【人前でイチャつくな】
「でも、駄目だわ。どっちにしてもダメ」
十分に意気投合したため、きっとブレイブシフトを譲ってもらえるだろうと思ったのだが……アインス博士の結論はそれだった。
「ど、どうしてですか? 僕も装着したいんですよ、ブレイブアーマー!」
懇願してみるが、博士は困ったように眉根を寄せる。
「ワシもお前みたいに前途有望なセンスを持つ若者に装着してほしいのだがなぁ」
「私も誠さんのようにブレイブアーマーの良さを理解してくれる人に装着してほしいです~! あれはただの装備品じゃないんです。アートでもあるんですから! それを分かっていない勇者が多すぎなんです!」
ニアに関しては半泣きだ。
「では、なぜダメなのですか?」
フィオナが質問すると、博士は少し気まずそうに答えた。
「実は、ギルちゃんがあのブレイブアーマーを執行官候補の男の子にプレゼントする、って言ってたんだよね」
「噂は本当だったのですね。でも、あのお兄様が……」
フィオナが手を額に当てる。
「そうそう。珍しくギルちゃんが若い子を気に入ったらしくてね。あと半年もすればその子専用のものだって完成するのに、どうしてもすぐ着せたいらしいよ。あと、そもそもなんじゃが、誠は勇者として登録されておらんのだろう。そんなやつにブレイブシフトを渡したら、ギルちゃんに怒られるわ」
フィオナが苦々しい顔を見せる。
お兄様ということは、ブライアさんではなく、今度こそ仲が悪い方の兄貴なのかもしれない。
「分かりました。最初から、お兄様に交渉する予定だったので、何とかしましょう。では、話をつけたら、またお願いに伺います。そのプロトタイプのコピー品のブレイブアーマー、使えるように調整だけしておいてください」
「でも、本当に使うの? プロタイプのコピーだから、めっちゃ弱いよ?」
「はい。この男に、勇者の資格をとりあえず与えれば問題ないので」
「とりあえずって言うのは気になるけど、僕も変身できれば何でもいいや!」
と、言うわけで
次は、フィオナの兄貴、ギルバート・セム・オクトのところへ向かうことになった。その途中。
「貴方、本当に強いんでしょうね?」
研究所を後にすると、藪から棒にそんな質問が。
「ああ、強いよ。少なくとも、お前が思っているよりは何倍も強い」
「あっそ。それは分かったけど、お前はやめなさい。貴方がオクトの国民ではないどころか、この世界の住人ではないにしても、私は王族なの。それに、他に示しがつかないわ。フィオナ様、もしくは姫様と呼ぶこと。最大限の敬愛を込めることも忘れずにね」
「はいはい。お姫様」
何が敬愛だ。
そんな気持ちを込めて欲しいなら、まずはその性格を治せって。
突然、どこからか電子音が。
どうやら、フィオナのスマホだったらしく、彼女が電話に出た。
「どうしたの? …………明日のお弁当が足りない? それくらい、そっちで対処してよ。……予算? 分かった、何とかするから確保しておいて。不平等感が出ないよう、できるだけグレードは揃えてね。あと、向こうの旧政府からの連絡は? ……わかった。あと、三十分……いえ、一時間はかかるかも。一時間したら戻るから、それまで対応よろしく」
フィオナが電話を切ったので、僕は何気なく呟いた。
「忙しそうだなぁ」
「これから世界を守るんだから当然よ。理不尽に人の命を奪われることを想像したら、これくらいどうってことないわ」
僕は少し反省する。
自分もランキング戦のとき、真面目に練習したり、必死に対戦相手の研究したり、やれることはたくさんあったのかもな、と。
長たらしい廊下を二人で歩いていると、向こう側からブライアさんが例のメイドを二人の引き連れて歩いてきた。
「あれ、フィオナ。一緒にいるのは、さっき部屋にいた……もしかして、新しい恋人かな?」
「お、お兄様! バカなことをおっしゃらないで。私はお兄様一筋です。しかも、よりによってこんなポンコツに心を許すなんて、あり得ませんわ。お兄様こそ、どうしてこんなところに?」
「ああ、ギルバートに相談があったんだ。僕もイロモアまで行こうと思ってね。向こうには僕の友人もいるから、もしかしたら連携もスムーズにできるかもしれない」
「ど、どうして? その役目は私だけで十分です。危険ですから、お兄様はここにいてください」
「そうはいかない。僕は役立たずだが、可愛い妹の身を守るくらい、この体一つでもできるはずだ」
「う、嬉しいお言葉ではありますが……」
うわぁ……。
すげぇ。あれだけキリッとした顔で、あんなこと言えるなんて、ファンタジー系の少女漫画に出てくる王子様くらいだぜ。しかも、フィオナなんて顔真っ赤だし。
ここだけ少女漫画の世界なのか?
「ところで、フィオナもギルバートに用かい?」
キリッとした顔から再び優し気な顔に戻るブライアさん。だが、フィオナはまだ浮ついた顔をしている。
「え? あ、はい。そうなんです。ギル兄様が勇者候補に与えるはずのブレイブシフトを、新人の執行官に渡すと言っているそうなので。それを取り返して、この勇者候補に授ける予定なのです」
「なるほど。フィオナは部下想いだね」
「そんなことありません。この勇者候補にはいつも悪口ばかり言われていて……。不甲斐ないことばかりですわ。私、上に立つものとして失格です」
この勇者候補って、僕のことだよな?
いつも悪口って……
ほとんど今日知り合ったようなもんだろうが。被害者ヅラしやがって!
しかし、ブライアさんはその言葉を信じたのか、フィオナの頭をポンポンと叩いて「そんなことないよ」と慰めている。なんだかな……。
「だが、錬金術・魔法研究機関たちはギルバート直属の組織だ。簡単に譲ってもらえないのでは?」
ブライアさんの指摘に、浮かれていたフィオナの表情が変わる。不敵な笑みとでも言うべきか、それは勝ちを確信している顔だった。
「それなら私に考えがあります。ギル兄様をぎゃふんと言わせてみせますわ」
「ほう」
ブライアさんも楽しみだ、と言わんばかりに微笑みを浮かべる。
「あのギルがぎゃふんと言うところは、私はもぜひ見たい。同行していいかな、勇者殿?」
ブライアさんの爽やかな笑みがこちらに。
「は、はい。もちろんです!」
「では、私と一緒に行きましょう、お兄様!」
フィオナはブライアさんの腕に自分の腕を絡めると、体をあずけるように寄り添いながら、歩き始めた。
……はぁ。ハナちゃん、今ごろ何しているんだろう。一緒にデートしたときは、楽しかったなぁ。
いや、待てよ。
ここでブレイブシフトを手に入れたら、僕も正式に勇者ってことじゃないか。それって……
例の約束を守ってもらうチャンスなのでは?
よし、絶対に手に入れるぞ、ブレイブシフト!
「面白かった!」「続きが気になる、読みたい!」と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品の応援お願いいたします。
「ブックマーク」「いいね」のボタンを押していただけることも嬉しいです。よろしくお願いします!




