99話
「レシナ様……もう朝になるので休みましょう。あれから何も食べず休まないでいては体が持ちません」
アリスはラスターが心配してくれているのは分かっていたが作業をやめなかった。
「大丈夫よ……時間が無いの……お父さんがまだ頑張って生きていてくれている以上休む訳にはいかないの……」
「では、せめて何か食べてください。何か食べ物を持ってきます」
ラスターは急ぐように部屋を出て行った。
「俺もまだ大丈夫だ。どんどん合成するからな」
「ごめんねセラニ……こんなに遅くまで付き合ってくれて……それにスキルをいっぱい使わせて……」
「謝んなよ! 最後まで付き合うって!」
セラニの言葉は疲れ果てていたアリスを再び奮起させた。お父さんとまた話をしたい……それだけがアリスを突き動かす原動力だった。
「あ、間違えて変なもんを合成しちゃったよ」
再び作業を開始してからしばらくするとセラニは疲れからか薬の材料を間違えて合成してしまった。しかし、その材料にアリスの目がいくと硬直したように止まった。
「……はっ⁉︎ もしかして!」
アリスは夢中でセラニが間違えて作った材料を手に取ると頭の中で思考が駆け巡る。
「セラニ! これを合成して‼︎」
「お、おう!」
セラニはアリスに渡された物を合成した。
「で、出来たぞ!」
アリスはセラニが合成した物を受け取ると力が抜けてその場に崩れ落ちた。
「アリス⁉︎ 大丈夫か!」
「何で……気付かなかったんだろう……」
慌てて駆け寄ったセラニに抱き抱えながらアリスは独り言のように呟いた。
アリスはラスターとの話し合いで当初万能薬の効果を増幅させようと他の薬を配合していたがうまくいかずにいた。セラニが偶然合成した薬を鑑定した時アリスの中で何かが閃いたのだった。
「レシナ様⁉︎」
ちょうど部屋に戻ったラスターはセラニに抱き抱えられたアリスを見て慌てて駆け寄った。
「こ、これをお父さんに……」
アリスの体は疲労で思うように動かなかった。それでもしっかりと握られた薬を渡されたラスターはまさかとアリスを見た。
「はやく……」
アリスはそこで力尽きるとラスターは駆け出した。
「退いてくれ‼︎」
ラスターは無我夢中で城の中を走っていた。一刻も早く王の元に行こうと思うように動かない怠けていた体を罵りながら。
そして……。
「はあはあ!」
ラスターは王の眠る場所にドアも叩かず入り込むと中で王に寄り添っていたランサラスがラスターに気付いてその尋常じゃない様子に驚いていた。
「ど、どうしたんだ? こんな朝早くに……」
「で、出来たんです! レシナ様が王を助ける薬を‼︎」
「な、何だと⁉︎」
「今すぐこの薬を王に‼︎」
「わ、分かった……」
ランサラスは震える手を必死に抑えながら眠る王の口に少しずつ薬を慎重に注いでいった。
全ての薬を注いで少しの時が経ったとき、それは起こった。
「こ、これは!」
ランサラスは王の体が光に包まれていることに驚きその様子を見守っていると王の目がゆっくりと開いたのだった。
「ち、父上‼︎」
王の顔がゆっくりと動くとランサラスを目で捉えた。
「……長い夢を見ていた」
アリスは気を失いベッドに寝かされると夢を見ていた。それは幼い頃の記憶だった。優しい両親と大好きな兄に囲まれて庭で遊び、美味しいごはんをみんなで食べていたあの日々を……。
「……ん」
目が覚めると頭痛がして思わず顔をしかめた。
「アリス……」
「セラニ……ここは?」
「ああ、研究室の隣にある仮眠室だよ」
「どれくらい寝てたの?」
「まだお昼になってないからな、そんなに経ってないぞ」
「そっか……お父さんは⁉︎」
そこにちょうど現れたのはラスターだった。
「レシナ様! エルド王がお目覚めになりました……」
「良かった……うっ……」
アリスは涙を流して喜んだ。
「良かったな!」
「セラニ、お願い……私をお父さんのところに連れて行って……」
「まだ寝てた方がいいよ。体が辛そうだ」
「お願い……」
「……分かった」
セラニはアリスをおんぶするとラスターに案内されて王の元へと向かった。
「セラニ……いつも私のお願いを聞いてくれてありがとう……」
アリスはおんぶをしてくれているセラニに感謝を口にした。
「俺、アリスの笑顔が大好きなんだ。それに一緒にいて楽しいしなんて言うか家族みたいでさ」
「……嬉しい……私もセラニがお姉ちゃんみたいで大好きだよ……」
アリスは嬉しさのあまり、おんぶをしてくれているセラニに後ろから抱きついた。
「お姉ちゃんか! あははっ!」
セラニは笑いながら歩いていくとやがて目的地に辿り着いたのだった。
ラスターはドアを叩くとセラニとアリスを中に入れた。
「お父さん……」
アリスはセラニから降りるとおぼつかない足を必死に動かした。
「レシナ……」
久しぶりに聞く父親の声がアリスの心を揺さぶると目から涙が次々と流れ出す。
「お父さん‼︎」
アリスはベッドの上で起きていた父親に飛びついた。
「まさかこんな日が来るとは思わなかった……」
「わぁ〜‼︎」
エルド王は泣きじゃくる娘を力強く抱きしめると自らも涙を流して再会を喜んでいた。




