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14.彼女はアトリエを知らない

窓辺に腕を預け、その腕に頭を乗せる。

聞こえてくる音といえばそよそよと流れる風と、サッサっと撫でるように絵を描く筆の音だけ。

あぁ、至福………。


「なにこれ。なに、この馴染み方」


この間と違うのは、熊切というヒトが一人増えたことだろうか。


あれから度々訪れることになった犬居のアトリエ。

本人がいる時といない時があるが、いてもいなくても特に内容に変わりはない。

アタシと犬居の間に会話らしい会話はほとんどなく、お互いをほとんど意識していなかった。

だから同じ空間にいてもそれぞれの目的のために一緒にいるだけ、というのがアタシたちの真実だ。

ヒトには珍しいと思った。

ヒトは優しくしたら見返りを求めてくると思っていたから。

同じだけの愛情とか。

執着とか。


「ひなたぼっこ中ですが」

「見たまんまな返答だな」

「くま、コーヒーいる?」

「いる」


アタシも似たようなものだが、熊切も餌付けされている様子。

犬居は相手のツボを得るのが得意らしい。

こんな犬みたいにボケボケしている見た目に反して。

ちなみに犬居はアタシにはすでにカフェオレを淹れてくれていた。


「すごいな、アンタ。馴染みすぎてて」


熊切は長机に黒い色のバックを置き、本が入った棚を背もたれにして丸いすに座った。

犬居は白いマグカップに淹れたコーヒーを熊切の前に置き、またいつもの定位置に座った。

その前には大きめの白いキャンパスがあり、熊切が現れる前から描いていたものを再開させた。


「すごい、ですか」

「あぁ。変わってる」


すごい、なのか。

変わってる、なのか。

すごい=変わってる、なのか。

熊切の言っている意味がわからない。


「それっていけないことですか?」


無表情だった熊切はパチパチと二度目を瞬いて、くしゃりと破顔した。

理央とは違う、キレイな顔だと思った。


「いや?俺はいいと思う」


面白くて。と熊切は続けたが、アタシは聞こえないふりをした。

アタシという存在が認められた気がして嬉しかったなんて、絶対口には出さないが。

でも、まぁ、嬉しかった。


そんな顔を見られないように外に顔を向けた。

外には数人の男女が楽しげに談笑している姿が何組か見受けられる。

そういえば理央に夏祭りに誘われた。

何人かでと言っていたし、他人から見たらアタシもこの何組かたちと同じように見えるのだろうか。

楽しそうに?

見えるものなのか?


「ねぇ」


珍しくアタシから話しかけたので、犬居も興味を持ったのだろう。

返事こそなかったが、ゆっくりと顔をあげた。

熊切はバックからノートやら何やらを取り出していた手を休めることなく、ちらりとアタシに視線を寄越した。

その顔にもう笑顔はない。


「夏祭り、って、どんなかんじ………ですか?」

「は?」

「なつ、まつ、り……?」

「夏祭り」


二人は不思議そうな顔を見合わせ、またアタシを見た。

熊切は動かしていた手を止めて、机に腕を預けた。

質問の意図がわからなかったのかもしれない。


「行ったことないの。夏祭り」

「は?まじで?」

「……一度も?」

「いい思い出ないんだもん」


二人して驚かれるとさすがにカチンとくるものがある。

拗ねたような声になってしまったが、仕方がないと思う。

二人はそんなアタシを気にすることなく、犬居は無表情、熊切はふーんと声を漏らした。


「とにかく、すごい人混みだな」

「ヨーヨーすくったりとか。なんか買い食いしたりとか」


それは楽しいのか?


「あぁ、あと花火なんかもあがるんじゃないか?」


その何気ない熊切の言葉に、アタシは身体が冷えていくのを感じた。

花火……?

花火ですってーーー!?



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