66 ニーナの発見
2020.9.23 半時間→30分
“これは、船だよね。帆柱がないけど……。全長は25mぐらいはあるのかな?”
ニーナがそう魔剣に尋ねたのは、海辺の家から、海岸沿いに1キロ程下って見つけた、岩場をおそらくくり抜いて作ったと思われる洞窟の中だった。入口は岩で塞がれていたので、エバたちにはわからなかったのだろう。
その船は水のない船着き場のようなところで、台座の上にカバーのようなものが被せられ、固定されていた。
“ああ、そうじゃな。おそらく魔道具で水の中を進めるようになっておるのじゃろう。あと、どこかのスイッチで水の中に降ろすか、船のあるあたりまで水が来るような仕組みがあるのじゃろうな”
“魔道具か……昔はすごく魔道具が進化してたんだね。魔剣さんも、その頃造られたのかな?”
“ああ、儂が作られたのはピール王国歴で394年じゃった。だが、今がピール王国歴で何年になるのかがわからぬ”
“ピール王国歴というと、たしか、昨日、魔剣さんに言葉を習いながら読んでいた日記の日付けはたぶんピール王国歴だろうってことだったね。たしか、321年…あのウィシャート渓谷にあった遺跡は魔剣さんが作られた年より70年以上さかのぼるってことになるな”
“ピール王国というのは、特に魔道具が盛んな王国じゃった。じゃが、魔道具でいろんなことができるという事に慣れ、人々は努力を怠ってしまったのじゃ。儂なぞはその証明みたいなものじゃな”
“どういうこと?”
“様々な事を憶えたりという事の代わりが出来る様に儂をつくったのじゃ”
“ああ、なるほどね。マートが持ってる魔法のドアノブもその時代の産物?”
“可能性は高いが、なんとも言えぬ。儂の知る限り、ピール王国が魔道具技術が絶頂期を迎えたのは王国歴100年前後の頃で、その頃には儂も知らぬような魔道具が沢山つくられておった”
ニーナは、船の中に乗り込んだ。船の幅はおおよそ6m程で、屋根がある部分の中にはテーブルとそれを囲む様にソファ、そして前向きに椅子が一つあり、その横に船底の方に下りる階段がある。船尾には屋根はないが、少し高くなっておりゆったりとした椅子が2つ置かれていた。放置されて長い間が経っているはずだが、ほとんど損傷しておらず、今すぐにでも使えそうだ。
“おそらく、被せられていたカバーが虫や経年劣化から防いで居ったんじゃろうな。あとで戻しておくのじゃぞ”
“ああ、わかったよ”
前を向く椅子の近くの壁には、一枚の地図と思われるものが貼ってあった。そこには、下の端にこの島と思われるものが描かれており、そこから上にいくつかの島、そして地図の上端あたりには陸地が描かれていた。
“へぇ、空から見たこの島の形はほぼ、この通りだね。ということは、こっち方面に陸地があるってことか”
ニーナは北の方角を見た。
“問題は、どれぐらいの距離かってことだけど、それは解らないな。飛行スキルの上限がマートの状態でみると、たしか☆4つになってたんだ。それを試す意味でも、飛んでみることにしようか”
“そうすれば、この島がどこにあるのか分かるのう”
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ニーナが飛び始めておよそ2時間。はるか北に小さな岩礁が見え始め、それは徐々に大きくなってゆき、その岩礁の上に、羽根の生えた何体かの人魚のようなモンスターが見え始めた。
“あれは、セイレーンかの”
マートから借りた魔剣が、ニーナにそう呟いた。
“そうかもね、彼女たちがいるから、あの島のほうに船は行かないのかも?”
“そうじゃな、ならば、刺激せず迂回してゆくのがよいかもしれんぞ”
“うん、そうするよ”
そうして、さらに2時間ほど飛んだニーナは、大陸の端に、上陸したのだった。
“地図はあってたってことか。全力で飛んで4時間ってことは100キロほどかな?ここは、一体どこなんだろうね。マート達が居るワイズ聖王国に近いと良いんだけど”
“もし、そうならそなたはライラ姫として問題になるぞ”
“そんなに王女を間近で見た人なんて居ないだろ。お偉いさんにみつからなければ大丈夫さ”
ニーナはそう言いながらも、少し気になったのか髪を後ろで束ね、ポニーテールにし、顔には土を塗ってわざと汚した。
“どちらにしても、そなたは少し歩くだけで、注目を浴びる程姿形が整っておる。気を付けた方が良いぞ”
“そうだね。あまり目立たないように気を付けよう。とりあえず場所が判ればさっさと帰ることにするよ。スキルの実験は帰り道にしよう。彼がマクギガンの街に着くまでに魔剣を返さないといけないしね”
“うむ、そうじゃな”
ニーナが上陸した大陸の端に、ゴブリンやオークといった蛮族の集落はあったものの、人間の姿はまるで見当たらなかった。彼女はさらに飛行スキルを使って2時間程北上し、ようやく集落を見つけたのだった。
“あんな規模の集落じゃ、詮索が激しいだろう。少なくとも町、できれば街か都市をめざさないとね。でも、道がみつかってよかった。道沿いにすすもう”
ニーナは細い道をたどりながら北上を続けた。30分程飛行すると、村よりも少し大きなおそらく町と呼べるほどの規模の集落が見えてきたが、そこは一旦スルーし、さらに北上を続け、ようやく街らしきところに到着したのだった。
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