11.彼女は乱入を知らない
今日は幸恵がゼミの仲間とやることが、というので、アタシと奈都の二人で食堂に来ている。
奈都いわく幸恵がゼミの集まりに甲斐甲斐しく参加するのは、幸恵の意中のヒトがゼミにいるらしいのだ。
いずれ見てみたい。
ヒトに好かれるヒトなんて興味深い。
「あ、そういえば」
今日のメニューもやはりB定食の魚だ。
奈都はダイエットとか節約と言い、三つ入りの三角のサンドイッチ一つ。
その中のタマゴサンドを口に含みながら、奈都は目線だけで先を促した。
「きも、てなに?」
「は?」
「アタシは媚を売ってるからきも、なんだって」
奈都は二、三回目を瞬いたあと、渋い顔をした。
眉間にシワを寄せ、剣呑な雰囲気を醸し出している。
やはりと言うべきか、良い意味での単語ではないらしい。
「それ誰に言われたの?」
「知らないヒト」
「他にはなんか言われた?」
「ほか……。ただじゃおかないから、とか」
奈都は食べる手さえも止め、また一段と顔を険しくする。
奈都は渋い顔をしたまま何かを考える風に動きを止め、黙りこんだ。
アタシが奈都に聞いたがために逆に奈都を悩ませることになってしまったようだ。
アタシも箸を置いて食べることを一時中断させた。
「奈都ごめん。別に大して気にしてたわけじゃないから」
「なに意地張ってんのよ。美子はそれがイヤで理央くんから離れてたんじゃん」
薄々気付いてはいたが、やはりそういうことなのか。
でも彼女らは「豹ちゃんたち」と言っていたはずだ。
豹ちゃんというのが誰を指すのかは分からないが、その中に理央も入るのだろうか。
「こっちからしたら、とんだとばっちりよね。ただ普通に友達やってるだけなのに煙たがられてさ。理央くんがかわいそうじゃん」
奈都の言う通りだ。
そんなに彼に近付きたいなら、アタシなんか気にしないで近付いていけばいい。
そんな勇気も行動力もないヒトなんかに、負けてやるもんか。
奈都も同じ気持ちであると言うことは、やはりアタシは間違っていないのだろうし。
「お、ミーコちゃん発見」
背後からぬっと現れたのは、ナンパ騒動に仕立てられた豹塚だ。
奈都は椅子を揺らしながら驚いていたが、アタシは少し睨むかたちで豹塚を見た。
面倒くさいのだ、このヒト。
ん―――豹塚?
「豹、ちゃん………?」
「お、なになに?」
豹塚は嬉しそうにアタシの隣の椅子を引いた。
そこに座らないでいただきたい。
しかし豹ちゃんとは、やはりこのヒトのことを指すらしい。
そもそもなぜアタシは見るまでこのヒトだって気付かなかったのか不思議なぐらいだ。
あぁ、もう………。
このヒト面倒ごとしか持ってこない。
知らずのうちに深いため息を落としていた。
「俺を前にしてそのため息って!ミーちゃんってやっぱおもしろいな」
もうなんでもいい。
あなたの面白いという基準がわからない。
このヒトとそこまで親しくもないのに、あんなことを言われる理由もわからない。
勘弁してほしい。
「美子!」
がしっと強い力で、またしても背後から肩を掴まれた。
さすがにアタシも驚いて振り返ると、いつもの笑顔とは違う焦った顔の理央が、肩で息をしてアタシの肩を掴んでいた。
見たことない理央の表情に、アタシはただ驚いて理央を見返すことしかできなかった。




