91 バナナをどうぞ
言葉については、ふりがなにせず、あえて後ろに()をつけて、その中に意味を書きました。ニーナの気分を感じるのに、わざと()の中は読み飛ばしてみるのも楽しいかも?
2020.9.14 剣技 → 闘技 に変更しました
ニーナが案内されたのは、そこから、北に1時間程進んだ先だった。彼女にもよくわからない魔法の力でその道は隠されていたが、2人の案内によって、彼女はそこにたどり着くことが出来た。
「隠れ里なのかな?不思議な場所」
その村らしき集落の入口で、子供二人に手を引かれて、ニーナはそう呟いたが、その直後に彼女を見る複数の視線を感じたのだった。
「誰?」
彼女はぐるりと周りを見回した。
「ラモチイクチミチミニモラミラシチ!」(おまえはなにものだ!)
「トラニカナノチスチマンチチノナミチノニテラノチミミマニスナ」(そいつからはじゃあくなきをかんじる!)
「ノラミラクニカラクチニニクニカラ」(このひとはいいひと)
「テチカチトニカチカニミニカチコイモラミラテラノナスイカチ」(わたしたちにたべものをくれた)
「シチモチトチスイスナミチ」(だまされるな)
「ラニクチスチイ」(おいはらえ)
集落の入口でこちらを見ている人影と子供が言い争いのようなものをしている。
「ねぇ、なにを言ってるんだい?」
ニーナは不思議そうに子供たちに尋ねた。
「ンチモイカイ」(やめて)
「キラモイミミチトチニ ミニキイカイ」(ごめんなさい。にげて)
子供はニーナに何か必死に言う。よくわからないニーナは首を傾げ、子供たちの頭を撫でた。
「ノラシラモラモラカチコナスチノチトチスイカチツラ」(こどももたぶらかされたぞ)
「トラミララミミミチテラノラスラトイ」(その女をころせ)
矢が飛んできた。ニーナは慌てて子供を後ろに庇い、飛んできた矢を払う。
「ふぅん、よくわからないけれど、戦うって事だね。良いよ」
ニーナは子供を2人、その細い腕からは考えられないような力でひょいと抱えると、上に飛び上がった。
【毒針】
木の上から弓矢を撃ってきた男たち3人は肩や胸に痛みを憶えてその場にうずくまった。
『幻覚』
残った男たちには、その場は黒い霧に包まれたように見えた。ニーナは、子供2人を物陰に隠すと、再び空に飛びあがる。
『痛覚』
『毒』
弓を撃っていた男たちが次々と木から落ちていく。
<縮地> 格闘闘技 --- 踏み込んで殴る
入口のところで、指示していた男が吹っ飛んだ。面白いようにくるくると地面を転がる。ニーナは飛行を止め、その男を踏みつけるようにして地面に下りた。
「さて、勝負はついたよ。どうする?」
ニーナはその男の顔を踏みつけた。
男の顔が痛みと悔しさとで歪んだ。
「ノナトラリカナ コチノイモラミラモイ」(くそっ、ばけものめ)
「何を言ってるのか判らないんだよね。とりあえず、喧嘩を売ってきたのは君たちだよ。負けは認めなさそうだし、仕方ないね」
ニーナは右足に力を加えた。ミリミリと男の頭蓋骨がきしむような音がした。
「ラミイキチニ カチトナノイカイチキイカイ」(おねがい。たすけてあげて)
「ラミイキチニ ンナスナトニカイチキイカイ」(おねがい。ゆるしてあげて)
2人の子供が隠れていた場所から飛び出して来て、ニーナの足にしがみついた。
「モチカチスインラ モチカチスインラ」(またれよ、またれよ)
「またれよ! またれよ!」
集落らしきところの奥から、叫びながら老人が飛び出してきた。
「ん?言葉を話せる人がいたみたいだね。君、助かるかもよ?」
ニーナは、右足の力を少し弱め、踏みつけている男に呟いた。
「すまぬ、身勝手な事で申し訳ないが、ゆるしてくれまいか?」
その老人はなんとか咳き込みながらそう言うと、地面に座り込んだ。
「こんにちわ、おじいさん。後味のあまり良くないことになりそうだったから、話ができる人がいて良かったよ。おじいさんは、誰?」
「私はこの里の長老じゃ」
「じゃぁ、木の影に隠れている人は?2回目はないよ?出てきた方が良いんじゃないかな?」
そう言って、ニーナはにっこりと笑う。老人が驚いて目を見開く。そして、後ろを向いて手を振った。1人の男が姿を現す。
「あと4人だよ」
老人はがくりと地面に手をついた。
「わかった」
「シチモイマンチ ツイミミニミミシイカイノナスナミラマンチ」(だめじゃ、全員でてくるのじゃ)
木の影からでてきたのは、今度は女たちだった。みな構えていた弓を下す。
「さて、長老さん、どうしようか?僕は普通に子供たちに誘われて来ただけだったんだけど」
そう言いながら、また、子供たちの頭を撫でる。
「すまぬ、皆、気が立っていたのだ」
「それで、来た人をみんな殺してきたのかい?物騒だなぁ」
「……」
長老は何も言えないようだった。
子供らは大事に抱えていたバナナの残りの一本を長老に差し出し、口々に言った。
「ノララクニカラキチノナスイカチ チモチノナカイラニトニニ」(このひとがくれた。あまくておいしい)
「カニカカンチニノラミニ チキイカチニ」(ちっちゃいこにあげたい)
「ラスイニ ラスイニ」(おれい、おれい)
「カチカチノチナミラ シチモイ」(たたかうのだめ)
「ああ、そういう…ことか。本当にすまぬ」
「よくわからないけど、少しは通じたみたいだね。君たちは蛮族でもないみたいだけど、何?」
「私たちは、樹を守る者。人間からはエルフと呼ばれる種族じゃ」
読んで頂いてありがとうございます。




