【弔いの音色が奇跡を】
フィオナの部屋を尋ねたが、
そこにはセレッソの姿しかなかった。
「フィオナ? 明日の準備で忙しそうだったぞ。どこに行ったかは知らん」
「戻ったら連絡をくれ。至急で頼む」
「あいつも忙しいんだ。加減してやれよ」
「そうも言ってられないだろ」
勇者候補は、明日の出発に備えてオクト城内に部屋を用意されているらしいが、たぶん僕のものはないだろう。だから、居場所なんてないし、フィオナを探すしかなかった。
しかし、オクト城は広い。
どこにフィオナがいるか、見付けることは不可能に近かった。実際、いつの間にか僕は外に出てしまったくらい、道に迷っていたのだから。
月の光を見て、一人涙を流そうか……
と思ったら、どこからか笛の音が聞こえてきた。それに誘われるように視線を巡らせると、月光に照らされる一人の女の子が。よくよく見ると、その子が横笛を吹いている。さらによく見れば、
その子はブライアさんに付き添っているメイドの青い方の子だった。
「誰?」
笛の音が止まり、メイドさんの視線がこちらに。
「あ、すみません。僕、任命式に出席するために来た、神崎と言います」
僕が頭を下げると、メイドさんは笛を背中の後ろに隠した。
「勇者様でしたか。失礼しました。……何かご用ですか?」
「いえ、道に迷ってしまっただけなんです」
「……少し、お待ちいただけますか?」
「忙しいのに、すみません」
メイドさんは腰を落とすと、地面から何かを拾い上げた。
「少し時間がかかりますが、よろしいですか?」
こちらに振り返るメイドさん。
その手に、拾い上げた何かが。
「と、鳥?」
白い鳥だ。
メイドさんの両手の幅より、少し大きい。動かないところを見ると、死んでいるようだった。
「この子、埋めてあげたいのです」
「わ、分かりました。手伝います」
「いえ、勇者様にそんなことは……」
半ば強引に僕は手伝った。
生き物を飼ったことがないので、死んでしまった鳥に触れることは、抵抗があったが、スコップで穴を掘って埋める手伝いくらいなら僕にもできた。
「勇者様、ありがとうございました」
終えると、メイドさんは頭を下げた。
「お部屋までご案内しますで、受付番号を教えてください」
「えっと……人を探してて。申し訳ないのですが、地下の研究所までの道を教えてもらえないでしょうか」
怪しい、と思われたのだろうか。
じっと見つめられたが、メイドさんは歩き出した。
「……こちらです」
僕は大人しくその後を歩いた。
「あの、さっきの笛……綺麗な音色でした。鳥に聴かせてあげていたのですか?」
さっきのメイドさんの行動が気になって、つい聞いてしまった。無視されたかと思ったが、小さい声が返ってくる。
「はい。命が尽きかけていたので、笛の音を聴けばもしかしたら、と思ったのですが……」
「優しいんですね」
つまらない言葉かもしれないが、率直な感想だ。メイドさんは無感情な声色のまま言う。
「……昔、やってもらったことを真似しただけですから」
メイドさんに、死にかけた過去があったのだろうか。気になるが、追及することはさすがに踏み込み過ぎのような気がした。
「メイドさんも優しい人に助けられたんですね」
「はい。命の恩人です。今の私は、その方のために生きています」
命の恩人か。
僕にとっては、セレッソがそうなのかな。
セレッソもそうだし、ハナちゃんだってそうだ。三枝木さんも恩師で恩人。雨宮くんも大淵さんも。
「そう言う人のこと考えると力が出ますよね。自分も頑張らないと、って」
あ、話が飛んでしまっただろうか。
勝手に熱くなって気持ち悪いと思われていたらどうしよう……
と思ったが、メイドさんは足を止めてこちらに振り返ると、無表情ではあるが、不思議そうな顔を見せた。
「貴方も、そうですか?」
「は、はい」
きっと、誰でもそうなんだろうけれど、メイドさんがあまりに驚いているので、変に否定するのは気が退けてしまった。
「だったら、そういう人のために、全力を尽くすことは……間違っていないと思いますか?」
「はい。僕もみんなの役に立てることがあれば、全力を尽くしたいと考えると思います」
「……ありがとうございます」
地下研究所の入り口を教えてもらい、メイドさんは頭を下げて去って行った。名前くらい聞いておけばよかった、
と後悔したが、また会ったときに教えてもらえば良いや、と思い直し、僕は地下への階段を下りた。
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