94 オークたちの後始末
2020.9.21 マジックバック → マジックバッグ
『治癒』
『治療』
『洗浄』
ニーナは檻の中の裸のエルフの女性たちに呪文をかけ、身体を綺麗にする。洗浄呪文とは、光、魔法の矢、魔法感知の他に、リッチの呪文のメモに書いてあった真理呪文の一つで、彼女も最近憶えたばかりだ。
『毒』
ほおずきと呼ばれる植物に含まれる毒は堕胎薬として古来から使われているというのをニーナは植物図鑑で知っており、彼女は妊娠していると思われる女たちにはそれを無条件に使うことにしたのだった。もちろんリスクが無いわけではないが、いちいち使うかどうかなんて聞いて回る気はなかった。
『記憶奪取』
呪術呪文と神聖呪文は、真理呪文とは違い、★が成長すると、自動的に魔法を習得していく。★5まで成長し、彼女は新たにこの呪文と変身呪文を手に入れていた。記憶奪取は本来は、変身した相手の記憶を奪い、相手に成りすますための呪文のはずだが、オークに犯された記憶など抱えていたくはないだろうと考えたニーナは呪文を使って、オークの集落での彼女たちの記憶を奪ったのだった。だが、結局、女達は自分の身体や、処置している途中の他の仲間たちの様子を見て、忌まわしい記憶こそないものの、自分に何が起こったのかはぼんやりとはわかったらしかった。
「終わった」
ニーナは少しふらつきながら、女たちの檻のカギを開けた。壊れてしまい宙を見つめるものも居たが、その子らも、他の女たちに助けられ檻から抜け出した。
「チスニキチカラナ キラツチニモチトナ」(ありがとうございます)
「カチトナノチスニモチトニカチ」(たすかりました)
「チミチカチクチ テチカチトニカチカニミラ ノチモニシイトナ」(あなたは私たちの神です)
女達は口々に何か言っているが、ニーナには、何を言っているのかわからない。とりあえず、マジックバッグから水筒を出して彼女達に振舞う。そのうち、女達が呼んできたのか、エルフの長老達がやってきた。女達の無事を見て再会を喜び、歓喜の涙をながしている。
「ありがとうございました。なんとお礼を言ったらよいか……」
「うん、なかなか楽しかったよ」
「ささやかですが、皆と喜びの宴を行います。是非ご参加ください」
「ああ、まぁいいか。わかった」
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おそらく鬱屈していたものが一気に開放されたせいだろう、始まった宴は賑やかなものだった。
音楽が奏でられ、若い男女たちはその音楽に合わせて踊り、無事を祝いあった。ニーナも手持ちの食料や酒を振舞うことにした。最初に打ち倒した男が、詫びに来たので許すことにした。何人もの男に求婚されたが、首を振って断る。
宴が最高潮に達した頃、ニーナの耳にはエルフの里の奥から、静かな調べが流れてきたのが伝わってきた。そして、奥から半透明の身体をした女性が、緑の髪をなびかせながら、3体、風に乗って、空中を舞いながらやってきた。
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彼女らは木の精霊のようだった。守る民が居るほどの樹だ。精霊が宿っているのも頷ける。
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エルフ達のなかにも、彼女らの存在を感じ取れるものがいるのだろう。その声にうれしそうな顔を浮かべたり、くるくると回って踊ったりしている。
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ニーナも彼女達に声をかけた。3人の木の精霊は、ニーナに近寄り、まじまじとよく見、驚いたように囁きあった。
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ニーナの前に、3人の精霊のうちの1人が進み出た。
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アニータと名乗った精霊が、ニーナの頬に口づけをした。姿が消える。
「アニータ」
ニーナが声をかけると、緑色を帯びた豊かな髪が腰まで覆う、美しい裸の女性が姿を現した。
「トイニモイニミラ ノニミラ トイニスイニトチモチ」(せいめいのきのせいれいさま)
「トイニスイニトチモチキチ トナキチカチテラ チスチテチトチスイカチ」(せいれいさまがすがたをあらわされた)
エルフ達が彼女を見て口々に言う。
アニータはニーナに触れ、腕を絡ますようにしながら、隣に座った。
「テチカチトニクチ ノチミラマンラカラ ノイニンチノナトニカチ」(わたしは、かのじょとけいやくした)
「キイミミトンラミラ トイニスイニミラ チスチカチミチスナ ノイニンチノナ」(げんしょのせいれいのあらたなるけいやく)
「モニミミミチ ニテチカカイ」(みんな、いわって)
アニータが何を言っているかは、ニーナはわからないが、なにか嬉しそうなのは表情を見てわかった。
「皆、私たちの契約を祝ってくれるわ」
アニータがそう言ったので、エルフ達にもそんな事を言ったのだろう。細かいことはニーナにとってはどうでもよかった。
「ああ、よかったね」
読んでいただいてありがとうございます。
お盆休み特別毎日更新企画はここで終了です。力尽きました…。
次回からは新章 隔日連載に戻ります。




