13.彼女は誘いを知らない
その日の帰り道は理央と一緒だった。
もう昼間の食堂でのことは気にしてはいないようで、いつもの笑顔をアタシに向けていた。
理央はいいヒトだ。
こんなアタシでもわかるほどには、いいヒトである。
「あ、そうだ」
電車に揺られてすぐ。
理央は吊革に捕まりながら、入口付近の捕まり棒に寄りかかるアタシを見た。
少し混み始めた電車内だが、理央はさりげなくアタシのスペースを確保してくれている。
アタシがそれに気付いたのは、初めてひとりで電車で帰ったときだった。
理央がいるのといないのでは、車内での快適度が格段に違ってくるのだから驚いた。
アタシが何も言わなくても、増してや気づかなくても、理央はさりげなくアタシを守ってくれていたのだ。
どうしても理央に懐かざるを得まい。
「美子、今度の土曜ってひま?」
もちろんアタシに休日の予定が詰まっているわけもなく。
「ひまだね」
理央は嬉しそうに一層笑みを濃くした。
理央のこの笑顔を見てるとほっとする。
そう思う分だけ、アタシは理央に頼りきっているのだろうことがわかる。
それではダメなのだろうと思う。
思うのだがーーー。
「みんなで夏祭り行こうって話になったんだ」
「なつまつり?」
「うん。よかったらなんだけど、一緒にどう……かな?」
夏祭り……。
見かけたことぐらいはある。
遠巻きに見ていた程度だが、提灯の光と屋台とヒトがひしめき合って。
いつもと違う格好をしたヒトも大勢いた。
楽しそうだな、と思った記憶はある。
しかしアタシの以前の姿で祭りに近付こうとすれば面倒そうに追い払われるか、面白半分に追い掛け回されるかのどちらかだ。
だから祭りのような賑わった場所には立ち寄らなかった。
「夏祭りか……」
「うんうん!美子の友達も誘ってさ」
「みんなで?」
「絶対楽しいよ」
奈都と幸恵を誘ったら、二人も楽しんでくれるだろうか。
あの明るい場所に行けるのだと思うと、それだけで心が弾む。
行きたい。
行ってみたい。
「行きたいな」
「ほんと!?」
「アタシが行ってもいいの?」
「なんで?いいに決まってるよ。一緒に行こう」
笑顔で言われたその言葉が、どうしようもなくアタシの胸を熱くした。
アトリエで犬居に言われたときと感覚が似ていると思った。




