【炸裂!必殺パンチ!】
白い蒸気が散って行くと、リリさんが姿を現す。だが、彼女の筋肉は隆起し、肌は明らかに硬質化した、別物だった。綺麗な青い髪の毛も人工的なロープのように変化している。フィオナが言う通り、リリさんはノームド化したのだ。
「フィオナ、ハナちゃんを連れて別の車両に逃げて!」
「……駄目! 私一人では彼女を運べない!」
「分かった。ハナちゃんは何とか守るから、フィオナ一人だけで逃げて」
「馬鹿! 部下を置いて逃げれるか!」
情に厚いのは良いけれど、この場合はどうなんだ??
でも、ハナちゃんを守ってくれるって言うなら、ありがたい。そう考えるようにしよう。
どっちにしても、二人に危害が及ぶ前に、僕がノームド化したリリさんを止めればいいんだ。
「フィオナ、ノームド化を解除する方法はないのか?」
「貴方、勇者なんだから知っているでしょう! ダメージを与えて、気絶させるの!」
「それ以外だよ! 魔法とかで何とかできないのか?」
「そんなの、できるとしたら大聖女のセレーナ・エルマだけよ。やれるなら、最初からやっているんだから!」
「分かった。じゃあ、できるだけ姿勢を低くして安全を――」
言い終わる前に、ノームド化したリリさんが動いた。
全身灰色のモンスター。
そう形容するしかない彼女が獣のように襲い掛かってくる。
大きな右の拳が巨大な刃物状に変化した。
さっきリリさんが手にしていたナイフより、何倍もでかい。そして、踏み込みのスピードも早く、たった一歩で何メートルという距離を消失させた。
突き出された巨大ナイフのような右腕。避けきれず、左腕で防御すると、鋼がぶつかり合う音が響き、火花が散った。
『DAMAGE』
耳元でそんな音声が流れると同時に、視界の右下に英語で赤い字の警告らしき表示が。
たぶん、ダメージって言ったよな?
僕の腕にも痛みが走ったけど、どうやらブレイブアーマーもダメージらしいダメージがあった、ということらしい。どれだけ耐えられるか分からないが、何度も同じ攻撃を受けたらブレイブアーマーも壊れてしまうのだろう。
僕は即座に膝を突き上げて反撃した。
もちろん、手加減したのだが……まるで分厚いマットを殴ったみたいに鈍い感触が。もう少し力を込めて、殴り付けたが、あまり手応えがなかった。
驚いていると、今度は左のパンチをもらってしまった。どれだけの威力だったのか、衝撃に後退ってしまう。さっきの警告音はなかったが、僕の体にはじんわりを痛みが響いた。
「こうなったら、手加減できないぞ!」
迫るリリさんを迎えるため、構え直す。僕の首を切断するつもりか、彼女はあの巨大ナイフを横に振るった。身を屈めてそれを避けつつ、左のパンチを彼女の腹部に入れる。
普通の体であれば、痛みに動きが止まるはずだが、ノームド相手ではそんなことはない。彼女は再び僕の頭頂部目がけて巨大ナイフを振り下ろす。
バックステップでそれを避けるが、彼女はさらに踏み込みつつ、ナイフを突き出してきた。身をよじって避けるが、バシンッ!という音と共に脇腹に火花が飛び散った。
『DAMAGE』
た、確かに!
横腹がめっちゃ痛い!
これはブレイブアーマーが耐えられても、僕の体が限界を迎えることもありそうだ。これ以上は、できるだけ攻撃を受けずに戦わないと!
僕は全力で右ストレートを放つと、それはリリさんの顔面を完全に捉えた。ちゃんとダメージを受けたらしく、がくっと膝が折れる。
やったか……!
「手を緩めるな! 畳みかけて!」
フィオナの指示。
相手は女の人だけどノームドだ。確かに、ここで油断するのはまずいかもしれない。
僕は膝蹴りを二発叩き込み、左フックで顎を揺らしてやった。生身の人間なら、間違いなく気を失うはずだが……
リリさんはナイフ形の右腕を振り上げた!
僕の胸が裂かれ火花が散り、衝撃に何歩か後退を強いられる。
『DAMAGE』
「これ、毎回言うのか!?」
すると、視界の右下に何やら表示が
『Select language』
「言語を選べってことか? 日本語で!」
『Select language』
「あ、オクト語!」
『言語をオクト語に変更しました』
「よし! でも、今やる必要あったか? うわっ!」
設定を変更している間に、リリさんが目の前に。今度は横一閃の一撃に、またも僕のブレイブアーマーが火花を散らした。
『ダメージ』
なんだよ、発音が日本語っぽくなっただけで、それは英語なのか!
「ちくしょう! 何か武器はないのか!」
僕はリリさんの攻撃を避けながら、ブレイブアーマーのサポートプログラムらしきものに問いかける。
『ブレイブソード未装備。ブレイブバスター未装備。ブレイブスラッシュ未装備。ブレイブドリル未装備』
ソードにバスター、ドリルもあるのか!?
スラッシュ……ってなんだ?
なんでもいいけど、使いたかったなぁ……!
「じゃあ、必殺技とかは? ないの?」
『現状のスペックでは、ブレイブナックルの使用を推奨』
「いいじゃん! それ使いたい! どうすればいいの?」
『右腕にプラーナを集中。チャージ完了と同時に使用可能。右腕による攻撃力が格段にアップします』
「チャージ完了って、どうすればわかるの?」
僕は大きく飛び退いて、リリさんから距離を取る。やり方をちゃんと聞きたかったのだ。サポートプログラムは期待通り、短く答えてくれた。
『こちらでアナウンスします』
「よっしゃ、だったら行くぞ!」
僕は右腕にプラーナを込める。
いや、プラーナを込めるって感覚は分からないのだけれど、とにかくぶん殴ってやると言う気持ちを込めた。
それに、ニアが入れてくれたプラーナ制御のコントロールプログラムもあるんだ。絶対に成功するはず。
「うおりゃああああーーー!」
と気合を入れると、
右腕が少しずつ光り始め、それは次第に勢いが増していく。
すげえぞ、右腕だけスーパーサ○ヤ人みたいだ!
『チャージ』
「行くぞ!」
一気にリリさんの方へ駆け寄り、ここぞという間合いで右の拳を引く。
くらえ、必殺!
「ブレイブ、ナックル!」
輝く右腕をリリさんへ。ドンッという音と手応え。
そして、僕とリリさんの間で眩い発光が広がった。
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