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【びびっちまったら勇者失格よ】

「え? なに? 何が起こったの?」


僕は状況を理解できず、あたりを見回したが、慌てているのは僕だけではなかった。


「誠。落ち着け」


横にいたセレッソが、僕を宥める。


「落ち着いて、決して取り乱すな。そして、あれを見ろ」


セレッソが人差し指を正面に向ける。巨大な窓ガラスの向こうは、戦場が広がり、その先の海には大きな船が三隻並んでいた。そして、真ん中の一際大きい船、その中央にある建造物のような部分のてっぺんから、黒い煙が上がっていた。


それを見たフィオナが呟く。


「艦橋が燃えている……? まさか――」


「こちらの狙いが読まれていたようですね」


馬部さんも腕を組んで、何やら険しい顔を見せている。


どういうこと?

何があったの?


混乱する僕に、セレッソが説明する。


「どうやらアルバロノドフはこちらの作戦を見抜いていたらしい。おそらく艦橋にアルバロノドフはいなかった。その代わり爆弾でも置かれていたのだろう。勇者たちが艦橋へ入った瞬間、それが爆発した」


「じゃあ、ハナちゃんたちは!?」


「それも気になるが、アルバロノドフがどこに行ったのか……そっちを考えた方がいいかもしれないぞ」


「どういうことだよ……?」


混乱していると、再び司令室が騒がしくなった。そして、オペレーターさんが叫ぶ。


「アルバロノドフが現れました。西の方角から、こちらに向かって直進しています!」


「西からだと?」


馬部さんの声が動揺している。さらに、フィオナの表情も曇っていた。


「戦力を中央に集中していたせいで、西側は手薄……基地の守りに戻るよう指示を!」


「ダメです! 勇者たちは強化兵と交戦中。アルバロノドフを追えません」


モニターには、とんでもないスピードで戦場を走り抜けるアルバロノドフの姿が。それを阻むものは何一つない。


おいおいおい!

アルバロノドフが、こっちへ一直線に向かっているってことだよな?


まさか、この司令室まで上がってくることは、さすがにないだろうけど……


もし、そうなったら、僕と馬部さんがアルバロノドフを迎え撃つってことか?


司令室の緊張感が高まる中、馬部さんが落ち着いた声で指示を出す。


「仕方ない。基地内の戦力を正面ゲートに集中。私も出る」


馬部さんがフィオナに確認する。


「よろしいですね?」


馬部さんも行っちゃうの?

いや、待てよ。

アルバロノドフが基地内へ入ってくる前に、馬部さんが倒してくれるってことか。


フィオナが頷きかけた、そのときだった。


「作業用の昇降式足場が作動! 屋上から地上へ向かって降りています」


「こんなときに? どういう状況だ?」


馬部さんの声に反応したかのように、モニターが作業用の昇降式足場とやらを映し出した。それは、高層ビルの窓ふきで見るゴンドラの大きいタイプ、といった感じで、基地の正面の壁を沿って上下に動く足場のようだった。ただ、かなり大きく、百人くらいの人間を乗せても、余裕がありそうなスペースである。


それを見た馬部さんの表情が変わった。


「すぐに止めろ! もし、あれにアルバロノドフが乗り込んだら、直接ここを攻めてくるぞ!」

ま、マジかよ!


誰か今すぐ止めてよーーー!


「遠隔による操作ができません。誰かが足場に設置されているコントロールパネルから、直接操作しています」


誰がそんなことを?

と僕は足場が映るモニターを凝視する。


すると、そこにはブライアの姿が……!


「第二司令室から連絡がありました。足場を下したのは、フィオナ様の極秘命令によるものとブライア様から聞いていたようです。それは……?」


事実を確認するオペレーターに、フィオナは顔色を変えずに答えた。


「あの男は裏切者です。ここに来る途中、私の暗殺を企てていたため、捕えていました」


司令室に動揺が走る。誰もが、ブライアの裏切りを信じられないようだ。


「今は裏切者のことを考えている暇はありません。何とか足場を止められないのか!」


フィオナの一喝に、全員が何とか集中力を取り戻そうとしていた。しかし、足場が止める手段はないらしい。


「アルバロノドフ、基地の敷地内に侵入! 戦士たちの守りを突破して、昇降式足場へ向かっています」


オペレーターさんの報告に、横にいるセレッソが呟くように言った。


「ブライアがどうやって逃げ出したのか、という点も気になるが、これではアルバロノドフと示し合わせたかのようだな。ブライアはアッシアとつながっていたと考えるべきか、それともパイプ役の何者かが黒幕か……」


「冷静に分析している場合じゃないだろ! どうするんだ、あいつがくるぞ!」


すると、オペレーターさんが震えた声で報告する。


「アルバロノドフ、昇降式足場に乗り込みました。コントロールパネルを操作……こちらに上がってきます!」


モニターに映し出された昇降式足場。


そこにはブライアではなく、アルバロノドフの姿が。そして、それは既に上昇していた。


司令室のスタッフさんたちも、恐怖のためか、ほとんどの人が黙っていた。だが、そんな中、馬部さんの落ち着いた声が響いた。


「姫様、私が行きます」


その声は、決して大きいものではなかったが、確かな覚悟があり、司令室に力強く響いた。それを感じ取ったのか、フィオナはわずかに目を伏せて、ただ言うのであった。


「……我々の命、貴方に委ねます」


「お任せを」


馬部さんは笑顔を見せる。

それは、まるで今から家まで送ってやる、といった程度の、日常的な表情にしか見えなかった。


そんな優しい表情のまま、馬部さんが僕を見る。


……え?


僕はためらった。

ためらってしまった。


きっと、馬部さんは無言で問うたのだ。


一緒に行くか、と。


しかし、僕はためらいの表情を浮かべてしまった。


「誠くん! フィオナ様を頼んだ!」


馬部さんは笑顔を残すと、正面の窓ガラスの方へ移動した。すると、誰かが操作したらしく、ガラスの一部がスライドして、外の風が司令室に入り込む。


きっと、真下にはアルバロノドフが乗った昇降式足場があるのだろう。そして、馬部さんが左腕にあるブレイブシフトをつかんだ。


「ブレイブ……チェンジ!」


馬部さんを包む激しい光。そして、それが消え去ると、紫色のブレイブアーマーに身を包んだ馬部さんの姿が。


「正義、執行!」


勇者としての使命を叫び、馬部さんは空中へ飛び出していった。

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