97 臨時収入
2020.9.21 マジックバック → マジックバッグ
「コインだな。肉や服を酸で溶かし、溶かしきれない金属類を体の中に溜めこんでいるかもしれん」
マートはそう呟いた。
「うへぇ、つまりは犠牲者の持ち物ってことか…。気持ちいいもんじゃねぇな。でも、まぁ置いておいても仕方ねぇ。俺たちで有意義に使うことにしようぜ」
鱗はすこし元気を取り戻してそう言った。
「あはは、おっけー。さっさと潰しちまおう」
『炎の矢』
マートは、炎の矢呪文で正確に真っ黒なスライムの核を貫いた。スライムは弾力を失いただの汚水の塊に変わる。
「おお、いろんな魔法が使えるようになったんだな。さすがランクBだ」
スライムは核を貫けば簡単に倒せる。ただ、この真っ黒なスライムはほとんど不透明で、松明の明かり程度では核が見えない。それが困った問題なのだが、マートは敢えて言わなかった。
汚水の氷塊を削って、コインを取り出していく。すると、なんと金貨が3枚も出てきた。他にも大銀貨や銀貨などかなりの金額である。
「おおお、金貨だ、すげぇ。それも3枚も...。一体誰だよ?少なくとも俺達の仲間でこんなに溜め込んでる奴はいねぇと思うんだが」
「コインは自分のものにして良いんだよな?」
「ああ、仕事を受けた時に、冒険者ギルドでも確認してるから大丈夫だ」
コインに紛れて、髪飾りが1つ、あと、印章のようなものが1つ見つかった。
「あー、それは持ち主を探さないとだめだな。判らねぇ時はギルドに預けて調べてもらうってことになってる」
マートは印章を見て目を疑った。交差した剣と百合をあしらったデザイン、ワイズ聖王家のものだ。こんなところに転がっていて良いものではない。幸い鱗はそのデザインまでは興味がないようだった。マートはその印章を鱗が見えないように掌に握りこんだ。
「この印章は見覚えがある、髪飾りと一緒に俺が届けておいても良いか?」
「ああ、猫は貴族の護衛とかもするんだったな。知ってる貴族なのか?」
「そうなんだ。これを届けたら結構お礼がもらえると思うのさ。その代り、コインは全部鱗に譲る。どうだ?」
「どうせ、俺が持って行っても精々大銀貨がもらえるとかだろうからな。でも、本当に良いのか?金貨3枚だぜ?他のをあわせたら4枚分ぐらいにはなりそうだ。大金じゃねぇか」
「いいのさ。それと、せっかく金が入ったんだから、ステータスカードを作る事を勧めておくぜ。俺たちみたいな普通とは違う外見を持ってる者は、特別な力がある事が多いらしいんだ。俺みたいに暗闇で見えるのもステータスカードに書いてあった。鱗にも特別な力があるかもしれねぇ」
「へぇ、そいつは良いな。特別な力…か。けど、たしか、ステータスカードって結構金がかかるだろ?」
「1金貨だな」
「そいつは、高すぎる。ちょっと考えさせてくれ。特別な力があるかもしれねぇが、無いかもしれねぇんだろ?」
「それはそうだな。まぁ、任せるよ。あとは、この真っ黒なスライムの対処方法だな。冒険者ギルドには届けるんだろ?」
「そりゃそうだ。他の掃除している連中にも警告しないとだめだしな。こんな金を貯めこんでるんなら、猫、退治して廻らないか?」
「いや、こんなに貯めこんでいるのは偶々だと思う」
マートは今まであまり意識していなかった汚水の中を見回した。百メートル範囲内では、スライムの小さな個体は何匹か居たが、鱗を襲ったほどのサイズのものは居なかった。スライムの体内にコインを持ってる個体も居ない。
「このサイズのも、あまり居なさそうな感じだけど、小さいのは結構居そうだな。必要なら捕まえて冒険者ギルドに突き出すか?」
「ああ、そんなことができるのなら話はしやすい。頼めるか?」
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その日は、鱗の奢りで昨日と同じ店で2人は飲むことにした。鱗は高い店に行きたがったのだが、いくら水浴びをしても、臭いは残っており、どこに行っても結局首を振られて戻ってきたのだった。
「まぁ、こんなもんさ。ここはここで旨いぜ?」
鱗はそう負け惜しみを言った。
猫は少し悲しく思い、マジックバッグからリュートを取り出した。
「ここの優しさが一番良いと思うぜ?上辺を飾る連中よりはよっぽどな。マルティナ姐さんの好きだった歌を歌っていいか?」
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