【ギャンブル】
「お兄様、アインス博士の弟子が作成したブレイブアーマーは私に譲ってください」
単刀直入に切り込むフィオナ。それを受けるは、まるで偉い軍人さんみたいなお堅い印象を醸し出す、長身の男。ギルバート・セム・オクトだ。
「駄目だ。あれは禁断術封印機関で使う」
か、顔が怖いぜ、ギルバート様。
流石はフィオナの兄と言うべきか、重たい空気を出すのが上手だ。有無を言わせない圧力。普通の人間なら、この空気に何も言えなくなるだろうが、フィオナは平然としていた。
「その執行官に授けるエグゼアーマーは、半年後に完成すると聞いています。焦る必要はないのでは?」
「お前が申請した三百のブレイブシフトは既に納品したと報告を受けている。余ったものをどうするかは、私の自由だ」
「……分かりました。しかし、ブレイブシフトは実力ある勇者に与えられるものです。お兄様がブレイブシフトを授ける執行官は、それに値する実力をお持ちなのでしょうか?」
「当然だ」
「証明できますか? 例えば、ここにいる勇者候補と戦って勝つことができるのか」
え?
僕のこと、だよな。
これから戦うの?
心の準備の時間が欲しいんですけど。
「必要ない。先程も言ったが、私の配下にある研究機関で余った装備品をどうするか。それは私が決めることだ」
「しかし、ギル。面白そうじゃないか。自信があるなら、乗ってみても良いのでは?」
フィオナを援護するブライアさん。
ナイスだぜ!と思ったが、 ギルバート様は少しも退く気配はない。
「兄上はフィオナに甘すぎます。だいたい、ブレイブアーマーを三百用意するだけで、どれだけ苦労したか。それを理解しているはずなのに、もう一つ寄こせとは、我が妹とは言え図々しいにも程がある」
「聞けば、アインス博士の弟子が練習として作ったプロトタイプのコピーだとか。それくらい、融通してやってもいいじゃないか」
「ですから、それが甘いと言っているのです。これから戦が始まり、資源の管理はより慎重に行う必要がある。それなのに、部下の装備品の数も勘定できない未熟者に、なぜ譲らなければならないのです」
絶対に譲らない、というギルバート様の圧力。これには、ブライアさんも言葉が出ないらしい。
「分かりました」
しかし、フィオナは一歩前に出た。
「では、一つ条件を提示させてください」
ギルバート様は無言で続きを促す。ただし、のむかどうかは別だ、と顔に出ているけど。
「もし、ここにいる勇者候補が、お兄様がブレイブシフトを譲ろうとする執行官候補と対戦して負けたら、勇者たちに裂いている予算の半分を禁断術封印機関にお譲りします。もちろん、ブレイブシフトもお兄様のものです。ただ、こちらが勝てば……」
ちょ、ちょっと待って。
なんかとんでもない条件を提示してないか??
いつもなら隣に解説してくれる人がいるけど、今回は誰もいないから話についていけないんだけど!
でも、たぶんだけど……
フィオナは自分の兵隊として勇者たちを従えている。それに対して、 ギルバート様は禁断術封印機関とかいう組織を持っているんだろう。
で、この二人は仲が悪いから予算も取り合っているのかな?
勝てばその予算の配分を多めにとって良いから、戦わせろ……ってことなら、
僕が負けたら勇者たちに行くだろうお金が別のところに行っちゃうんだ!
おいおい、ハナちゃんに貧しい思いをさせるわけにはいかないぞ。っていうか、
そんな重い責任、背負いたくねぇよ!
ギル様、どうか断ってくれ……
と思ったが、ギル様はスマホを取り出すとどこかに電話をかけた。
「支部長、私だ。千冬を私の部屋に」
ギル様が電話を切ると、ブライアさんが「面白くなってきたね」と呟いた。そして、フィオナが僕の横に寄ってきて、耳元で囁く。
「上手くやったわ。後はあんたに賭けたから、よろしく」
よ、よろしくって!
あれだけ僕のことをポンコツ呼ばわりしていたのに、どんだけの数字なのか分からないけれども、大金をベットするって、どんだけギャンブラーなお姫様だよ!
五分もしない間に、部屋の扉がノックされた。
「禁断術封印機関執行官、田中千冬。入ります!」
ガチャ、と中へ入ってきたのは、僕と背格好も歳も変わらないだろう、男だった。皇に引けを取らないくらいのイケメンだ。ギル様が千冬に言う。
「千冬。お前に与えるはずだった装備品を、自分の方がふさわしいと名乗り出てきたものがいる」
「はい!」
なんて良い返事なんだ。
これは上の人間に気に入られそうだなぁ。
「どうやら、どこにでもいる勇者候補のようだが、執行官の実力を侮られては困る。お前が分からせてやれ」
「承知しました、ギルバート様!」
何だか、真っ直ぐという言葉がぴったりな男だ。今まで戦ってきた相手とは、ちょっと違う気がするぞ……。
「では、分館にあるケージで対戦しましょう」
フィオナの言葉に、全員が移動を始めた。
まさかお城の中にケージがあるとは。
ここでも勇者決定戦を行えそうなくらい、ちゃんとしたケージが。さらに、客席もあるので、もしかしたら大きい大会が行われているのかもしれない。
「ギルバート様!」
ケージを挟んだ向こう側に、ギル様と千冬の姿があり、その声が聞こえてきた。
「私の相手は、どこにいるのでしょうか!」
「あれだ」
ギル様が顎を僕の方に向け、千冬が視線をこちらに。
「分かりました! 余裕でぶっ飛ばします!」
「うむ。期待しているぞ」
十分ほどで準備を終らせ、ケージに入る。千冬も入ってきたが、僕の顔を見ると首を傾げて、ぶつぶつと呟きを漏らした。
「あれ、背の高い方が相手だと思ったのに、弱そうなのがきたな。まぁ、いっか。やることは一緒だし、ぶっ飛ばすだけなんだから」
……たぶん、背の高い方とは、
僕の後ろに立っていたブライアさんのことだろう。
なんていうか、こいつはあまり周りが見えていないタイプなのかもしれない。ちょっとキャラクターが違うだけで、皇と似た匂いを感じるぞ。油断だけはしないようにしよう。
どこから呼んだのか、しっかりとレフェリー役まで用意されていた。
「それじゃあ、ルールは通常のランキング戦と一緒だから。五分三ラウンド。反則に気をつけてね」
「はい!」
ここでも千冬は良い返事を。
何だか、やりにくそうな相手だな……。
「始めるよ!一度ケージ際まで下がって……。ファイ!」
相手のタイプも分からず、心の準備もできないまま、対戦が始まるのだった。
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