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【無意味な証言】

暗殺未遂現場に戻ったところ、既にフィオナはいなかったので、部屋を尋ねてみたが、入り口の護衛は五人に増えていた。


「あ、あの……フィオナ、様に会いたいのですけど?」


重々しい雰囲気で声をかけにくいが、早く黒幕のことを話さなければ。勇気を出して、声をかけてみたのだが――。


「誰だ、君は! 動かないで。両手を壁に付けなさい!」


「え? ちがっ、僕はその、勇者なんですけど!」


「いいから、両手を壁に!」


こ、怖いよーーー!

言われるがまま、両手に壁を付けたが……ドアを開く音が。


「いいのよ。そいつ、部屋に入れて」


フィオナの声!

大丈夫だと思ってはいたけど、ちゃんと無事を確認できてよかった!


何とか解放され、僕はフィオナの部屋に入った。


セレッソはいなかったが、代わりにちょっと怖そうな大人が何人も。その中でも、一番偉そうなスキンヘッドのおじさんが声をかけてきた。


「君が神崎くんか。フィオナ様を助けたこと、お手柄だったね」


「い、いえ……」


「貴方、あの時間まで何をしてたの? 勇者たちはもう休んでいるはずだけど?」


……助けたはずなのに、フィオナは僕を睨み付けてくる。


「明日から戦争に参加するのよ? たぶん、今日がゆっくり寝れる最後の夜なんだから、しっかり寝ておきなさいよ。後で文句言ってきても、知らないからね」


「……僕が寝る部屋、用意されているのか?」


「……あっ」


やっぱり……。


「他にも、色々お願いがあってフィオナを……」


大人たちの視線が集まる。呼び捨ては駄目だ。


「フィオナ様を探していたんです。でも、忙しそうだから声かけられなくて。やっと時間が空いたみたいだから、話しかけようとしたんだけど、そしたら巻き込まれました」


「そ、そう。部屋を用意してなかったことは謝る。あと、助けてもらったこともお礼を言います。ありがとう」


まったく僕の顔を見ていないが、お礼を言えたことには少しだけ感心する。


「別にお礼なんていいよ。世界を守るため、勇者たちを全力でサポートするフィオナの命を狙うやつなんて、僕だって許せないんだから」


フィオナは驚いたように僕を見つめている。僕、そんなに変なことを言ったか?


「神崎くん」


最初に話しかけてきた、スキンヘッドのおじさんが入ってきた。


「私はボーマン。オクト城の警備責任者だ。今回は私の不手際をフォローしてくれたこと、改めて礼を言うよ」


「いいえ、たまたまそこにいただけです」


「それでも助かったよ。ありがとう。それで、神崎くんはフィオナ様が襲われた後、暗殺者を追ったらしいね。やつはどっちに逃げたのか、何か妙なところはなかった、覚えていること、感じたことを話してもらえないだろうか」


「えーっと、ですね」


僕は無意識にフィオナの方を見てしまった。何て言うか、ここで僕が見たことを話すのは、まずい気がしたのだ。


「何か見たのかい?」


それを察したボーマンさんが、ずいっと顔を寄せてきた。


「見たと言うか……」


「なによ、はっきり言いなさい」


フィオナも急かしてくる。ボーマンさんも不審に思ったのか、やや顔を歪めた。


「そうだよ。それとも、話すと君が不利になることがあるのか?」


「そうじゃなくて……」


「じゃあ、話してくれ」


部屋には十人くらいの人間がいたが、すべての視線が僕に集まる。これは、話さなくては逆に僕が怪しまれてしまうパターンなのだろう。かと言って、変に嘘を吐くのもおかしいよな。


「じ、実は、追いかけて行ったら、あっちの方の別館に暗殺者が入って……」


僕は見たもの、聞いたことを、覚えている限り、正確に話した。


「たぶん、ブライアさんの声でした。それで、最後に言ったんです。期待しているよ、リリ……って」


部屋にいるみんなは、僕が喋り終えるまで、誰も口を挟まなかった。かなり、真剣に聞いてくれたらしい。これは信じてもらえそうだ……と、期待したのだが。


「そんなわけがないだろう、神崎くん!」


ボーマンさんが笑い出すと、大人全員が笑い出した。ただ、フィオナだけは黙って僕を睨みつけている。


「ブライア様は心優しいお方だ。しかも、フィオナ様のことを誰よりも可愛がっている。メメとリリも十年以上、ブライア様の使用人をやっているんだぞ? まさか、あの三人が協力してフィオナ様の命を狙うなんて……あるわけがないだろう!」


「いや、でも……僕は」


どうしよう。

これは誰一人信じていない雰囲気じゃないか。フィオナに関しては、絶対に怒っているぞ、あの顔。


「ボーマン」


フィオナの一声に、全員が口を閉ざす。


「ブライアお兄様の離宮を捜査して。隅々まで」


「フィオナ様……まさか、ブライア様を?」


「貴方たちが徹底的に捜査して、今すぐにお兄様の無実を証明しなさい、と言っているの。早く!」


「承知しました!」


ボーマンさんたちは、すぐに部屋を出て行った。フィオナと二人きりになるが、彼女は冷たい目で僕を睨みつけるだけで、一言も喋ろうとしない。


「あ、あの……」


「ボーマンたちが戻るまで黙っていなさい。それまで、一度たりとも口を開かない。もし、一瞬でも私を不快な気持ちにさせたら……」


言葉を区切った後、フィオナの視線はさらに鋭くなった。


「貴方を殺す!」


一時間後、ボーマンさんが戻ってきた。結果はもちろんシロ。証拠らしいものは出てこなかったそうだ。


「どういうつもりでブライアお兄様を陥れようとしたの? 信じられない。最低!」


そう言って、フィオナは部屋から僕を閉め出すのだった。

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