84 ヨンソン山探索3
2020.8.29 誤表記訂正 アレキサンダー → アレクサンダー
2020.10.24 サラマンダー → サラマンドラ
オズワルト、アズワルト2人の兄弟騎士は、心中穏やかではなかった。
彼らが仕える伯爵の次女であるジュディお嬢様に馴れ馴れしい口をきき、アレクサンダー伯爵家騎士団の中では、姫騎士と呼ばれ憧れの存在であるシェリーの事を呼び捨てにするこの平民の冒険者が許せなかったのだ。
「どうして、ジュディ様はあのような口の利き方を許していらっしゃるのだ」
ジュディたちの馬車の後ろで馬を走らせながら、オズワルトは憤って弟のアズワルトにそう言った。
「わからんが、きっと、サラマンドラの髭とやらを入手するために我慢していらっしゃるとかそういう理由に違いない。精霊魔法使いというのは数が少ないらしいからな」
「なるほどな。それで、あのように調子に乗っているのか。見たか?あの目、猫と呼ばれるだけあって、本当に猫みたいだったぞ」
「ああ、猫人間とかの話を聞いたことがある。猫と人間の間に生まれた人間で、猫みたいな目と耳をしているらしいが、きっとあいつもそうなんじゃないか?」
「とりあえず、サラマンドラが見つかるまでの辛抱だ。サラマンドラを見つけたら、あいつが四の五の言っても無視して突撃し、一気に倒してしまおう」
「ああ、それが良いな。それまでは、あの猫野郎は無視だ、無視。サラマンドラを倒したら、きっとジュディ様も我々の事を凄いと認めてくださるに違いない」
「ああ、そうだな。サラマンドラが出てくるのが、待ちきれんな」
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「私たちが調べたところによると、ヨンソン山の火口付近にある洞窟に、昔、盗賊が宝を隠したという伝説があって、それを求めて洞窟に入り込んだ冒険者が、サラマンドラを目撃したらしいの」
馬車の中で、ジュディはマートにそう伝えた。
「その洞窟の場所とか特徴とかは?」
「それが、はっきりしないのよ。入口の近くは草木が枯れ、動物は死んでいたっていうだけなの」
「ガスか?動物が死んでるなら、何故そいつは無事だったんだ?」
「わからないわ」
「ふむ、とりあえず、即死性はないと信じて、火口付近で草木が枯れているところで洞窟を探すしかないってことだな」
「そういうことになるわね」
「洞窟の深さはどれくらい?」
「半日迷った ってことらしいわ。そうして、地下のおおきな空洞に出た。そこでは床はところどころ溶岩が噴出していて、そこで踊るトカゲのような姿をみた。そこからは怖くなって逃げ出したらしいわ」
「かなり曖昧だな。それも、そのトカゲがサラマンドラだとして、近寄るには溶岩が噴き出すところを通り抜けないとだめってことか」
「そうなの。猫が呼びかけたら来てくれないかしら?」
「わからねぇな。まぁ、いろいろやってみるさ。まずは、ウェイヴィに訊いてみよう」
マートは、左手の文様に触れた。
「ウェイヴィ、姿を現してくれ」
10秒ほどたつと、泉の精霊のウェイヴィが姿を現した。
「ジュディは会ったことあったよな。クララは初めてだっけ?泉の精霊のウェイヴィだ」
「初めまして、クララ」
ウェイヴィはにっこりと微笑む。
「は、初めまして。ウェイヴィ様」
「ウェイヴィ、少し聞きたいんだが、サラマンドラに会ったことはあるか?ジュディがサラマンドラを探しているんだ」
「すごく昔にね。サラマンドラやイフリートといった炎の精霊の力を宿した存在は、この地上だとあまり存在できないはずよ。例えば火山のようなすごく火の力があるところじゃないと無理ね。あとは、ごくたまに、暖炉などにも小さな力が出現することはあるぐらいかしらね」
「これから、このワイズ聖王国のほぼ中心にある火山、ヨンソン山に向かおうとしているんだ。この山にある洞窟の中で、溶岩が湧き出ているところがあって、そこでサラマンドラが目撃されたらしい」
「へぇ、そうなのね。猫が呼べば、サラマンドラならすぐ寄ってくるでしょう。あの子たちはとても悪戯好きで気分屋だから注意して。興奮したら、暴れまわっちゃうかもしれない。楽しい事は大好きだから、うまく話しかけたらきっと仲間になってくれるわ」
「髭とかお願いしたらもらえるものかな?」
「女性に髪を一房くださいと言うようなもの。そう思ってお願いしてみるといいわ」
「わかった。ありがとう、ウェイヴィ」
ウェイヴィはすぅっと透明になり、姿を消した。
「ジュディ、今聞いた通りだ。問題はその洞窟をうまく見つけれるかどうかだな」
「そうね。よろしくお願いするわ」
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