85 ヨンソン山探索4
2020.9.21 マジックバック → マジックバッグ
2020.12.29 前に水浴びしに → 前にトイレに
行程は順調に進み、2日目の夕方には、山の八分目あたりにまで到着した。ここから上は道が険しく、馬車や馬は無理そうな感じだった。
「疲れていると思うが、しばらく歩き続けてくれ。そうしないと頭が痛くなったりするらしい」
マートは馬車や馬から降りた5人にそう言った。
「え?そうなの?どうして?」
クララが尋ねる。
「急に高いところに登ると頭痛や吐き気がすることが多いらしいんだ。でも、到着して、すぐは休まず、しばらく歩き回るとそれがマシになるらしい。理由はよくわからないが、山地のガイドをしてた連中にそう聞いたんでな」
「つまらぬ因習だ」
オズワルトはどっしりと腰を下ろした。アズワルトもそれに続く。それを見てマートは苦笑したが、それ以上は何も言わなかった。ジュディとクララは馬車から出て言われた通り付近を歩きはじめる。ジョンとマートは二人で馬の手入れをし始めた。
「動物の扱いも慣れておるのう。馬は好きか?」
マートが、引き具や鞍を外した馬に、手慣れた様子で精霊魔法で作りだした水を掛け、ブラシをしている様子を見て、ジョンはそう訊ねた。
「馬は大事にしないとな。こうやって毎日ブラッシングすると喜ぶし、一杯働いてくれる」
「たしかにのう」
ブラッシングが終わると、身体を拭くのはジョンに任せ、マートは餌桶と水桶をマジックバッグからとりだし、馬の前に置き、頭を撫でながら、斥候途中で手に入れたマルベリーの実を馬に与えたりする。
「おいしそう……」
散歩から帰ってきたジュディがその様子を見て呟いた。
「あはは、夜のデザートにでもと思ってたが先に見つかったか。クララ、水桶を出すから、これを洗って出してやってくれ。あっちの2人の兄ちゃんにもな」
マートは小さな桶一杯のマルベリーの実、水桶、そしてついでとばかりに、設営済みのテント、焚火用の石をマジックバッグから続けざまに取り出す。
「ほんと、いろいろ入ってるんですね」
「小さな小屋と同じぐらいの量が入るマジックバッグさ。これだけで一財産なんだぜ。こうやって使うのはたぶん珍しくて、普通だと交易とかで使う方が多いだろうな。今回はシェリーたち用にテントとか用意してたから丁度良かった」
「中にも籠とか水桶とかあって本当に助かります」
「前にトイレに行って、蜘蛛に捕まった奴がいるからな」
そう言って笑うと、クララが少し拗ねた顔をする。マートはそれには忖度せず、すこし真面目な顔をして言葉を続けた。
「血の臭いとかは敏感な獣とかがいるから、気を付けて身体とかは洗ってくれ。あと、明かりの呪文はもうすこし暗くしたほうが良いな。影とかがテントの布に映ったりしてる」
「まぁ、ほんとに?」
ジュディとクララが顔を見合わせる。
「シェリーたちはランプしか使わなかったから気づかなかったんだがな。お嬢は魔法の威力が強いから、そうなっちまうみたいだ。昨日夜は、ジョンのおっちゃんにお願いして目隠しに布を追加で張ってもらったけど、毎晩は面倒だからよろしく頼む」
「わかりました。マート様」
「クララ、できればもっと砕けた調子で喋ってくれると俺も気楽で良いんだがな。オズワルトたち2人にも言ったんだが、俺の産まれだと、丁寧な口調で喋るのはできない訳じゃないが、とても大変なんだ。あんたもお嬢と2人で喋ってる時はそういう感じじゃないか」
クララは聴こえていたのかという顔をした。
「メイドの身ですから、お嬢様とお二人の時以外はそのような話し方はできません」
「ま、出来る時だけでいいから頼むよ。晩飯は、昨日と同じように具沢山のスープとパンと串焼きの肉だ。あまり料理は上手じゃないんで我慢してくれ」
「旅の途中なのですから、それだけ出れば贅沢な事かと思います」
「そりゃぁ、干し肉と硬いパンだけに比べればマシだとは思うけどな。昨日と同じようにクララがあの二人には持って行ってやってくれ。俺じゃぁ拗ねるだろうからな。あと、困ったことが無いかも聞いてやってくれ。手数かけるがよろしく頼む」
「畏まりました」
「明日からの予定なんだが、明日以降の道のりは馬では無理っぽい。馬車と馬はここに置いておくしかないだろう。問題は洞窟がすぐ見つかるかがわからないという点と、そこから半日程度洞窟の中をさまよったという話だ。食料と水は持って行けるが、テントは開けた場所がないと張れない。馬車と馬に見張りを残すのなら、誰を残すかだ。今のところ蛮族や魔獣の気配はないが、何も出ないという保証はない。俺が1人洞窟を探しに行って、それが見つかってからお嬢たちは行くという手もあるんじゃないかと思ってるんだが、どうだろう?」
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