。
「なんだなんだ? お前、捕虜になったとかいう、補欠やろ? こんなところで何している?」
この関西弁風の訛りは、間違いない狭田だ。
「皇、ハナちゃんを頼む。怪我をしているみたいだから、守ってやってくれ」
「……君は?」
「やることがある。絶対にハナちゃんを守れよ! 分かったな?」
「下ろすな! 私はお前と行く!」
暴れ出すハナちゃん。
さっきと言っていることが違うじゃないか……。
もしかして、皇の前では弱いところは見せたくないのか?
だけど、ごめんよ。
早く行かないと!
「こら、誠! 下ろすな!」
僕はハナちゃんを下ろして、すぐにブースターユニットをオンにした。ハナちゃんの怒号が背中を叩いた気がした……
が、ここは聞こえなかったことにしよう。
「ニア! アルバロノドフはどっちだ!」
『そのまま直進で大丈夫です! だけど、早く来てくださいーーー!」
「どうしたの?」
『勇者の皆さんがアルバロノドフを止めようとしていますが、異常な突進力でこっちに向かってます。誰も止められません!!』
「分かった! すぐに駆け付けるよ!」
『ブースターユニットの残り時間は一分半。そのまま直進すれば、追いつけるはずです!』
たぶん、アルバロノドフは死に際の状態まで追い込まれても、フィオナだけは道ずれにするつもりだ。
絶対に、近付けるわけにはいかない!
戦場を駆ける中、僕は見てしまった。
船で優しく接してくれた人たちが、変わり果てた姿で倒れている様を。
ちくしょう、とこみ上げてくる吐き気を抑え込んだが、モヤモヤとしたこの感覚は、一生忘れられない気がした。
三十秒ほどブースターユニットで移動すると、白い鎧をまとう姿が見えてきた。隣にいる強化兵は……
たぶん、アリサさんで間違いないだろう。
他にも何人か強化兵を引き連れているようだ。少数精鋭による正面突破。勇者の戦術と一緒じゃないか!
だとしたら、フィオナがいる船まで、まだ距離はあっても油断はできない。卑怯かもしれないけれど、
後ろからブレイブバスターで狙い撃ちしてやる!
「くらえ、ブレイブバスター!」
最後の一発となった赤い光線は、真っ直ぐとアルバロノドフの背後へ向かった。そして、その背中に直撃する。
やったぞ!
このまま追いついて、僕があいつを倒すんだ!
しかし、アルバロノドフは直撃したにも関わらず、バランスを崩すこともなかった。旧式とは言え、強化兵たちを吹き飛ばす威力はあったブレイブバスターが、あいつにはまったく効いていないのだ。
「ちくしょう!」
僕はブレイブバスターを捨てて、アルバロノドフの背後へ近づいた。こうなったら、後ろから飛びついてやる!
が、途中でやつが引き連れている強化兵の一人が、こちらへ振り返ると、手の平を向けてきた。手の平から飛び出す火の玉。
「魔法攻撃か!」
僕はマントで身を守ると、軽い衝撃が。バランスを崩すことはなかったが、強化兵は続けて魔法を撃ってきた。
ダメだ、避けられない!
再び軽い衝撃。それを最後に、マントはほつれるようにバラバラになってしまった。
ブースターユニットの使用時間は残りは三十秒。何とかやり過ごせないか……と思ったが、さっきから魔法攻撃を仕掛けてきていた強化兵が、正面から僕に飛びかかってきた。
「行かせないぞ!」
強化兵に飛びつかれ、僕はバランスを崩して転倒する。すぐに立ち上がったが、背中からパチパチッと妙な音が聞こえてきた。すると、ニアの声が。
『誠さん、ブースターユニットを取り外してください! 今の衝撃で壊れたと思います。最悪、爆発すかも!』
「えええ!!」
慌ててブースタユニットを取り外すと、黒い煙が上がっていた。放り投げると、ボカンッという音と共に火に包まれるのだった。
「あ、危なかった」
ブースターユニットが壊れたことはショックだけれど、あと少しでアルバロノドフに追いつくはず。僕は振り返り、走り出そうとしたが、先ほど飛びついてきた強化兵が、道を遮った。
「アリーサ様のところには行かせないぞ、オクト人!」
「……その声、ガジか!」
ノームド化と同じように、強化兵の顔面はもはや人間のそれと異なるため、やつがどんな表情を見せたのか、それは分からない。だが、得意気に笑ったのは確かだ。
「やっぱり、お前だったか。アリーサ様につきまとうな」
「どいてくれ。僕はアリサさんを助けに行く!」
「助けに行く? 邪魔しに行くの間違いだろう!」
「そんなことはない。あの人はアルバロノドフと一緒にいたら不幸になるだけだ。だから、助けないと!」
ガジの後ろで、アルバロノドフとアリサさんの背中が小さくなって行くのが見える。これ以上は、離されたくはない。
「あの方が不幸になるだと……?」
ガジは自らの苛立ちを示すように、握った拳を持ち上げた。
「あの方がそう言ったか?」
「……え?」
「セルゲイ様と離れたいと、あの方が言ったのか?」
……分かっている。
アリサさんは言った。
あいつが好きだから一緒にいるんだ、と。
「確かに、アリサさんはアルバロノドフと一緒に行くことを自分で選んだ。だけど……関係あるかよ! お前はアリサさんがあの野郎に殴られているのに、なんで我慢するんだよ!」
「アリーサ様が望んだからだ! 俺はアリーサ様の望みを守る。それだけだ!」
「間違ってる! ガジ、どかないなら……お前をぶん殴ってでも、アリサさんを助けに行くからな」
「気が合うな、オクト人。俺もお前をぶん殴ってでも止めてやるつもりだったぞ!」
僕とガジは同時に地を蹴った。そして、僕らの拳が交錯した。
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