87 ヨンソン山洞窟探索1
サブタイトル番号訂正
2020.9.21 マジックバック → マジックバッグ
2020.10.24 サラマンダー → サラマンドラ
「暑いな。汗が止まらん」
洞窟に一歩入ると、そこは灼熱の地獄だった。マートは定期的に氷の塊の入った皮袋を3人に渡したが、その氷もすぐ溶けてしまう。オズワルト、アズワルトの2人は最初はその袋を拒否したが、あまりの暑さに受け取らざるを得なかった。
「水はいっぱいあるから、飲み続けてくれ。塩もな。そうしないと倒れるぞ」
「ああ、わかった」
オズワルト、アズワルトの2人も暑さと疲労で、マートの言葉遣いは気にならなくなったようだ。正確には気にする余裕がなくなったというべきか。鎧もほとんど脱いでマートに預けているし、言われたことも素直に従っている。
「こんなところを、半日も歩いたのか?」
「わからん。古い足跡はあって、それを追ってるんだが、それがその連中のものかはハッキリしない」
オズワルトの質問にマートはそう答えた。
さらに歩くと、洞窟から左右に広がる大裂け目にぶつかった。裂け目からはおよそ200m下は真っ黒だが、ところどころ赤い裂け目のようなものが輝きうねっている。
「溶岩だ…裂け目に出たぞ。底に溶岩が見える」
皆、洞窟から裂け目の底に目を凝らした。聞いた話とは少し違うような気もするが、ここが目的の場所だろうか?
「サラマンドラは居る?もう暑くて限界よ。お願い。猫、見つけて」
ジュディがそう言うが、溶岩の上に動いているものの姿は見えない。マートは以前、森の老人に教わった事を思い出しながら目を瞑った。
- 集中せず、力を抜いて、耳を澄ます
彼は静かに洞窟から裂け目を見下ろす位置で立つ。汗が頬を伝う。
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かすかな声がするのは遥か下だ。楽しそうに浮かれて騒ぐ声。彼は目を瞑った。
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声をかけてみたら、どうだろうか?届くだろうか。ミリミリと岩が岩を押し退ける音、パチパチと物が焼け弾ける音。そんな音が裂け目の底からは聞こえてくる。まるで地獄図だ。
彼らは何をしているのだろうとマートは考えた。火山の火口で、サラマンドラが楽しそうにする事は何だろう。噴き上がる炎をみて楽しんでいるのだろうか。いや、ウェイヴィは彼らは楽しいことが好きだと言っていた。踊っているのだろうか。
マートはマジックバッグからリュートを取り出した。夜の慰みにと最近入れておいた楽器。サラマンドラの楽しそうな声に、音を合わせ始める。
ポロン、ポロンと最初は探るように…徐々に大きくしていく。
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騒ぐ声は徐々に大きく、マートの弾くリュートの音にあわせるようになり始めた。顔にあたる熱が徐々に増えていく。
ゆっくりとマートは目を開けた。目の前の空中に浮かぶ半透明の炎の塊。目を凝らすと、それが小さなトカゲのような姿をしているのがぼんやりとわかる。羽根のあるトカゲ。
その羽根のあるトカゲの形をした炎の塊は、マートの奏でる音楽に合わせて、宙を舞った。マートは音楽にあわせるようにして話しかける。
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マートの奏でる音楽に合わせ、半透明のサラマンドラは空中を舞った。
「サラマンドラが来ている。まだ精霊使いにしかその姿は見えない。音楽が気に入ったようだ」
マートは口早にジュディたちに伝えた。
「来てるのね。熱だけは感じる」
ジュディがそう応え、じっと空中を見つめる。
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サラマンドラはさらに大きく身体をくねらせた。
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炎の精霊の姿が、すこしゆらめいた。手を伸ばし、マートの左腕に触れる。触れたところに、燃え盛る炎を連想させる文様が描かれた。
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そう告げて、 炎の精霊はぼやけ、姿が見えなくなった。マートは、ジュディをちらっと見る。彼女は頷いた。
それを見て、マートは前をじっと見て呟いた。
「ヴレイズ」
マートの目の前にゴゥと炎が上がった。その炎はたちまち人と同じほどの大きさの羽根の生えたトカゲの形をとった。
その様子を見て、オズワルト、アズワルトの2人はお互い頷き、剣を持って立ち上がる。
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