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その言葉を聞いたシャーロット様は困惑しているのか、掴みかかっていた手の力が弱まりました。
「レンティル……どういう事?」
「……シ、シャーロット」
「何故、私に……話してくれなかったの?」
「事情があって……っそれに!父上にも、口止めされていたんだ!!」
シャーロット様はレンティル様の首元から手を離しました。
わたくしは二人の間にどんなやり取りがあったのかは分かりませんが、恐らくシャーロット様は何も聞いていなかったのでしょう。
「何、それ……!」
騙された事を怒っているのでしょうか。
それとも、レンティル様は矛盾した事ばかり言っているので頭に来たのでしょうか。
わたくしには分かりませんが、シャーロット様の体はブルブルと震えています。
「もういいわ……ハッキリして頂戴」
「え……?」
「―――レンティル!!今ここで決めなさいよッ!私を選ぶか、その子を選ぶのかッ」
「シャーロット…」
「……」
シャーロット様は先程までの自信満々な態度は無くなっていました。
ついに我慢が爆発してしまったのか、瞳からはポロポロと涙を零しています。
あまりにも痛々しい姿に、わたくしは同情してしまいます。
わたくしとレンティル様との結婚式まで二ヶ月と迫り、婚約破棄する素振りもないレンティル様に心の中で不安があったのでしょう。
シャーロット様は涙を流しながら、レンティル様に選択を迫ります。
暫くの沈黙の後、レンティル様は静かに口を開きました。
「……すまない、シャーロット」
「……!!」
「シャーロット、僕は君を本気で愛していた」
「ぁ……」
「だが、シャーロットではなくリディアを選ぶ………もうお前に価値はないんだ」
「……」
「仕方ない事なんだ!!分かってくれッ」
まるで何かの演劇を見ているかのようです。
レンティル様はどうやらシャーロット様ではなく、わたくしを選ぶつもりのようです。
レンティル様の言葉を聞いたシャーロット様は大きく目を見開きました。
その後、俯きながら体を大きく震わせます。
そして、レンティル様に思いきり張り手をしたシャーロット様はそのまま去っていきました。
余りにも可哀想で見ていられません。
その場に取り残されたわたくしは、どうしようかと迷いましたが、シャーロット様の後に続いて去ろうとした時でした。
「どこに行くんだ、リディア!?」
「……?家に帰るのです」
「お茶でもどうだ?……見苦しいところを見せてしまってすまない」
「……」
「結婚式の資料がバラバラになってしまったね。直ぐに新しいものを用意させよう」
まるで何事もなかったかのように笑顔を浮かべるレンティル様……。
恋愛経験が少ないわたくしにも理解出来ました。
この人はクズだと。
わたくしと婚約破棄するから…と、結婚の約束をチラつかせて、関係を持ちながらシャーロット様の事を弄んでいたのです。
そしてシャーロット様を捨てたレンティル様は、わたくしと結婚するつもりなのでしょう。
流石にそこまで馬鹿だとは思わずにわたくしは驚いていました。




