表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

111/352

【演技に決まっている】

「昨日は本当にありがとう。フィオナの命を救うなんて、この国の人々すべてを救ったに等しいよ」


そう言いながら、ブライアはすぐ傍まで寄ると、僕の肩を叩いた。


「でも、私を犯人扱いするのは酷いじゃないか。こう見えて、人前で胸を張って言えないようなことは、何一つやっていないつもりさ」


黙っている僕の耳に、ブライアは口元を近付けてきた。


「よくも邪魔してくれたな、うすのろ」


囁きは唐突の本音丸出しだった。


「おかげで深夜にボーマンたちが押し寄せてきて、少し焦ったんだぞ。証拠を隠滅するために、久々に魔法なんかも使ったよ」


僕の肩に置かれた手に力が入って行く。それは、怒りと言うよりは、悪意と愉悦がほとんどであるように感じられた。


「結果、上手く誤魔化せたから、良かったんだけどね。計画が一日伸びただけだ。安心しろ、フィオナはちゃんとぶっ殺してやる。あいつの死体にフ○ックする瞬間、お前にも見せてやりたかったが、それはできないだろうな。残念だ」


「お、お前……!」


「騒ぐな騒ぐな。騒いだところで、誰もお前を信じない。それは十分理解しただろ」


「なんでフィオナを狙う? あんたは、あいつの憧れで、あんたもあいつを可愛がっていたんだろ」


「そんなの、演技に決まっているじゃないか。ずっと、殺したいと思っていたよ。今が最高のタイミングだから、今やるってだけだ。世界を守るとか言って、目を輝かせるあいつが絶望に染まる瞬間、想像しただけで興奮するなぁ。そうだ、ちゃんと絶望を実感してもらうためにも、ゆっくり殺そう。お前も見たいか? 動画を取ってきてやってもいいぞ。今のうちに連絡先も交換しておくか?」


「ふざけるな……」


「あいつを殺したら、オクトの人間も皆殺しだ。いや、世界中の人間、全員をぶち殺してやる。私と世界の戦いが始まるんだ」


「なんのために、そんなことを……」


「なんのため? 気に喰わないからに決まっているだろ。世界中のすべてが気に入らない。だから、叩き潰してやるんだ。そのためにも、まずお前を殺す。すぐに殺す。私の敵、第一号としてちゃんと殺してやるから、光栄に思うんだぞ」


ブライアが僕の腕を引っ張る。


「だからさ」


声は悪の囁きから、爽やかな妹を可愛がる男のものに戻っていた。


「その前に仲直りしよう。ほら、握手だ」


ブライアが僕の腕を、強引に手を握ってきた……


が、やつの狙いは握手なんて可愛いものではなかった。


「な、何をするんだ!」


「え?」


ブライアが叫びながら後退った。

当然、多くの人の視線がこちらに集まる。


「ブライア様、どうなされた!」


多くの大人たちが、僕とブライアを囲った。中にはボーマンさんもいた。


「誠、何があったんだ!」


「ハナちゃん、下がって!」


巻き込むわけにはいかない。僕はハナちゃんを押して、遠ざけた。何があったのか、僕はすぐに理解する。


握手を強要されたとき、僕はナイフを握らされたのだ。そして、ブライアの手から血が滴っている。


「貴様、ブライア様に何を!」


ボーマンさんが僕の方へ詰め寄った。その後ろで、ブライアが悪意たっぷりの微笑みを浮かべている。


「待って! 何かの誤解かもしれない!」


ブライアは表情を変えてボーマンさんを制止するが、彼は手錠を取り出した。


「何があったのです」


騒ぎに気付いたフィオナが現れたが、僕の姿を目にすると、何かを察した表情を見せた。


「この男、ブライア様に向かってナイフを振るいました。すぐに拘束します」


「ちょっと待ってください!」


反射的に無実を主張しようと声を挙げたが、ボーマンさんが僕の手首に手錠をかける。


「待って、フィオナ。彼にも何か事情があるのかもしれない」


再びブライアが善人を演じると、フィオナは首を横に振った。


「お兄様を傷付けたのです。何も処罰がない、というのは示しがつきません。ボーマン、その男を地下牢へ。正式な処罰は帰ってから決めます。帰ってこられるのであれば、ですが……」


フィオナは興味がない、といった様子でその場を立ち去ってしまう。その先にはセレッソが立っていて、抗議する様子が見て取れたが、何を言われたのか、すぐに大人しくなってしまった。


「さぁ、こっちだ。歩け!」


ボーマンさんに引っ張られ、僕は足を動かす。


「おい、誠! どうなっているんだ!」


ハナちゃんが離れたところから、声をかけてくれた。


「ハナちゃん、フィオナから目を離さないで! ブライアとメイドさん二人にも注意して。頼んだよ!」


「うるさい!」


ドカッと、ボーマンさんに後ろから殴られてしまい、ハナちゃんが僕の言葉をどう受け取ったのか、確認することはできなかった。

「面白かった!」「続きが気になる、読みたい!」と思ったら

下にある☆☆☆☆☆から、作品の応援お願いいたします。


「ブックマーク」「いいね」のボタンを押していただけることも嬉しいです。よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ