83 ヨンソン山探索2
2020.9.21 マジックバック → マジックバッグ
“ニーナ、3日間の休みは取れなさそうだから、顕現の解除は無理だ。あと1月ぐらい島で過ごしておいてくれ”
皆が帰った後、マートはニーナにそう念話を送った。帰り道はそれほど困難はないだろうというので、ニーナの希望でヘイクス城塞都市を出発する前に顕現させ、島で過ごさせていたのだった。リリーの街に帰ってから顕現の解除をするつもりだったが、今回の依頼で予定が変わってしまった。
“わかった。かなり呪術魔法もわかったし、真理魔法もようやく使えるようになったよ。魔法感知が便利だな。詳しくは顕現解除してから説明するけどね”
“すげぇな。結局3月ほどで真理魔法を習得したってことか?”
“最初の光呪文を習得するのに、かなりかかったけどね。そこからは早かったよ。あのリッチの残してくれた魔法メモとハドリー王国から工作にきて死んだ魔法使いの呪文書がすごく役に立った”
“ふつうはもっとかかるだろう?”
“魔術学院では、1年生の終わりぐらいには、みんな、光呪文が使えるって程度みたいだね。でも、あのリッチは1月ぐらいで習得したらしいよ。素養によるのかもしれない。そういう意味では僕は素養はたぶん低いのに、その割には、早かったほうかな”
“へぇー”
“あとは、僕は発動具なしでも魔法はつかえるようだよ”
“そうなんだ。あのブライトンとかいう男爵は発動具がないと、発動しにくいと言ってたが”
“ハドリー王国の魔法使いの遺品の発動具で試してみたけど、差は無かったよ。僕は魔獣だからかもしれないね”
“そういえば、神聖魔法はどうなんだろ。俺は使ってなかったな”
“アニスの記憶によると、発動具というか、聖印の刻まれたお守りが必須なはずだね。ということは、真理魔法で杖が要らないのは君も同じかもしれない。でも逆に気をつけないといけないな。不審に思われる”
“そうだな。ああ、今気がついたが、顕現したままということは、神聖魔法とか色々ナシか、今まではそうだったとは言え、心配だな”
“それは仕方ないね。まぁ、今後は長期の顕現はより慎重に考えないとダメか。とりあえず気になることはあと1月で終えておくようにするよ”
“ああ、頼む”
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2日後の朝、マートはアレクシアと別れ、約束どおり王都の西門でジュディたちの馬車が来るのを待った。ほとんどの荷物は背中のマジックバッグに入っているので、あとは弓と小剣、水筒と、見た目はかなりの軽装だ。
そして、そこにやってきたジュディの馬車は以前と同じものだったので、マートにはすぐわかった。御者のジョンに軽く手を振ると、馬車は、マートのいるところに留まった。そして、その横には騎士らしき男達が2騎、それぞれ白と黒のりっぱな軍馬に乗って護衛していた。
その2人の騎士は馬車のドアが開くと、馬から飛び降り、扉の所でお辞儀をする。そして、出てきたジュディの手をとってサポートするのだった。
「おまたせ、猫」
「よう、お嬢。今日は天気が良くてよかった…」
と、そうマートが話しかけたところで、騎士の2人は腰の剣を抜きかからんばかりの勢いで、2人の間に立ちふさがった。
「伯爵令嬢たるジュディ様になんという口の利き方」
「平民風情が、跪け」
「おっと……」
2人の騎士の剣幕に、思わずマートは一歩飛びのいた。ジュディも当惑したような顔をしている。
「お待ちください、オズワルト様、アズワルト様。彼とジュディお嬢様はお友達なのです。一般の方と同じように対応されては、ジュディお嬢様も困られます」
ジュディに続いて馬車から降りてきたクララが、騎士2人にそう言った。オズワルトとアズワルトというのか。よく似た名前だ。
「しかし、クララ殿」
「他の者に示しが……」
2人はそう呟いたが、クララが彼らを掻き分けるようにして、マートをジュディの近くに招く。
「猫、よろしくお願いね」
ジュディがそういうと、マートは頷いた。
「ああ、わかった。もちろんだ。というわけで、俺はマート。冒険者ランクBの斥候だ。あと、精霊魔法を使う。口は悪いのは申し訳ないがそういう生まれなので勘弁してくれ。オズワルトとアズワルト、よろしく頼む」
騎士2人は黙っているので、クララが仕方なくという感じで紹介した。
「オズワルト・グールド、アズワルト・グールド。2人は実は双子なの。普段は王都でジュディ様の父上であるアレクサンダー伯爵の警護をしていて、2人共、剣の腕前はシェリーにも劣らないぐらいね」
「へぇ、シェリーと同じぐらいとは凄いな」
マートの言葉に、2人は目を見開いた。
「ああ、シェリーは騎士団で姫騎士と呼ばれて一部崇拝までされてるらしいわ。2人共マートとは仲良くしておいたほうが良いわよ。猫は彼女とも仲が良いんだから、仲良くしてたらお近づきになれるかもよ。この2人はつい2、3日前まで3ヶ月も一緒に旅をしてたんだしね」
「ちょっと、クララ、何か言い方変じゃないか?3ヶ月は仕事だったんだから仕方ないだろう」
「シェリーはマート殿には全てを委ねられるって言ってたらしいじゃない」
「また、紛らわしい事を」
「じゃぁ、猫、馬車に乗るでしょ?水の救護人の話も聞きたいのよ」
ジュディがそう言った。
「わかった、どうせ王都付近だと平和だろ。調べてきたこともあるし、馬車の中で詳しい事を詰めよう」
ジュディと、クララ、マートの3人は馬車に乗り込んだ。御者のジョンが馬車を動かし始めると、騎士2人は慌てて自分の馬に乗り馬車と並行するように馬を走らせ始めたのだった。
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