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36 祝福の夜

 受賞のセレモニーを終え、新展示棟の明かりが落とされていく。

 リーリエの絵は、あらかじめ控えていた隣国の宮廷美術省の使いによって、さっそく壁から取り外された。

 巨大なキャンバスは、白い布が丁寧に敷き詰められた木箱に収められ、美術品運搬用の人型の従機が胸に抱えるように運び出していく。

 その後を追うように外に出ると、今回の美術展の成功を祝う花火が、夜空を彩っていた。


 美術展の開催で内外から多くの人々が集まった商業区域は大いに活気づき、街の到るところで美術談義に花を咲かせる商人や、新たなパトロンを得た芸術家らの姿で溢れている。

 街を歩くだけで、アーカンシェルが芸術都市である所以を感じることが出来るその雰囲気と熱を肌で感じながら、リーリエは激励と歓声、拍手に見送られて商業区域へと歩を進めていった。



◇◇◇



「さあ、今日はエドガーの奢りだよ! ぱーっとやろう!」


 リーリエを労う打ち上げは、エドガーの提案で急遽祝賀のパーティに変わった。

 アスカのアルバイト先を貸し切った祝賀パーティは盛大に行われ、リーリエの受賞を聞きつけた商業区の人々も顔を出し、店の内外に沢山の人々が詰めかけた。

 開放的な雰囲気の中、人々はリーリエの絵や普段の仕事ぶりに花を咲かせ、街頭映写盤がリーリエの快挙を映し出すたびに大きな歓声を上げて受賞を祝った。


「このあたりで余興と洒落込もうか」


 食べ物が集まった人々の腹に収まり、歓談が芸術談義に移り始めた頃、店長が開け放していた店の窓を閉じながら切り出した。


「余興?」


 店長の視線が向けられ、目を瞬いたリーリエの傍に、エドガーが大股で近づいてくる。


「そう、余興。今日の記念にお前のドローイングを披露してほしいんだ」


「やった! どこに描く!?」


 エドガーの働きかけにアスカが興奮した様子で飛び跳ねる。アルコールを嗜んで少し赤みを帯びた顔に嬉しそうな笑みを浮かべて、リーリエを見つめた。


「うちの店の外壁だ。うちの看板娘を描いてくれ」


「アスカ!」


 店長の言葉にリーリエはアスカの名を呼んで、彼女を抱き締める。アスカは驚いたように目をぱちぱちとさせ、自分の顔を指差した。


「あ、あたしが!? いいの!?」


「リーリエが、アーカンシェルの女神なら、アスカくんはマグロナルドの女神だからね」


 店長の物言いに、どっと笑いが湧く。アスカとエドガーもつられて笑った。


「確かに、アスカは女神だなぁ」


 落ち込んだ時や悲しい時、アスカにどれだけ勇気づけられたかわからない。


「アスカが作ってくれたツナバーガーも、最高に美味しかったし」


「あははは、マグロナルドの女神かぁ。なぁんか、格好つかないけど、いいね」


 リーリエの呟きにアスカは納得したように頷き、その背をぽんぽんと叩いた。


「じゃあ、出来るだけ美人に描いてよ、リーリエ」


「アスカは、とびっきりの美人だからね」


 リーリエは頷き、開け放たれたままの扉の外へと向かう。

 屋外には、既にリーリエの仕事道具が運び込まれており、街灯の影響を最も強く受け位置の壁がキャンバスとして用意されていた。


 慣れた手つきで塗装用のゴーグルとマスクを身に着けるリーリエを囲むように、飲み物を手にした人々が店の外壁を前に集まってくる。

 リーリエは最前列で見守るアスカの姿をじっと見つめると、外壁に向き直り描画を始めた。

 頭に浮かんでいるビジョンは、ウェイトレス姿のアスカとマグロナルドの店内をイメージしたビビットなカラーの組み合わせだ。

 エアブラシを噴射するたび、人々の歓声が上がるが、リーリエは次第にそれが聞こえなくなるほどに絵を描く作業に没頭していった。


 アスカの弾ける笑顔、みんなの楽しそうな声。

 大好きな親友の絵を、その最も美しい笑顔をリーリエは描いていく。快活な明るい声はしきりにリーリエの名を呼び、その栄誉を称えている。

 自分を支え続けた親友アスカの声にこれ以上ない幸福を感じながら、リーリエは彼女の姿を描き続けた。


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