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当世退魔抜刀伝  作者: 大澤伝兵衛
第2章 ダイダラボッチ編
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第39話「転校生フラグ回避」

「もうちょっと急がないと、遅刻しそうだな」


「修ちゃんのせいだけどね」


 鬼越修(おにごえしゅう)太刀花千祝(たちばなちい)は、二人が通う八幡高校への通学路を駆け足で急いでいた。


 余裕のある口調であるが、常人では息が切れて話すのがつらいスピードで走りながらの事である。


 二人は基本的に余裕をもって出発するため、普段ならこんなザマにはならない。


 しかし、二人の自転車であるクロスバイクやロードレーサーは、激戦を繰り広げた香島神宮に乗って行ったまま置いてきてしまったままだし、千祝が買い物のためによく使う三輪自転車は太刀花家が襲撃を受けた際に壊れてしまっている。


 本来なら日曜日に自転車を取りに行くつもりだったので、移動手段が無くなっていた。


 そして、出るのが遅くなってしまった理由がある。


 外つ者に関して相談がある為、防衛隊の対外つ者部隊の知り合いである、中条に連絡を取ろうと駐屯地に電話したのだが、取次にかなり時間を要してしまったのだ。


 中条の所属している対外つ者部隊は、秘匿性が高いため、おいそれと電話をつなぐわけにはいかなかったのだ。


 高校生が特殊部隊の隊員を出せと、突然電話をかけてきたのだから、それに対応した基地通信隊の隊員の苦心は察して余りがある。


 電話を当直に回されたりと、かなり警戒されながら事情を話した結果、中条から連絡してくれることになった。


 そんなこんなで家を出るのが遅くなったのだ。


 とは言え、修達の足なら問題なく間に合うのだが。


「千祝さんや。『縮地』を使ってみたらどうだろう?」


 修が提案する『縮地』とは、少し前に戦った道場破りや、そいつと同門で巨大な外つ者「ヤトノカミ」を復活させた者達の奥義で、目にも止まらぬ速さで移動することが出来る。修達は戦いの中でラーニングして、ある程度使えるようになっているのだ。


「止めた方が良いわよ。あれって短距離走をするよりも疲れるから、学校にたどり着くまで保たないし、私たち、精密な動きまでは出来ないから、誰かとぶつかっちゃうかもよ?」


「それもそうだな。ん?」


「!」


 路地を抜けて、少し広い通りに入ろうというところで、修達は何かに気が付いた。お互い目配せをすると、急ブレーキをかけて大通りに出る前に止まる。


 二人の前を、一人の女学生が横切って行った。もし、止まらずに走っていたままだったら、ぶつかっていたことだろう。


 二人は女学生に見覚えがあった。


「あれって辰子さんよね?」


「俺にもそう見えた。うちの学校の制服着てたね。追いかけよう。どうせ方向が一緒だし」


 走り去った女学生は、那須辰子といって、この前の死闘の舞台となった香島神宮の神主の娘である。


「やあ。辰子さん。こんなところでどうしたんですか?」


「!? お……たち……ぜぇ。ぜぇ」


 修達は辰子の両脇に追いつくと、軽い感じで話しかけた。修達は余裕だが、辰子は走るのに精一杯で、まともに返事が出来そうにない。


「うちの学校の制服着てるってことは、転校してきたんですよね?」


「香島神宮にあの襲撃があったから、安全なところに引っ越してきたってところですか?」


「はっ……ぜぇ。ひぃ」


 辰子はまともに返事できていないが、修達は質問を続ける。辰子から人類に理解できる言語での返事はないが、修達の予想は当たっている。


 香島神宮での戦いではヤトノカミを復活させるため要石が破壊されたが、これには辰子の父親の血が使われた。幸い辰子の父親は命を取り留めたが、再び要石を破壊するのに辰子が狙われても不思議はない。


 3人そろって走っていくと、赤信号に差し掛かって立ち止まることになった。


「はぁ。はぁ。たちばなさん。おにごえさん。おひさしぶりです。おふたりのよそうはあたってます。きょうからてんこうです」


 まだまだ苦しそうだが、辰子は立ち止まったことで何とか話せるようになった。


「道に迷ってしまって、遅れてしまったので、急いで走っているんですが、もう間に合わないかと思うんで、無理せず歩こうかと迷っているんです」


「いやいやまだ間に合いますよ。信号を渡ったところの馬場川の橋から大体1キロですから。3分くらいで走りぬけば間に合いますよ」


「それってどれくらい速く走ればいいのか分からないんですけど」


「それでは私たちが間に合うくらいのスピードで走りますから、着いてきてください」


 間に合うことをあきらめようとする辰子を、千祝達は間に合うから走るように促した。そして、そんな会話が終了したところで、青信号に変わった。


「じゃ、行きますよ」


「え? えぇー」


 修達は先導するように走り出した。全速力というわけではなく、先ほどの発言の通り、丁度間に合う様なスピードに加減している。


 なお、1キロ3分というのは、陸上競技をしている者ならそれほど苦はないが、そうではない辰子にとっては未知のスピードだ。


 必死で追いかける辰子は、再び息が上がってくる。


「ちょっと……むり……さきに……」


 学校までこの速さで走り切る自信が失せた辰子は、息も絶え絶えに二人に先に行くように言おうとした。


 しかし、


「あきらめんなよ!」


「どうしてそこでやめるんです? もうちょっとがんばってみましょ?」


「?!」


 修と千祝は機先を制するように激励の言葉をかぶせてきた。元テニスプレーヤーばりの激烈な応援であり、諦めるとは言いだしづらい。


 結局、校門まで約3分で走り抜けた。


 たどり着いた校門には、生活指導の染谷がいつものように立っていた。


「こら! 鬼越! 太刀花! と誰だ? まあいいか、急いでるのは分かるが、そんなに急いだら危ないだろう。別に門を閉めたりしないから、こういう時はおとなしく遅刻リストに名を連ねろよ」


 修達は染谷に注意されてしまった。当然のことではある。そして、注意する染谷の横から、もう一人の教師が前に進み出た。2年生の学年主任の田沼である。田沼は修達が弓を練習するときに行く道場の門下生であり、同門であるともいえる。


「那須辰子さんですね。 朝は書類の提出とかあるから、ここまで急ぐ必要は無かったんですが、とりあえず身だしなみを整えてから職員室に来て下さい。職員室はここから見える玄関から入って右ですよ」


 田沼は辰子を迎えに来たようだ。今までの苦痛は無駄であったと告げられて、辰子は恨めしそうな目を修達に向ける。


 辰子の綺麗な長い黒髪は乱れ、整った顔は涙やら何やらで酷いありさまである。


 新たな高校にデビューする日としては最悪のコンディションである。


 校門で修達と辰子は分かれてそれぞれの行動に移った。



 なお、この一部始終を見ていた同級生の証言や、少し前に辰子が修(と千祝)に危ないところを助けられたという証言から、太刀花千祝が転校生フラグをあらかじめへし折ったという噂がまことしやかに流れたが、それはまた別の話である。

この小説にハーレム展開はありません。

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