断章「世界」
世界は『モンスター』が支配している。
人間、あるいは『リゼンブル』という弱者を、『モンスター』という強者が抑圧し、搾取している。
弱肉強食という『モンスター』の摂理が、そのまま世界の摂理として適用されているのだ。
そんな『モンスター』たちを統べているのが、『キング』の称号で呼ばれるさらなる強者である。
彼の言葉に、すべての『モンスター』が耳を傾ける。
彼の力に、すべての『モンスター』が敬意を払う。
彼の姿に、すべての『モンスター』が憧憬を向ける。
世界は『モンスター』が支配している。
『モンスター』は『キング』が統べている。
「……失礼します、『キング』」
いつまで経っても慣れるものではない。
世話役のロナルド・ロバーツは、背筋をピンと伸ばし直してその扉に手をかけた。
流麗な彫刻が施された木製の扉が、耳障りにきしむことなく開かれる。
一面に敷かれた赤い絨毯。
目を伏せたまま三歩ほど進んだところで、ロバーツは静かにひざまずいた。
「『継承決闘』のご用意が整いました」
「そうか。ご苦労」
少年のよう、といったら失礼に当たろうか。嬉々として弾んだ声が、いつもと変わらずロバーツの耳に届いた。
「今日の相手は、どうだ? 強いか?」
そしてささやかな足音が、声と共に近づいてくる。
「は。広く名を轟かせている剛の者です」
「それは楽しみだ」
ロバーツはその足音が行き過ぎるまで、見下ろしてしまわないよう、じっと床に視線を落としていた。
「この弱き余を倒せるほどに、強き者であればいいな」
歌うような口調が扉をくぐる。
『キング』・ヴァーゼルヴ・ヴァネスは、颯爽とした足取りで決闘場へと向かっていった。




