【ホームの雰囲気】
異世界にいる僕がこんなことを言うのは変かもしれないが、初めて海を越えて外国へやってきた。
初めて見た外国の海。
それは、軍艦がずらりと並ぶ景色だった。
しかも、三隻とか五隻とか、そんなレベルではない。僕の視界いっぱいに広がるほどの数である。フィオナは本気でアッシアと戦うのだ。その覚悟が伝わってきた。
一人、港で待っていると、小舟が近付いてきた。船の先頭に誰かが立っている。
「誠さーん! 誠さぁぁぁーーーん!」
……ニアだ。
そんなに心配していてくれたのだろうか。全力で泣いている。
「ブレイブシフトのデータ! じゃなかった。誠さんが無事でよかったですぅぅぅーーー!」
どうして、ニアが……
と思ったら、そういうことか。
その後ろには腕を組んだハナちゃん。ぼんやりとした表情のセレッソも見えた。
僕が手を振ると、ニアが全力で両腕を振ってくれた。
「なんだよ、思ったより元気そうじゃないか」
船に乗り込むと、ハナちゃんが笑顔で迎えてくれた。なんだか顔が疲れている。もしかしたら、心配していてくれたのかもしれない。
「うん。アッシアの人たちは……良くしてくれたよ」
「……そうか」
ハナちゃんは僕の態度を見て、色々と察してくれたのかもしれない。多くを聞いてくることはなかった。
「誠さん! ブレイブシフト!」
今度はニアが飛びかかってきそうな勢いで声をかけてきた。
「じゃなくて、怪我はありませんか? 誠さんがいない間、大変だったんですよ! ずっと、華さんとセレッソさんが喧嘩ばかりしていて!」
「喧嘩?」
なぜ、あの二人が?
何があったのだろう、と僕がハナちゃんとセレッソの方を見るが、二人はとぼけるように目を逸らす。
ハナちゃんに関しては、ニアの背を小突いた。
「余計なことを言うな。このメカオタク!」
「だって、本当じゃないですか。二人とも誠さんが連れ去られたのは、お前のせいだって言って譲らなかったんですよ」
「私は事実を述べただけだ」
先に反論したのはセレッソ。
「綿谷華が判断を誤って誠を助けなかったから、数日もの間、この男の安否を気にすることになったんだからな」
「爆弾が放り込まれたのに、お前がぼけっとしていたからだろ! お前が一人で逃げていたら、私は誠を助けられたんだ」
「もう、何度同じ話するんですか! 誠さんが帰ってきたんだから、いいじゃないですか~」
顔を見ていないのは、二、三日だけなのに、なんだか懐かしいやり取りだ。っていうか、ニアがこの二人とそれなりに親しくなっていたのが意外だ。
「あの、誠さん……」
ニアが言いにくそうに近付いてきた。
「早速なんですが、ブレイブシフトのデータを見せてもらってもいいですか? あ、もちろん例の必殺技も準備してありますので、使えるようにしておきます!」
「はいはい。ご心配をおかけしましたね」
僕は苦笑いを浮かべながらブレイブシフトを腕から外し、ニアに渡した。ニアは「うわぁ~!」と感激の声をあげつつ、すぐさま抱えていたノートパソコンにブレイブシフトをつなげ、キーボードを高速で叩き始めた。
「とにかく、みんなも無事でよかったよ。フィオナは? もちろん、無事だよね?」
ハナちゃんが答えてくれる。
「ああ、かすり傷一つない。ただ、疲労の方が心配だな。これだけの戦力を集めるために、ずっと動いていたから」
そうか。
サポートするつもりが、肝心なときに一人にさせちゃったんだろうな。
……と、言っても戦いがなければ、僕なんて役に立つシーンもないだろうけれど。
「オクトの船、凄い数だけど……どこから、これだけの人数を集めたの?」
「もちろん、オクト中の勇者や戦士たちを集めたんだよ。このあとも、応援がくるらしいから、イザール上陸戦はオクトの圧勝だろうな」
確かに、この戦力ならば負けることはないだろう。アッシアがイザールに援軍を出さない限り、圧倒的な戦力差で押し切れるはずだ。
セレッソと目が合う。
たぶん、皮肉を言われるのだろうと思ったが、そうではなかった。
「二度と敵に捕まるなよ。本気でこの世の終わりだと思ったんだからな」
僕は何と言えばいいのか分からず、ただ笑顔を返した。
気付けば僕たちが乗っている小舟は、オクトの軍艦のすぐ傍まで近付いていた。言い争う声や忙し気に動く機械音など、人々の活気を間近に感じる。
僕はなんだか妙な気分になって、イザール基地の方へ振り向いた。
「あっちは、静かだな……」
ハナちゃんとセレッソに連れられ、一番大きい船の司令室らしきところに顔を出すと、そこにはフィオナが慌ただしく指示を出す姿があった。
「フィオナ様。勇者、神崎誠を保護しました」
ハナちゃんが呼びかけると、フィオナは視線を移動させた。
「ご苦労様です。貴方は下がって、一時間後の戦闘に備えてください。あと、セレッソを連れて行くように」
「こいつを、ですか?」
意味不明の指示にハナちゃんが眉を寄せる。フィオナは視線を戻して、偉そうな大人たちとモニターを眺めながら答えた。
「連れて行きなさい。何でもいいから、手伝いをさせて」
「はぁ……」
「おい、なぜ私がそんなことを……」
セレッソもフィオナの意図を理解できていないようだったが、ハナちゃんに引きずられるようにして、司令室から出て行くのだった。
フィオナは忙しそうだし、僕もやることはないと思ったので、ハナちゃんたちの後を追おうとしたが、なぜか引き止められる。
「神崎誠。貴方には聞きたいことがあります。そこで待っているように」
「は、はい」
言われるがまま、その場に突っ立って待っていたが、フィオナは指示を出したり、大人たちの話を聞いたり、一瞬たりとも僕の方を見なかった。
しかし、二十分後。やっと、フィオナが僕の方へ歩いてきた。
「行くわよ」
と言って、僕の手を取って司令室を出ようとする。
「い、行くってどこへ?」
「良いから!」
この感じ、怒っているぞ。
どこに連れていかれるか分からないけれど、たぶんお説教なんだろうな。
今のうちに言い訳でも考えておこう……。
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