64 暗殺者メイド
「アゼルがメイドにやられた?!」
マートはランス卿の補佐官と配下の騎士たちにそう言って、馬から飛び降りた。
「なんだと?あのメイドは暗殺者としての訓練を積んでいたというのか。いかん、行くぞ」
「男が林の影に居る。気をつけろ」
ランス卿の補佐官と配下の騎士たちは馬を勢いよく走らせ始めた。メイドとの距離が一気に縮まる。そのすぐ後ろをマートが全力で駆ける。
『麻痺』
林の影の男が立ち上がり、呪文を唱えた。4人の乗騎が急に制御できなくなり動きが止まる。補佐官たちは慌てて馬から飛び降り、剣を抜いた。
「くそっ、魔法使いだと。いや、行くしかない。負けるな、行くぞ」
マートはその横を駆け抜ける。補佐官と騎士たちもマートを追いかけた。
「うはは、5人程度では話にならんぞ。諦めろっ」
『眠り』
補佐官と騎士は、その場に崩れ落ちたが、マートは眠らずに走り続けた。背中の小剣を抜き、男に殴りかかろうとするが、メイドが間に割って入った。
「なぜ効かぬ。俺は★が4つの魔術師じゃぞ」
マートの剣をメイドが受ける。剣の腕はメイドとマートはほぼ互角に見えた。
「しらねぇよ。お前さんの魔法が大したことねえんだろ」
マートはメイドの剣の腕が自分と同じぐらいか、すこし上であることに内心焦り、後退しながら防御し、隙をみて礫を補佐官に対して投げる。
その衝撃で補佐官のほうが、目を覚ました。
「おのれ、しぶとい」
再詠唱時間が過ぎたのか、魔法使いの男がマートと補佐官に向けて魔法を撃つ。
『麻痺』
補佐官の身体は痺れ、立ち上がろうとした姿勢のまま、ゆっくりとしか動けなくなった。だが、マートにはまた効果がない。だが、助勢が無い状態で、このままでは耐え切れない。
マートは、メイドと剣で切り結びながら、無言でスキルと呪術を続けざまに使う。
【毒針】
『毒』
「くそっ、何をした…?」
男はそう呟きながら、何か呪文を唱えようとしたが、その場にひざをついた。女も同様だ。
マートの剣が、女の首筋を刎ねた。血しぶきが吹き上がる。
「!!」
男は悔しそうな声を上げたが、身体はうごかないようだ。女の姿が歪んだが、それに気を取られているわけにはいかない。マートはさらに一歩踏み込んで、男の首筋も刎ねた。
「悪いな、生かして捕らえるほどの余裕はなかったんだ。たまたま魔法が効かなかったことを恨んでくれよ」
マートはそう言って、剣の血を拭って、鞘に納める。魔法使いは息絶えた。彼の周りに様々な道具類が出現して転がった。女の姿は、壮年の男の姿に変わっていた。補佐官の麻痺はマートにはどうしようもないので、眠りの呪文で倒れた騎士たちを起こす。彼らはすぐに目を覚ました。
マート自身は倒れたアゼルの方に向かいながら、状況を説明した、補佐官は身体は麻痺していて、言葉にもろれつが回らない様子だったが、マートの言葉に頷いた。
アゼルのほうは、マートの見たところ、まだ死んではいなかった。だが、解毒剤を飲ませようとして、口に含ませても飲み込もうとしない。
彼は左手のウェイヴィの文様に触れ彼女を呼び出した。
「ウェイヴィ、彼の毒を消せないか?」
召喚に応じて、ウェイヴィが姿を現した。衣服をまとった姿だ。
「浄化は、基本的には液体にたいしてなんだけど……試してみるわね」
・・・
マートも彼女と同じようにアゼルの横に膝をついた。彼女から念話がつたわってくる。
“体の中を浄化するには、本来の生体としての抵抗が強すぎるわ、私とあなたのような関係があれば別だけど、他の人には無理ね”
“毒呪文があるからできそうに思ったんだが、無理なのか”
“量が違いすぎるわ。毒呪文で解毒薬を体内に入れれないの?”
“解毒薬...毒を摂取すればできるかもだな。ただ、毒呪文は熟練度が低すぎる。できるとしたら毒針スキルのほうだ。試してみる”
彼は、アゼルの手をとり、注ぎ込まれた毒針の跡を探した。緑色の液体が傷口に少し残っている。彼は迷わずそこに口をつけた。
“くっ、痺れる”
“浄化するわ”
『浄化』
“ウェイヴィ、ありがとう。おっけ、出来そうだ”
【毒針】
彼は無言でスキルを使い、解毒薬をアゼルに打ち込んだ。すこし顔色に赤味がさしたような気がするが、すぐには目を醒まさない。
「一応、解毒はしたがどこまで有効かわからない。急いで神官の居るところに連れて行ってくれ。補佐官はもう動けそうか?」
ウェイヴィを往還して、マートは騎士たちにそういった。補佐官はまだ動きがぎこちないが、馬には乗れそうな様子である。
「アゼル様をつれて、私と騎士1人は先に戻る。ここに馬車をまわすので、マートと騎士2人は死体2つと彼らの所持品を木の下に集めてそれまでここで待っていてくれ」
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