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【地下牢の問答】

地下牢、なんて言うから、真っ暗でジメジメした雰囲気なのかと思っていたけれど、そうでもなかった。


ちゃんと電気もあって明るいし、壁もコンクリートで清潔だ。しかし、何もない狭い空間で、長い間放置されてしまったら、かなり気が滅入ってしまいそうだ。


牢にぶち込まれる寸前、ニアが現れた。


「誠さん、その……言いにくいのですが、ブレイブシフトを回収に来ました。プロトタイプではありますが、ブレイブアーマーがあったら牢に入れる意味がないので」


簡単に脱獄できちゃうから、って意味か。


「わかったよ。でも、これ変身できなかったよ? ピンチのとき使おうとしたのに、余計にピンチになっちゃったんだから」


「えええ? そんなはずは! ちゃんと調整したんですよ? どうやって使いました?」


「普通に、こうやって反対の手で握りしめてから、変身って!」


皇の真似をしてやってみた、変身のときのジェスチャーを再現したが、ニアは変態の一発芸でも見たように困った顔になってしまった。


「……誠さん。ブレイブシフトは持ち主のブレイブチェンジ、という言葉に反応します。それ以外は反応しないので使えないのは当然ですよー!」


「えええ! ダメだよ、そんなの! お願いだから変身!で変身できるようにして~!」


「な、なんでですか?」


「変身、じゃないと気合が入らないからさ。ヒーローはみんな、変身!って変身するんだから」


「……よく分かりませんが、分かりました! すぐ変更できるので、誠さんがここを出るまでに対応しておきます」


「ありがとう!」


ブレイブシフトを取り外し、ニアに手渡した後、その他の所有物も回収されてしまった。といっても、スマホ、財布、芹奈ちゃんからもらった護符だけなんだけど。


それが終わると、すぐに牢の中に放り込まれ、ガチャンッ、と残酷な音が響く。


嗚呼、お父さんお母さん。

貴方の息子は異世界で牢屋に入れられてしまいました。何不自由なく育ててもらったのに、こんなことになってしまい、本当に申し訳ないです。


と懺悔はしたものの、僕は緊張感を切らさず、待っていた。何を待っているのか。それは思ったよりも早くやってきた。


静まり返った地下牢は、人が歩けばその音が響くはず。しかし、その人物は音もなく現れた。


「おはよう、メメさん。それともリリさんかな」


「……姉の方、メメです」


髪が白い方のメイド、メメさんだ。


「ブライアの命令できたんだろう」


メメさんは無言のまま、懐から小型の銃を取り出した。


「楽に殺してやって欲しい、と妹から頼まれています。確実に心臓を撃ち抜くので、避けないように」


リリさんの頼みだって?

よく分からないが、昨日の夜に会話したおかげで少し憐れんでもらえたのだろうか。


銃を持つ手と反対の手に、一発の弾丸が握られていた。そして、メメさんは弾丸を丁寧に込めて、僕の方へ向ける。


「待って! 最後に教えて欲しい」


最後に、とか言いながら、僕の動体視力なら何とか避けられるのは、と少しだけ自分に期待している……。たぶん、ちょっと楽観的に考えているだろう。でも、メメさんの考えが気になることも確かだ。


「メメさんもこの国が憎いの? 世界を憎んでいるから、戦争を起こしたいから、フィオナの命を狙うの?」


「……戦争を起こしたいなんて、思うわけないじゃないですか」


「でも、ブライアは戦争を起こしたいと言っていたよ。それに賛成しているってことじゃないのか?」


「あの人は……鳥が自由に飛び回る世界を作ると言っていました。そのためには、戦争をなくすためには、この世界を刃で正さなければならない。そのために、まずは貴方を!」


「待って待って! 待ってーーー!」


やばい、もう少し会話を続ければ、何とか見逃してもらえるかも……と思ってたのに!


もうちょっと命乞いさせてくれ!!


何かないのか、同情を誘うような話題は!!


パンッ、と思ったより地味な音が。


う、撃たれた。

痛みはない……。


そうか、一発で心臓を撃ち抜かれると、痛みもなく死ねるのか。


あー、死んじゃったなぁ。意外に痛くないからよかったけど、セレッソには申し訳ないな。ハナちゃんとの約束だってあったのに。


あと、フィオナ。

死ぬ前に、一回でもあいつの役に立ってやりたかった。


一人で世界を背負い込む、という重たい荷物を背負った王女様。


その荷物を少しでも軽くしてやれるのは、セレッソを抜かせば僕だけだったんだ。少しでも楽させて、任せられる仲間がいるって思ってもらえたら……。


それにしても、全然痛くないな。

意識もまだはっきりしているし。そろそろ視界が狭くなったり、寒くなったりするのかな。


あ、そうだ。

あれをやっておこうかな。


撃たれたところを触って、血の付いた手を見てから、


なんじゃこりゃー!って叫ぶやつ。


ん?

傷口どこだ。

どこから血が出ているんだ?


……出てないぞ?


「どうして! 護符は持っていないはずなのに!」


何があったのか、メメさんが焦っている。よく見ると、鉄格子と鉄格子の間で、弾丸が停止していた。薄いカーテンのようなものが、わずかに光を放ち、弾丸を止めているように見える


そう、まるでバリアのように。


「無駄だよーん。その鉄格子は高性能な護符と同じ機能があるんだから。一流の魔弾使いでもない限り、誠を銃殺するなんて無理無理~」


この声は!


「アインス博士!」


あまりの嬉しさに思いっ切り叫んでいた。


「誠、無事かー?」


「誠さん、よかったですーーー!」


隣にはニア、その後ろにはセレッソも!


「変態博士。誠を出してやれ」


「了解了解。ポチッとな」


すると、目の前の鉄格子が横にスライドする。鉄格子が取り払われ、まだ驚いた表情のままのメメさんと目が合う。


「誠、そいつは重要証拠だ。捕らえろ!」


セレッソの指示に、僕の体は瞬時に反応した。

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