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12.彼女は嫉妬を知らない


アタシは呆然としたまま口を開かない。

理央もアタシの肩を掴んだまま何も言わない。

奈都も呆気にとられたまま口を閉ざしている。

発言できそうなヒトといえば、このヒトしかいないだろう。


「鷹津じゃん。なに、お前。ミーちゃんと知り合い?」


アタシが言えた義理ではないと思うが、どうせ発言するならもう少し空気読んだ発言をしてほしかった。

このヒトにそれを求めることが、そもそもの間違いなのだろうか。

理央は気まずそうにアタシの肩から手を下ろし、豹塚を見下ろすかたちで視線を移した。


「豹塚さんこそ、美子と知り合いだったんですね……」

「ナンパされた仲だからな」

「は?な、ナンパって……」


理央は今度は驚愕の表情をしてアタシを見た。

「勘違いだから」とアタシが軽く言うと、理央はあっさりと引き下がった。

豹塚はにへらっと笑いそのことを否定していたが、今さら誰も聞いていない。

だんだんと落ち着きを取り戻してきたアタシは、未だ気まずそうに立っている理央を見上げた。


「理央」

「な、なに?」

「顔、変だよ」

「へっ?」

「ここ座る?昼まだなんでしょ?」

「………うん」


豹塚と反対側のアタシの隣の席を勧めると、理央は戸惑いながらも静かに腰を下ろした。

理央は少しの間黙ったまま座っていたが、しばらくして何かを諦めたのか溜め息を一つ。

そして密かに持っていた菓子パンにかじりついていた。


そんな理央を横目に、理央の行動の意味を掴みあぐねていた。

嫉妬か?

でも嫉妬とは自分のモノにちょっかいを出されたりしてするものであって、アタシは理央のモノではない。

ヒトって難しい……。


「ねぇ理央」

「ん……なに?」

「さっきのって、嫉妬?」

「なっ……ゲホッゴホッ!!」

「ちょ……、大丈夫?」


理央がムセたので背中をさすってやる。

普段は聞かないが、相手が理央だったので聞いてみた。

理央なら聞いてもきっと不思議がりながらも答えてくれる気がするのだ。

それぐらいには理央のことが好きなのだろうと思う。

理央は涙目で顔を赤くしながらアタシを恨みがましいように見た。


「大丈夫?」

「………大丈夫じゃないよ……」

「あら大変。病院行かなくちゃー」

「……棒読みだよ」

「嘘つけない性格でしてね」


となりで豹塚がぶっと吹き出し、腹を抱えて笑い始めた。

何がそんなに笑えたのかアタシにはわからないが、理央もつられた様に笑ったので「まぁいいか」ということにした。

あとで現れた幸恵が驚きあまって叫んだのことは、食堂中に響き渡ったという。



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