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29 アーカンシェル国立美術館

 アーカンシェル国立美術館の敷地で、リーリエの操縦する塗装用の人型従機――フェイド・ファミリーズが軽快な駆動音を響かせながら塗装作業に勤しんでいる。

 従機の背に搭乗したリーリエは、防護用のゴーグルとマスクで顔を覆い、操縦桿を巧みに操作しながら従機用の巨大なエアブラシで真新しい看板の塗装に勤しんでいた。


 アーカンシェルの街並を彩る街路樹に合わせた落ち着いた色の緑が看板に吹き付けられると、つやつやとした塗料に反射した太陽の光が眩しく目に飛び込んでくる。

さながら木漏れ日のようなその光に目を細め、防護用のマスクをずらしたリーリエは、大きく息を吐きながら塗装の出来映えを検めた。

 東西を分けるようにアーカンシェルの中心を流れる川から届くせせらぎの音が、耳に心地良く響いてくる。


 ゴーグルを外し、汗ばんだ長い髪を左右に振ったリーリエは、従機に降り注いでいる木漏れ日の優しい光を手を翳して仰いだ。

 国立美術館の本館の東――一般市民側には、完成したばかりの新しい展示棟のガラス屋根が美しく煌めいている。芸術都市としてさらなる発展を目指すアーカンシェルの民の悲願でもあった、この新しい展示棟は、一般市民街の住民たちや、商業区域と深い関わりのある商会からの寄付をきっかけに建てられたものだ。


 除幕式が行われて間もない展示棟では、新たな試みとなる美術展の開催準備が忙しなく進まれていた。

 この美術展のスポンサーには、芸術都市アーカンシェルでも最も権威のある団体、研美会と、芸術都市マルクスに本拠地を置く聖導芸術院、隣国の宮廷美術省が名乗りを上げている。古くからある権威ある美術団体がスポンサーであること、受賞作品が新展示棟の目玉となることや、最も優秀であると認められた作品が、隣国の皇家に飾られるということもあり、アーカンシェルの内外から多くの貴族が出展意思を示しており、多くの注目が集まっている。


「どの作品も、凄そう……」


 今回の美術展は、若手芸術家の発掘と支援というニュアンスが強く含まれており、アスカの通う大学からも特待生たちが出展する。既に運び込まれている幾つもの作品は、そこにあるだけでリーリエの感性を強く刺激した。


「室内には絵画、屋外には彫刻……。絵と彫刻の枠を越えたり、もっと新しい表現を模索したり……。どれも楽しそう」


 今回は絵画のみの募集だったが、今後は彫刻など他の分野にも裾野を広げていく予定らしい。


 エドガーとアスカから美術展の詳細を聞き及んでいたリーリエは、今はまだ展示作品のない新展示等周りの空間を従機の上からざっと眺め、作品で彩られていくであろうその景色を想像しながら感嘆の溜息を吐いた。


「パパの夢だったアーカンシェルの姿が、どんどん広がっていく……」


 発起人の一人でもあった亡き父の偉業を改めて感じながら、操縦席から立ち上がる。三メートルほどの従機の頭部から改めて眺める景色は、リーリエの胸を期待に膨らませた。


 ――自分もこの熱の中に加われたら……


 脳裏に浮かんだ願望に唇を動かして、ふと我に返る。リーリエは苦笑混じりに頭を振り、ゴーグルとマスクを着け直すと、再び従機の操縦席に戻った。

 従機の手を自分の手のように操作し、エアブラシに新しい塗料を装填する。看板に型紙を当て、白の塗料を使って新展示棟の案内板を仕上げる間にも、一度浮かんでしまった願望と創作への熱がリーリエの中で育ち始めていた。


(こんなとき、エドガーだったら……)


 やりたいと思ったことには、素直に従う主義の彼ならば、悩まず挑戦することを勧めるだろう。だが、貴族たちも多く出展する美術展で、自分の絵はどれだけ通用するだろうか。

 あの蔑みや失望の視線を思い出し、リーリエは暗い方に傾きかけた気持ちを溜息と共に追い出した。


(アルフレッドは、あの時……)


 自分を引き留めようとしていたあの顔は、どんなふうだっただろうか。あれから一度も音沙汰のない元婚約者に淡い想いを馳せたその時。

 リーリエの思考を断ち切るように、轟音を響かせながら、蒸気バイクが大通りから真っ直ぐに向かってきた。


「エドガー!?」


 エドガーの愛車レッドアローのエンジン音が聞こえた気がして、はっと首を巡らせる。


「探したぜ、リーリエ!」


 リーリエの呼び声が聞こえたのか否か、敷地の手前で蒸気バイクを停めたエドガーが、大きく手を振って呼びかける。その手には、二つのスプレー缶が握られていた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] さあデビューですね [一言] 更新お疲れ様です いよいよデビューですね あとは上手く題材を画くだけだそうですね
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