111話
始祖はゴツゴツとした殻のようなものを纏い、その周りを歪みが始祖を守るように展開していた。見るからに守りが固そうだ。
「蒼炎斬!」
俺の剣から放たれた青い炎を纏った斬撃が衝撃波となって始祖を襲うとそれを追うようにアリスの豪炎が飛んでいく。攻撃は更に続き、アイナの唸る豪雷とエニィが発生させた地割れが追い討ちをかけると始祖は爆発に飲み込まれていった。
どうだ⁉︎
煙が消えていくまでの間、俺は攻撃が効いていてくれと願った。
「リアン! あれ!」
アリスが空から叫ぶ。
くそ! ダメか……。
俺の願いは叶わなかった。地面は荒れていたが何事もないように始祖はまた進み始めていたのだ。
「あの歪みが始祖を守ってるんじゃないかしら?」
隣に来ていたエニィの言葉に俺の中で何かが引っかかった。
「ん? そういえば……」
俺は頭の片隅に残っていた記憶を必死に思い出そうと目を瞑った。
「リアン! あれと同じようなモンスターが深淵の洞窟にいなかった?」
合流して来たアイナの言葉に俺はハッと目を見開いた。
「そうだ! 50階のボスモンスターだ!」
俺は全てを思い出すと大声で叫んでいた。
「それで? どうやって倒したの?」
そのモンスターと戦った事がないエニィの質問攻めに俺は答えることにした。
「そのモンスターはアイツみたいに沢山歪みがあるんじゃなくて一箇所だけあったんだ。それでも攻撃が全部歪みに吸われてさ、しばらく勝てなかったんだよ」
俺はその時の事をよく覚えていた。倒すのに30日かかったからかもしれないが……最初はモンスターのパターンを分析するところから始まり、色々な事を試しているうちに偶然あることに気付いたのだ。
「あれを攻略するにはスキルや魔法を使っちゃいけないんだよ」
「どういう事?」
エニィの頭にはまだ疑問符が浮かんでいるようだ。首を捻って訊いてきた。
「あの歪みはスキルと魔法に反応するって事、だから単純に殴るしかないの」
アイナが俺の後を引き継ぐようにエニィに説明した。
「あの時は偶然分かったんだよな〜」
俺の言葉にアイナがプッと吹き出す。
「あはは! もうどうしようもなくなった時にリアンが頭にきて殴りかかったら攻撃が通ったのよね!」
こんな時にも関わらずアイナは堪えきれなかったのか、声を出して笑っていた。
「わ、笑うことはないだろ……」
「ごめん! あの時のリアンのポカンとした顔がおかしくて思い出しちゃったの!」
まだアイナの顔は笑いを堪えているようだった。
「リアン、作戦は?」
エニィにそう振られると俺はアリスを呼ぶことにした。
「アリス! ちょっといいか?」
アリスが降りてくる間、俺は作戦を考えた。
「エニィとアリスは始祖を攻撃してできるだけ気を引いてくれ。その隙に俺とアイナが奴の懐に飛び込むから」
「分かった!」
「頼んだわよ。リアン、アイナ」
アリスとエニィが離れて行くと俺はアイナと目を合わせた。
「アイナ、昔みたいにできるかちょっと不安だけど頑張るよ」
「きっと大丈夫よ、スキルが使えるまでふたりでいっぱい練習したんだもん」
そう、俺とアイナはまだ駆け出しの頃、当然スキルなんて持っていなかった。だからモンスターを倒す時は連携を密にして攻撃をしていたのだ。何度も話し合ってお互いの動きを見ながら体で覚えた。いつからかレベルの差が広がったり仲間が増えてやらなくなったけど、きっとまだ体が覚えているはず。
「そうだな」
「ねえ、あの時みたいに掛け声をお願い」
アイナに言われて俺は頷いた。
「よし、じゃあ行くぞ。1……2……」
そのカウントダウンに体が反応するように自然と動き出すと腰をかがめて力を溜めた。
「サン‼︎」
地面を思いっきり蹴ってアイナと同時に飛び出した。すでにアリスとエニィが攻撃を始めており、始祖の気を引いてくれていたおかげですんなりと懐に飛び込めた。
ガス!
剣が奴の体を守る殻のような鎧に当たると剣から振動が体に伝わった。
よし! 効いてる!
「アイナ!」
「ハァ‼︎」
俺が攻撃した後の隙を埋めるようにアイナが前に飛び出すと驚くほど速い斬撃を繰り出した。
アイナの斬撃が奴の鎧にダメージを与えていくとすかさず俺も次の攻撃に転じた。
俺はアイナの動きを体で覚えていた。いくらレベルが上がっても動きには無意識にでる癖があるのだ。それを覚えていた事が嬉しくて自然と笑みが溢れる。
「効いてるぞ!」
奴の鎧にヒビが入っていた。それが幾つも入るとそれは繋ぎ合い大きなヒビに変わっていった。
「おおー‼︎」
大きなヒビができた場所めがけて俺は全力で剣を振り下ろした。
ガス‼︎
鎧はガラガラと音を立てて崩れていった。
ゾク‼︎
何かに睨まれたような視線を感じて体に悪寒が走ると急に怖くなった。
「アイナ! 一旦退くぞ‼︎」
「分かったわ!」
その場に居たくない衝動に駆られ、急いで離脱するとアリスとエニィの元に合流した。
「あれが始祖の正体……」
エニィは青ざめた顔でそれを見ていた。
「これからが本番だ……」
俺はこれから始まる死闘を予感させるその姿に息を呑んだ。




