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10.彼女は悪口を知らない


なぜだか理央と一緒に学校に行くことが常になりつつある、今日この頃。

いつものように視線を感じつつ昇降口を二人でくぐる。


二人でいる時間が長くなり、必然的に会話も多くなるので、理央のことを知る機会は増えた。

理央は幼馴染みらしい。

よくそれで同じ学校に通うことになったのか、それは本当に偶然だったそうだ。

違う高校に通ってからは、ほとんど話すどころか会うことすらなかったようだ。


「まぁ、話さなくなったのは中学生ぐらいのときからだったけどね」


どこか寂しそうに笑う理央に、そうだったっけとあいまいに返事をした。


今日はこっちだから、という理央と別れ、第3講義室へと向かう。

アタシにとってこの学校に通うほとんどのヒトを知らない。


「媚売ってんじゃねぇよ」

「キモ」


すれ違い様にぼそりと耳元で聞こえた言葉。

アタシに向けられた悪意なのは明白だ。

振り向いて相手の顔を確認する。

印象的なのは白い肌と細い身体。

むこうも軽くアタシを振り返り、嘲笑うように目を合わした。

やはりと言うべきか、相手のことをアタシは知らない。

逆にアタシのことを知っているのだろう相手側だが、アタシにそれなりのショックを与えるには十分なものだった。

言われた意味も言われる理由もわからない。

しばらく呆然と二人の背中を見つめた。


あぁ、でもこのままだと負けたことになるのかな。

それはイヤ。


「ねぇ」


二人の肩を同時に掴んで呼び掛ける。

なぜそんなに驚いた顔をするのか、二人は同じような顔で振り向いた。


「アタシがいつ、誰に媚を売ったの?あと、きも、てなに」


聞いただけなのに、二人はどこか怯んだ様子でアタシの手を振り払った。

少しアタシよりも背が高いと思ったのは、靴のヒールのせいだろう。


「は?うざっ」


うざ?


「触んじゃねぇよ!」


何やら酷い言われようだ。

廊下という公衆の面前という場で、周囲のヒトも少し興味があるようにチラチラとアタシと彼女らを見ていた。

しかし関わりたくはないようで、それ以上動こうとはしない。


「………なによ、その目」

「なにが」


目までも気に食わないか。

なにがしたいんだ、このヒトたちは。


「豹ちゃんたちにベタベタしやがって、キモいんだよ!」

「あんまり調子のんなよ。ただじゃおかないから」


きょとんとするアタシを残し、二人はアタシに背を向けて去っていった。

豹ちゃんたち、て誰だ。

もう、ほんと、意味がわからない。

でも一番意味がわからないのは、敵認識しているであろうアタシに向かって背を向ける彼女らだ。

背中を見せるだなんて、警戒心薄すぎではないだろうか。





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