77 調査隊の仕事
2020.9.3 誤字訂正)ラシュビー → ラシュピー
2020.9.27 最後のセリフを誰が喋ったか書き足しました。
翌朝、ライナス、ブライトンは調査隊の主だったメンバーを兵舎の一番大きな会議室に集めた。
「……以上がラシュピー帝国側の説明だ。オーガやオークの他、トロールも出没しているようだ。北側では稀にキマイラやワイバーンといった魔獣も出没するらしい。協力を依頼された地域を定期的に巡回するとなると、240騎1200人、2個大隊ぐらいは必要と考えなければならんな。交代要員も考えるとそれ以上か」
「何か質問や意見があるものは?」
ブライトンはそう説明した後、メンバーの顔を順番に見、最後にマートの顔をじっと見た。
マートは考え込むようなそぶりをして、机に視線を移し、その横で、シェリーが手を上げた。
「急激な数値の変化が見られるというわけではないのでしょうか?」
「うむ、あくまで徐々に増加してきたという説明だ。そういう意味では予言である邪悪な龍が目覚め、それによって急に増えたという事実は無さそうである」
ライナスはそう答え、他の貴族領から参加していた騎士たちは安堵のため息をついた。
「あくまで兆候が見えないというだけだ。安心するにはまだ早いだろう」
ブライトンは周りを見回しながらそう言い、言葉を続けた。
「我々は2週間の期間をかけて、見落としている点がないかなどを調査してから帰還の途に着く予定と考えている。滞在期間中に帝国より依頼があれば、その助力もするつもりだ。何か気がついた事があれば、些細な事でも良いので報告してもらいたい。話は以上だ」
会議が終わり、部屋に帰ろうとしたマートたちはブライトンに呼び止められた。
「少し意見を聞きたいんだ。後で部屋にきて欲しい」
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「シェリー殿、猫君やアレクシア君は実は冒険者なのだろう?」
「え、その、それは」
「私はシェリー様の従士ですよ」
シェリーが言葉に詰まっているので、とりあえずマートは否定をしたが、ブライトンは首を振った。シェリーは真っすぐすぎて、嘘やごまかしというのは下手すぎる。その横でアレクシアは苦笑を浮かべた。
「まぁ、それについて問いただす気は無いよ。ただ、今の状況について、冒険者ならではの視点で気付いた点を教えてもらいたいんだ。昨日も兵舎に到着してから君たち2人は市場に出かけていたらしいじゃないか」
ブライトンはそう尋ねた。
「たいしたことではないですよ。物資の補充と、あとは掘出し物でもないかなとうろうろしてただけです。西方生物図鑑は見つけましたが、それ以外はたいしたものは見つけれませんでした」
「気づいた事はあっただろう?」
ブライトンはアレクシアの方を見た。アレクシアが言葉に詰まっているのでマートが助け舟を出した。
「彼女は貴族の方とはあまり喋ったことが無いのです。少々言葉遣いがおかしくてもお許しください」
「ああ、ぜんぜんかまわんよ」
そう言われて、アレクシアはようやく話し出した。
「物の値段が恐ろしく高いです。羊肉や豚肉とかは王都に比べて10倍以上しますね。小麦はまだマシですが、それでも5倍ぐらいで、パンは丸い小さいのが1つで1銀貨もしたんです。服などは中古なら2倍ほどでありましたが、新品は全然出回っていません」
「そんなにか」
「冒険者ギルドでの薬草の買取値は2倍以上になっていましたが、それでも納品量は微々たるものらしいです。街の外に行く護衛の相場は日帰りで1金貨、ランクA以上だそうです」
ブライトンはそこまで聞いて言葉に詰まった。
アレクシアの話に、マートが続けた。
「という所で、騎士団はともかく、この都市に住む一般の連中はそろそろ逃げ出そうかと考えてるのも多いみたいです。とても暮らして行けないと思っている人がかなりいます」
「なるほどな。足元から崩れ始めているわけだ」
「都市の南側に蛮族が頻繁に出没し始めたのはここ3年前ぐらいからだそうです。東の内海の海岸沿いに入ってきてるんじゃないかという噂はありました」
「東の内海というと、ラシュピー帝国の東側の海のことだね。山脈は当然そのあたりで途切れているわけだ」
「はい。ですが、あくまで噂です」
「猫君、君はどう思う?率直な意見を聞かせてくれ」
「ここ数年でこの城塞都市より南側に蛮族の居住地ができている可能性が高いと思います。もしかしたら東西に連なる山脈のなかで北側から南側に抜けてくる道ができているかもしれません」
「君ならその居住地を探せると思うかね」
「難しいでしょうが、探す価値はあると思います。いくつあるかわからないので、それに関しては、冒険者ギルドに積極的に懸賞金を出して情報を集めるのも一つの方法だと思います」
「ふむ、わかった。まずは一つ探すのに協力してくれないか。その結果を基に帝国にも意見を具申してみることにしよう」
マートはそう言われてシェリーの方を見た。
「どうかな?シェリー殿」
ブライトンは改めてシェリーに尋ねた。
「もちろん、かまわないぞ」
シェリーは当たり前のことのように頷いた。マートはああ、駆け引きは彼女には難しい事だったなと思ったのだった。
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