【演技に決まっている】
「昨日は本当にありがとう。フィオナの命を救うなんて、この国の人々すべてを救ったに等しいよ」
そう言いながら、ブライアはすぐ傍まで寄ると、僕の肩を叩いた。
「でも、私を犯人扱いするのは酷いじゃないか。こう見えて、人前で胸を張って言えないようなことは、何一つやっていないつもりさ」
黙っている僕の耳に、ブライアは口元を近付けてきた。
「よくも邪魔してくれたな、うすのろ」
囁きは唐突の本音丸出しだった。
「おかげで深夜にボーマンたちが押し寄せてきて、少し焦ったんだぞ。証拠を隠滅するために、久々に魔法なんかも使ったよ」
僕の肩に置かれた手に力が入って行く。それは、怒りと言うよりは、悪意と愉悦がほとんどであるように感じられた。
「結果、上手く誤魔化せたから、良かったんだけどね。計画が一日伸びただけだ。安心しろ、フィオナはちゃんとぶっ殺してやる。あいつの死体にフ○ックする瞬間、お前にも見せてやりたかったが、それはできないだろうな。残念だ」
「お、お前……!」
「騒ぐな騒ぐな。騒いだところで、誰もお前を信じない。それは十分理解しただろ」
「なんでフィオナを狙う? あんたは、あいつの憧れで、あんたもあいつを可愛がっていたんだろ」
「そんなの、演技に決まっているじゃないか。ずっと、殺したいと思っていたよ。今が最高のタイミングだから、今やるってだけだ。世界を守るとか言って、目を輝かせるあいつが絶望に染まる瞬間、想像しただけで興奮するなぁ。そうだ、ちゃんと絶望を実感してもらうためにも、ゆっくり殺そう。お前も見たいか? 動画を取ってきてやってもいいぞ。今のうちに連絡先も交換しておくか?」
「ふざけるな……」
「あいつを殺したら、オクトの人間も皆殺しだ。いや、世界中の人間、全員をぶち殺してやる。私と世界の戦いが始まるんだ」
「なんのために、そんなことを……」
「なんのため? 気に喰わないからに決まっているだろ。世界中のすべてが気に入らない。だから、叩き潰してやるんだ。そのためにも、まずお前を殺す。すぐに殺す。私の敵、第一号としてちゃんと殺してやるから、光栄に思うんだぞ」
ブライアが僕の腕を引っ張る。
「だからさ」
声は悪の囁きから、爽やかな妹を可愛がる男のものに戻っていた。
「その前に仲直りしよう。ほら、握手だ」
ブライアが僕の腕を、強引に手を握ってきた……
が、やつの狙いは握手なんて可愛いものではなかった。
「な、何をするんだ!」
「え?」
ブライアが叫びながら後退った。
当然、多くの人の視線がこちらに集まる。
「ブライア様、どうなされた!」
多くの大人たちが、僕とブライアを囲った。中にはボーマンさんもいた。
「誠、何があったんだ!」
「ハナちゃん、下がって!」
巻き込むわけにはいかない。僕はハナちゃんを押して、遠ざけた。何があったのか、僕はすぐに理解する。
握手を強要されたとき、僕はナイフを握らされたのだ。そして、ブライアの手から血が滴っている。
「貴様、ブライア様に何を!」
ボーマンさんが僕の方へ詰め寄った。その後ろで、ブライアが悪意たっぷりの微笑みを浮かべている。
「待って! 何かの誤解かもしれない!」
ブライアは表情を変えてボーマンさんを制止するが、彼は手錠を取り出した。
「何があったのです」
騒ぎに気付いたフィオナが現れたが、僕の姿を目にすると、何かを察した表情を見せた。
「この男、ブライア様に向かってナイフを振るいました。すぐに拘束します」
「ちょっと待ってください!」
反射的に無実を主張しようと声を挙げたが、ボーマンさんが僕の手首に手錠をかける。
「待って、フィオナ。彼にも何か事情があるのかもしれない」
再びブライアが善人を演じると、フィオナは首を横に振った。
「お兄様を傷付けたのです。何も処罰がない、というのは示しがつきません。ボーマン、その男を地下牢へ。正式な処罰は帰ってから決めます。帰ってこられるのであれば、ですが……」
フィオナは興味がない、といった様子でその場を立ち去ってしまう。その先にはセレッソが立っていて、抗議する様子が見て取れたが、何を言われたのか、すぐに大人しくなってしまった。
「さぁ、こっちだ。歩け!」
ボーマンさんに引っ張られ、僕は足を動かす。
「おい、誠! どうなっているんだ!」
ハナちゃんが離れたところから、声をかけてくれた。
「ハナちゃん、フィオナから目を離さないで! ブライアとメイドさん二人にも注意して。頼んだよ!」
「うるさい!」
ドカッと、ボーマンさんに後ろから殴られてしまい、ハナちゃんが僕の言葉をどう受け取ったのか、確認することはできなかった。
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