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【王女様の指示】

メメさんは、僕の組み付きを捌くと、素早い左ストレートを放ってきた。


が、弾丸ほどは速くない。


僕は重心を右に逸らして避けつつ、今度こそメメさんの腰辺りをがっつり掴んだ。両腕を巻き付けるように組み付いて、足を払って倒す。


「動かないで!」


体重を乗せて、動きを封じると、メメさんは暫くの抵抗の後、動かなくなった。自分でもびっくりするくらいスムーズに制圧できたが、


これまで皇や岩豪といった強敵たちを相手にしてきたのだから、これくらいはできるものなのだろう、と納得する。


無事を確信したセレッソが近付き、メメさんを見下ろす。


「ブライアの目的は?」


詰問するセレッソに対し、メメさんは何も言わない。


「まさか、考えなしにフィオナの命を狙ったのか? それとも、今さら王位が欲しくなったか」


それでも黙るメメさんに、セレッソは鼻で笑う。


「欲に動かされ、稚拙な計画で動くとは馬鹿な男だ。それとも、周りの人間におだてられ勘違いしたのか。どっちにしても、浅はかな男だ。そんな男に従うお前も、もちろん馬鹿だな」


「あのお方の目的は、王位なんて小さいものではない!」


メメさんの声が地下牢に響き渡る。


「では何だ? 言ってみろ。そうでなければ、あいつは王位欲しさに暗殺を企て、何もできないまま計画を阻止されたアホとして語り継がれるぞ? まぁ、普段からアホ面をしていたからな。騒動を起こさなくても、いつかはアホとして歴史に名を残しただろう。無能はどこまで行っても惨めだな」


僕は初めてセレッソが味方でよかった、と思った。こんなにも苛立たせる挑発をくらったら、正気ではいられないだろう。実際、メメさんも頭にきたのか暴れようとしたが、さすがに僕も解放してやるわけにはいかなかった。


「あの方は、世界を正すために動いている。戦争、貧困、不平等、アトラによる呪い。これらから人々を解放するためには、各国の代表たちに刃を見せてやらなければならない。人々が抱える怒りの刃を!」


「……刃だと?」


セレッソの表情がやや変わった。


「あんな考えの足らなそうな男に、そんなことができるわけないだろう」


「あの方を馬鹿にするな! あの方は、そのために力を手に入れた。世界を正すための力!」


「どんな力だ。言ってみろ。協力者でもいるのか?」


「……そんなことは知らない」


「嘘を言うな。まぁ、いい。フィオナに話せば、少しくらい残酷な拷問だって許可が下りる。お前が痛い思いをする前に、すべて話してくれることを祈るさ」


「素人のくせに。簡単に情報を引き出せると思うなよ」


「いかん!」


アインス博士が叫んだ。


「毒だ! 誠、手を口の中に突っ込め!」


「え?」


何のことだろう。

僕が混乱している間に、メメさんは口から泡を吹き始める。


「な、なんだよこれ!」


戸惑う僕の代わりに、博士とニアがメメさんの口の中を調べる。しかし、彼女は激しく吐血し、それが僕の頬に付着した。そして、メメさんが僕のを見た。


僕を見て、言うのだった。


「い、妹を……リリを、おねが、いします。優しい、勇者、様」


「おい、待て。お願いしますって何だよ! ちゃんと説明しろよ!」


メメさんはもう一度小さく吐血すると、目を見開いたまま、動かなくなってしまった。これって、死んじゃった……ってこと、だよな?


彼女の横で膝を付いていたアインス博士とニアが立ち上がる。


「猛毒による自害だ。暗殺者は自らを口封じするため、口内に毒を仕込むと言うが……こういうことか」


アインス博士もニアも、僕よりもメメさんに近かったため、多くの血が顔に付着していた。その瞬間、僕の胸の中で、何かがうねるような感覚が。


「お、おえぇーーーっ!」


刑事ドラマなんかで、初めて遺体を見た新人が吐くシーンを見るけれど、こういうことか。ちくしょう、マジで胸糞悪いじゃないか。


「誠、大丈夫か」


セレッソが背中をさすってくれる。目を閉じるが、メメさんが僕を見て呟くように口を動かす姿が、再生されてしまった。


「うぇっ、うえぇ……」


涙も流れてくる。

なんだよ、お願いしますって。


お前たちは、僕たちのことが憎くて、こんなことをしているんじゃないのか?


なんのために、なんのために。


僕の頭はごちゃごちゃだ。自分がいま何を見て、何を考えるべきなのか、まったく分からなかった。ただ、今思い浮かんだことはこれだけだ。


「セレッソは……平気なのか?」


あんなもの見て、

こいつは気分が悪くならないのだろうか。セレッソは暫くの沈黙の後、こう答えた。


「……とっくの昔に、慣れてしまったからな」


セレッソは今まで何を見てきたのだろうか。たぶん、僕には想像できないことなんだろう。


じゃあ、フィオナは?

あの強気なお姫様も、こんなきつい世界で戦ってきたのか。


その後、ニアがボーマンさんを呼び出し、メメさんは運ばれて行った。僕は再びこの地下牢に放り込まれるのだろうか、と思ったが、ニアに案内されてセレッソと二人で研究所の方へ移動することになった。


「僕はどうなるんだ?」


セレッソに聞く。


「地下牢の会話は、あの変態博士がモニターしていた。記録もある。今、ボーマンたちに見せているところだ。そして、お前は釈放されることになるだろう」


「でも、僕は王族を襲ったことになっているんだろ。それだけで釈放されるものなのか?」


そんなに簡単なことではないはず。


そう思ったが、セレッソは呟くように、どこか憐れむように言った。


「……フィオナの指示だからな」

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